作り話じゃなかったの?



 市田は男を殺した女をかばっていた。


 店を出たあと、駒井が小首を傾げて言う。


「僕、その女性とも話してるんですよ。

 何故、ピンと来なかったんですかね?」


「それはおそらく、罪の意識がないからですよ」


 鳴海が送ってくれると言うので、駐車場の車のところまで歩きながら晶生は言った。


「悪い男を殺しただけだから、自分は悪くない、みたいな?


 ……いっそ、羨ましいですね」


 そんな風に割り切ってみたいものだと晶生は思う。


 だが、駒井は納得がいかないようで、え~っ? と眉をひそめていた。


「そんなのおかしいですよ。

 だって、市田さんは犯行現場を見て黙ってただけなのに、あんなに罪の意識を感じてるのに」


「人それぞれってことですかね?


 でも、市田さんはその女性がお好きみたいなので。


 彼女のためにかばってるんだから悪くない、と市田さんも思われていたら、駒井さんにはわからなかったってことですよね」


 駒井さん的には完全犯罪ですね~、と晶生はちょっと笑った。


「そうだ。

 市田さんが行く前に、管轄の署に事件の経緯いきさつを連絡しとかないといけませんね」


 そう鳴海に言われて、駒井と二人、ハッとする。


「……そういえば、みなさん、この事件とは関係ない署でしたね」


 ははは、と晶生は笑った。




「もう~、あんたってすぐ事件を呼んでくるんだから~」


 その後、事務所で堺に事件の顛末を話すとそう言われた。


「で、その市田さんって、ほんとうに呪われてはいないのよね?」


「市田さんは呪われてないですよ。

 事件のことを黙っているという罪の意識から、注意散漫になって物を無くしたりしていただけです。


 そんな市田さんを心配して、彼のおばあさんらしき人が、私にいろいろ教えてくれたんですよ。


 市田さんが大事なボールペンを無くしたこととか。


 あ、ちなみに逮捕前に犯人の方を見に行ったんですけど。

 彼女の方は呪われてました」


「でも、その『生贄を捧げたら、呪われる』はあんたの作り話なんでしょ?」


「そうなんですよ。

 でも、呪われてたんで――


 もしかしたら、生贄が気に入らなかったのかもしれませんね。


 ああいうのってほら、穢れなき美女とかじゃないといけないんじゃないですか?」


「じゃあ、あんたも駄目ね」

と堺は余計なことを言う。


「まあ、あの人、しばらくは呪われててもいいかもしれませんね。

 あんな人のいい市田さんに自分の犯罪を黙っとけと言った罪で。


 ああ一応、呪いの解除の方法は教えときましたけど」


「どうやって解くの?」





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