第12話 契約
―一方、扉の中へ入ったホーペを待ち受けていたのは、あの黒い影の少年。
「やあ。やっぱりきたんだね。しかも、キミ、ひとりで。」
クスクスと不気味に笑いながら古びた家具が広がる部屋で足を組んで待っていた。
不気味に笑う黒い影の少年に対して、ホーペは無関心だった。
「母さんを助けるためにここに来たんだ。君になんて用なしだ。」
そう告げると、黒い影の少年は、おもしろくなさそうに舌打ちをした。
「動物たちを置いてきておいてナにさ。」
そう吐き捨てると、ホーペに向かって赤く熟れたリンゴを投げた。
足元に転がったリンゴを拾い、ホーペが黒い影の少年をにらむと、黒い影の少年は片手を差し出した。
「契約だよ。」
その言葉にホーペが聞き返すと
「そのリンゴに、今、願っていること、手に入れたいもの、なんでもいい。叶えたいことを念じて食べるんた。そうしたら、その願いが叶う。」
そんなはずあるわけ…、とホーペが口走ったとき
「キミのお父さんも契約したんだ。」
黒い影の少年は、机からトンッと飛び降りて、ホーペに近づく。
「父さんも…?」
ホーペは黒い影の少年の目を見た。
白く濁った色の目に映る自分が弱弱しく見える。
「ただし、契約だよ。キミからも大事なものを受け取らなきゃ成立しない。」
黒い影の少年はホーペの胸を指さした。
「ボクがほしいのは、ホーペ、キミの命だ。」
その言葉を聞いて、ホーペはすかさずリンゴを返そうとした。
「待てよ。全部とは言ってない。ほんのちょっと、半分程度の命でいいのさ。」
―その引き換えに、お母さんに会えるんだ。キミにとっては悪くない話だろ?
と黒い影の少年はホーペに誘いかける。
ホーペは自分の胸に手を当て、鼓動を聞いた。
―すでにホーンに半分あげている自分の命。
―その残った命をさらに、半分。
―その引き換えに、母さんに会えるのなら…
少し考えてホーペは黒い影の少年に向かって強く言った。
「僕の残りの命の半分、それでいいんだね?」
黒い影の少年は、コクリと頷いた。
「ボクがキミの命をもらった後、キミはリンゴを一口たべるといい。そうすれば、キミの思い通りだ。」
黒い影の少年は、ホーペの胸に手を当てると、黒い光でホーペの生気をどんどん吸い取った。
身体の力が抜けていく中、ホーペはリンゴを離さなかった。
「最後にボクの名前を教えてあげるよ。ボクの名前は…」
―サタンだ。
「また、きっと会うことになるだろう。」
その言葉と共に、黒い影の少年は、姿を消し、ホーペは意識を手放した。
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