じゃあ、やめとけよ



 何故、堺を刺した犯人の殺意が薄いと思ったのかと堀田に問われた晶生は、

「堺さんの緊迫感のなさからそう思っただけです」

と答えた。


 だが、堀田は、堺を見、

「こいつは、いつも緊迫感なさそうだが」

と言ってくる。


「そうなんですけど。

 でも、私なら――」


 私なら? とそこで言葉を切った晶生を、堀田たちが見た。


 この行き交う人の中に、実は犯人が潜んで居たりするのだろうか、とぼんやり廊下を見ながら晶生は言う。


「私なら、あの状況で堺さんを逃がしません。

 まだれる状況にあったはずです。


 気づいた堀田さんが駆けつけるまで時間がありましたよね。


 堺さんを守ろうとした汀は既に刺されてた。


 周囲に人影はまだない。


 私なら、逃げずに、堺さんを殺します」


「……なにげにお前が一番怖いんだが」


 いつも凶悪犯と対峙しているのであろう堀田さんに言われてしまった……と思いながらも、


「あ、そうだ、堀田さん。

 石塚南央さんには、彼氏が居たらしいですよ。


 逆さにして振るといろいろと思い出す篠塚さんが思い出してくれたんです」

と晶生が言うと、


「そうらしいな」

と渋い顔をして、堀田は言った。


「石塚は真田の件以外は、ただの目撃者なんで、そんなに突っ込んでは調査できなかったんだが。

 どうも結婚を考えている男が居たようだ」


 林田がさっき調べてきてくれた、と言う。


 いやいや、と堀田に名前を出されて、林田は、ちょっと嬉しそうだった。


 だが、ただの目撃者のはずなのに、調べたということは、堀田たちもやはり、石塚南央のことがなにか引っかかっているということだ。


 私も引っかかる、と思いながら、晶生は先程からの疑問を口にした。


「しかし、結婚を考えてる人が居るのに、コンパに行きますかね?」


 すると、堺が、

「やだーっ。

 もう、晶生ったら、ピュアなんだからー」

と口を挟んでくる。


「でも、人間、そんなにピュアじゃなくていいのよ、晶生。

 途中で相手を選びかえてもいいの。


 最初の人が運命の相手って訳じゃないんだから」

と言いながら、手を握ってきた。


 いや、何故今、そんな話に……と思いながら、晶生は振りほどいて揉めるのもめんどくさいので、手を握られたまま、堀田を振り向いた。


「そうだ、堀田さん。

 篠塚さん、大学構内でも、ずっと誰かにつけられてた気がするとおっしゃってるんですが」

と言いながら、完全に堺に上に乗られた形になっている篠塚を見た。


 だったら、退けばいいのに、そこから動く気はないようだった。


 この人もいろいろと気にしない人だな、と思いながら、堀田に言う。


「確認してください、田所さんに。

 大学構内までつけていたかどうか」


「今更、そんなこと調べてなんになる?

 犯人は田所なんだろう?」


 まあ、確かに、そこは殺された篠塚が言っているので揺らがないとは思うのだが。


 石塚南央が凛を見て、ビクついたときから、なにか気になっていた。


 すると、篠塚はやはり、石塚南央と知り合いだと言う。


 どうにもなにかが引っかかってしょうがない。


「そうなんですけど。

 気になるんですよ。


 えーと……」


 刑事の勘です、とか言うべきシーンだが、刑事は私ではない、と思った晶生は、

「た……探偵の勘です」

と言って、堀田に、


「言いたくないんなら言うなよ」

とあっさり言われてしまった。




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