繰り返す
歩きながら手持ちのペットボトルを呷った瞬間、それが見えた。
飛び降りだ。
丁度持ち上げた俺の視界を上から下へ真っ直ぐに通り抜け、濡れたものを力一杯叩きつけたような音で路面に潰れた。
即座に、警察、と思った。
救急車が必要ないのは一目で分かった。
それでも動転していたのだろう。俺は携帯電話の存在を全く思い出せずに、そのまま近くの派出所まで走った。
居合わせた警官は、随分と煮え切らなかった。
気の乗らない様子を隠そうともせず、「多分特殊な事例でねぇ」「きっと問題ないですよ」などとぼやき続けている。
人が死んでいるというのに問題がないわけがない。
半ば引きずるように現場に戻って、俺は愕然とした。
何もない。
死体どころか、血の痕の一滴すらも見当たらなかった。飛び降りの痕跡は跡形もなく失せている
。
「繰り返してるんですよ、去年から」
茫然と振り向く俺に、噛んで含めるように警官は言う。
「ずっと。ここで」
「──」
一瞬呑まれかけたが、そんな馬鹿な事があるはずがない。
抗弁しようと息を吸った俺の背後で音がした。それは濡れたものを力一杯、アスファルトに叩きつける音だった。
「ね?」
肩を竦めて警官は首を振った。
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