真面目に分析しないでください



 石塚南央と篠塚は何処で接点があったんだろうな、と思いながら、晶生と沐生は、堀田たちより先に、汀が入院しているという病院へと向かった。


 いや、正確には、篠塚と晶生と沐生で、だが。


「なんでついてくるんですか……」

と晶生が篠塚に言うと、


「いやあ、移動の仕方がよくわからなくて」

と言うが、本当だろうか。


 死んで初めて、外の世界に興味を持ったので、ただ、いろいろと見て歩きたいだけのような気もするのだが。


 まあ、いいか、と思いながら、晶生は病室の戸を開ける。


 社長なのに、普通の部屋に居ると思ったら、特別室が空いてなかったようだった。


 狭い部屋の中、堺がベッドの横の椅子に座り、スマホで電話しながら、汀のスケジュール調整をしている。


「そうなんですよー。

 刺されたとか、今まで、どんな悪事を働いてたのかって感じですよねーっ」

と笑って言う堺に、汀が、


「やかましいっ。

 っていうか、狙われてたの、お前だろっ」

と怒鳴っていた。


「なによ。

 あんたのためにやってやってんでしょーっ」

と汀と堺が揉めるのを一緒に戸口から見ていた篠塚が、


「芸能界とはフランクなところですね。

 社長をあんたとか言って、怒鳴ってもいいんですね」

と大真面目に問うてきた。


 いや……、いいわけないですが。


 だが、ぎゃあぎゃあ怒鳴り合ってはいるが、堺が此処に残って、汀のスケジュール調整をやっているのも感謝のあかしではあるのだろう。


「どんな悪事を、か」

と篠塚が呟く。


「僕も悪事を働いてたから、殺されたんでしょうね」


 そうですね。

 悪意はなくとも、二股はまずいですよね。


 そして、今、本当に、二股だけだったのか、気になっているんですが。


 その罪の意識のない感じに、と晶生は思っていた。


「あら、晶生、来たの?」

とこちらに気づいた堺が手を振る。


 ベッドの陰になっているので、よく見えないが、あの土下座の霊は居ない気がした。


 どういう法則性なんだろうな、と思っていると、なにを見ているのか、まっすぐ正面を見て、篠塚が言ってきた。


「そういえば、時折、僕をつけてる人影がありましたよ。

 田所さんかと思ってたんですが。


 大学構内でもあった気がします。

 田所さん、あんなところにまで入ってこないですよね」


「えっ? それ、警察に言いました?」

と思わず訊いて、こちらを振り向いた篠塚に、


「殺されたあとに言えるわけないじゃないですか」

と言われる。


 ごもっともです……。


 怪我させられたとかなら、あとから言えるが、死んでしまってはなにも言えない。


 二股のことに関して、弁解したいことがあっても、なにも言えないよな。


 ま、特にはなさそうだが、と思ったとき、マジマジと自分を見た篠塚が言ってきた。


「貴女は賢そうに見えて、時折、すごく莫迦なことを言いますよね。

 まあ、それも可愛らしいと感じる人も居るのでしょうが。

 この人とか」

と黙って後ろで聞いていた沐生を手で示したあとで、おや? という顔をする。


「この人、何処かで見たことありますね」


 映画とかで、と言う篠塚に、

「今ですか……」

と呟く。


 っていうか、真面目に分析しないでください、と思っていた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る