見えてないから、意味ないだろうが……


 撤収が始まる前に、堀田から電話してきた。


 鳴海刑事から、犯人を名乗る女が自首してきたと連絡があったと。


「北風と太陽ですね~」

と晶生は言った。


「霊が呪ってると言ったんじゃ、出てこなかったかもしれないので。

 あそこで泣いて見せた日向はやはり、正しかったですね」


 だが、日向は、

「なに言ってんのよ。

 あんたが笹井さんに言わせたセリフが効いたんでしょ。


 ……そもそも私はあんたがああいう展開にしたいんじゃないかなと思ってやっただけだから」

と素っ気なく言う。


 口調も態度も、はすっぱになったが、中身はやっぱり昔とそう変わってないな、と晶生が思ったとき、堺がスツールの方を見ながら訊いてきた。


「でも、あの男、ほんとに死んでるの?

 生き霊だったら、騙されたっ! って、犯人、言ってこないかしら」


「いや、刺したことには変わりないですから」


 相手が生きてようが、死んでようが。

 人を殺そうとしたという罪の意識には変わりはないだろう、と思いながら、晶生は窓の外に居るであろうタナカ イチロウの方を窺う。


 いや、お前は、刺したんじゃなくて、突き落としたんだろうが……と言われそうだったが。


 そのとき、汀がこちらを見ていることに気がついた。


「なに?


 ……いや、なんですか? 社長」

と言いかえると、


「お前、そういうとこ、堺と似てるな」


 すっと敬語を使え、と怒られる。


「やだっ。

 今、私と晶生が似てるって言ったっ?」

とはしゃぐ堺から離れ、晶生は撤収の準備をしているスタッフの方に行こうとしたと日向の肩を叩いて言う。


「お疲れ。

 ありがと、日向。


 助かった。

 っていうか、ほんと見直した」


 日向は、

「そうねえ。

 腕が鈍ってるあんたよりは女優としてもいけると思うわよ」

と笑って見せる。


「ま、モデルとしては元々上だけどね」

と腕組みをする感じで、胸を寄せて、グラビア的ポーズをとってみせる。


 背後に立っていた沐生が呟くように言ってきた。


「お前が上とか下とか以前に、そのポーズを晶生がやるのは、そもそも無理がある気がするが」


 いろんな意味で、と余計なことを言う。


 死霊か生き霊か確かめそびれた男の霊はまだ、スツールに座っていた。


 ママたちはそのスツールから距離を取り、怯えたように笹井を見上げて訊いていた。


「まだその霊、此処に居るんですか?」

「祓ってください、笹井さん」


 えーと、と困ったように笹井がこちらを振り向く。


 目はあまり見えていない設定なのに、その振り向き方どうなんだ、と思いながら、晶生はママさんたちに言った。


「その霊、いつ此処から離れるかわからないんですけど。

 特に害はないので、もう少し物想いにふけらせてあげてください」


 でも……と困った顔をするママに晶生は言った。


「結構なイケメンの霊ですよ」


「いや、イケメンだろうが、なんだろうが、見えてなかったら意味ないだろうが」

と沐生に言われてしまったが。






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