走馬灯は勘弁したいが……

 


 晶生たちが出たあと、堀田たちが帰ろうとしたので、汀は、

「すみません。

 堺が車に戻るまで付いててやってくれませんか」

と彼らに言った。


 あら、なによ、という顔をして、堺が汀を見る。


「いや、晶生は犯人の殺意が薄いようなことを言っていたが、やはり、気になるからな」

と汀が言うと、


「気を使ってもらって、すみませんね、社長様」

と堺は言ってきた。


「社員の健康管理も会社としては大事だろ」

と言うと、堺が、


「健康管理?」

と訊き返してくる。


「刺されたら、健康を損なうだろうが」


「あんたんとこの社長は素直じゃないな」

と堀田が堺に言い、林田は、


「いい社長さんですね」

と笑っていた。


 いい社長かな?

 いや、そんなこともないな、と思いながら、汀は布団にもぐる。


「じゃあね、いい子にしててくださいよ、社長。

 あとでまた誰かこちらにやりますから」

と言って堺も出て行ったようだった。


 静かになった病室の中、刺されてからのことを思い出していた。


 真っ先に晶生を呼べと言ってしまったことを。


 やはり、俺はずっと心の何処かで引っかかっていたのか、あのことが――。


 真っ暗な布団の中で目を開け、汀は考える。


 この状況で、走馬灯とか勘弁したいが、昔のことを少し、思い出していた。






 病室から出て、一階のロビーに下りた堀田は、まだ、壁際のソファに晶生たちが座っていることに気づいた。


 晶生は、沐生の居ない方に向かい、なにか話している。


 おそらく、そこに篠塚が居るのだろう。


 特に認めたくはないのだが。


「……おい」

と堀田は前に立ち、声をかけた。


「せめて、お前が顔向けてる方に長谷川……」

と言いかけ、沐生の名前を此処で出さない方がいいかと思う。


 ロビーにはたくさんの人が行き交っていたからだ。


「そいつを座らせろよ。

 おかしな奴かと思われるだろ」


 まあ、元からおかしいが、と付け加えながら言うと、堺が、いそいそと晶生の向かいに少し距離を空けて座り、


「私が座るわ。

 見つめてー、晶生ー」

といつものテンションで言い出した。


 とても、先程、刺されかけた人間とは思えない。


 晶生が振り返り、眉をひそめて、堺に言った。


「……いいから、もう帰った方がいいですよ、堺さん。

 貴方が狙われているのかもしれないのに」


「そのことだが、須藤晶生。

 お前、こいつを刺した犯人の殺意が薄いんじゃないかと言ったそうだな」


「殺意もなしに刺されちゃたまんないんですけどねー」

と堺は言う。



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