晶生、俺の推理を聞いてくれ



 行きの車の中、後部座席から、真田が、

「晶生、俺の推理を聞いてくれ」

と言ってきた。


「あの刺された男は、あの路上の女の霊の恋人なんだ。

 彼女は実は、刺した男に殺されていて、その復讐をしようとした男は、自分も同じ男に刺されてしまったんだ」


「堺さん、そこで曲がってください」


「いや……、違うかもしれないな。

 あの女の霊は、刺した男の恋人なんだ。


 刺された男は女を殺した男で、刺した男は女の復讐のために、男を刺したんだ」


「真田くん、どの推理が合ってて、どの推理が違ってるかは、私にもわからないけど。


 ちょっと彼女の霊に同情気味だから、そういう方向性はやめた方が……」


「いや、待てよ。

 そうだ。


 あの女の人は、実は、刺された男の妹で……」


 お願い。

 私の話を聞いてくれ、と晶生はミラー越しに後ろを窺いながら思う。


 直接振り返ろうものなら、肩を掴んで揺すられそうな勢いだったからだ。


 しかも、女の霊に同情気味な推理を繰り広げる真田の横で、土下座している男が、ぶつぶつと謝罪を続けている。


 嫌な後部座席だな……と思いながら、もうそちらは見ないようにした。


 すると、そのとき、堺が少し笑ったように見えた。


「どうしました?」

とまだ、なにか語っている真田を無視し、堺に訊くと、


「いや、ピュアねえと思って」

と堺は笑う。


 どうやら、真田のことを言っているようだった。


「彼なら、あんたの事情を知ったら、思い切り同情気味なストーリーを作り上げてくれることでしょうよ」

と皮肉たっぷりな口調で囁いてくる。


「それを堀田さんたちの前で披露してもらえば、情状酌量の余地もあるかもよ」


「……私が極悪人みたいですね」

と言うと、


「あら?

 違うの?


 あんたは自らの手を汚すことで、沐生を自分に縛りつけて、何処にもいけないようにしているように見えるけど」

と言いながら、堺はチラと道の反対側を見た。


 遠藤のホテルだ。


 周囲の建物と比べると、かなり小さい。


 その年代を感じさせる壁の色を見ながら、雰囲気があっていい、と見るか。


 今にも倒壊してきそうで怖い、と見るか。


 人それぞれだろうな、と思う。


 っていうか、そろそろ行かないとグレるな、遠藤……。


 暇を持て余した遠藤が、迷い込んだ霊の見える浮浪者とかに、なにごとか囁いて事件でも起こさせたら厄介だ、と思ったとき、堺がウィンカーを出して、病院の駐車場に入った。


「あら、あのジイさん、もう居るわよ」


 どうやら、堀田のことらしい。


 なるほど、堀田らしき人影が玄関横に立っている。


 煙草を出したりしまったりしているようだ。


 いや、そこも禁煙だと思いますけど、おまわりさん、と思ったとき、堺の鞄の中で、スマホが鳴り出した。


 車を止めて確認した堺は、

「やあね、汀だわ。

 なんの用かしら」

と言っている。


「いや……仕事に戻れって言うんじゃないですかね?」


 なんの用だか訊くまでもない気がするんだが……と思いながら、電話に出ながら車を降りる堺を見た。







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