どんな有能マネージャーだ




 人を殺さなくて済むことがいいことだとは思えない。


 気持ちの持って行き場がなくなるからだ。


 だからって、ほんとに殺すとあとが大変だしな、私のように、と思いながら、晶生は、いつものように学校に向かっていた。


 いや、いつものようにではないか、と思う。


 今日は沐生が居たので、ついでに車で送ってくれたのだ。


「車はどっか置いてくの?」

と晶生は訊いた。


 沐生は、今日は鎌倉にロケに行くのだと言う。

 ロケバスが出るので、そちらに乗り換えるようだが。


「いいなあ、鎌倉」

と呟くと、


「今度行ってみるか」

と言ってくる。


 なに普通のカップルみたいなこと言ってんの、と思って、赤くなってしまった。


 そのとき、堺から沐生のスマホに電話がかかってきた。


 沐生がスピーカーにしろというので、晶生は自分はしゃべらずに、静かに電話を取り、スピーカーに切り替えてみた。


 自分が沐生と一緒に居ると知れたら、いろいろとうるさいからだ。


『もう鎌倉に着いた?』


 スマホから堺の声が聞こえてくる。


「着いてるわけないだろ。

 時間変更になったじゃないか。


 把握してろよ、マネージャー」

と二人は揉め始めた。


 汀に言われたので、自分も付いていくから、今からロケバスに向かうという堺に、沐生は、付いて来なくていい、と言っている。


 本当に有能なのだろうか、このマネージャーと思いながら、外を見た晶生は、遠藤のビルに解体業者らしき人たちが入っていくのを見た。


 もう下見が入っていると遠藤が言っていたな、と思いながら、赤で止まっている車から、そちらを見ていると、

『……晶生が居るわね』

という怨念に満ちた声がスマホのスピーカーから聞こえてきた。


 ひっ、と晶生は息を呑む。


 ひとっこともしゃべってないしっ。


 スマホを持ったまま動いてないのに何故だっ? と思っていると、

『晶生の匂いがするわ……』

と言い出したので、怖すぎるので勝手に切った。


 別に沐生は文句は言わなかった。


 特に話したい感じでもなかったからだろう。


「電源切っとけ」

と言うので、本当に切った。


 仕事の電話が入らないのだろうかなと思ったが、もう沐生の目的地までもすぐだったで、まあ、いいかと思い、そのままにしていた。


 遠藤のビルを振り返りながら晶生は呟く。


「変わっていかないものなんて、なにもないのね」


 チラと沐生はこちらを見たようだったが、すぐに青になったので、車を出した。


 そのままビルの前を通り過ぎる。






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