第11話 黒き者との接触

―バサバサ!!キィイイイイン!!キィィイイン!!


羽音と奇妙な音を鳴らしながら、コウモリの群れは、ホーペたちを黒く大きな屋敷へと招き入れた。


―ギィイイイイ…バタン!


三人が屋敷に入ると、大きな扉が音を立てて閉まった。

一番先に術が解けたのはホーペだった。


「っう…、ここ、は…!!ビオラ!!ホーン!!目を覚ますんだ!!」


まだ術が解けていない二人を必死にゆすった。


「…!?ホーペ!!…あぁ、なんて残酷な…」


術が解けたビオラはヘナヘナとその場に崩れてしまった。


「ビオラ!!まだホーンが!!」


何かをブツブツつぶやきながら、ホーンは屋敷の奥へと歩いていく。

あわててビオラはホーンへ駆け寄り、そして、バシン!とホーンの頬を叩いた。


「痛っ!?って…、あれ…?」


頬を抑えながらホーンは辺りをキョロキョロと見渡した。


「そ、そんなぁ~…」


ホーンまでもその場にへたり込んでしまった。


「あのコウモリたち!許さないんだから!」


プンプンと怒っているビオラにホーペは言った。


「昔、旅を始める前に、ある大きな熊に、コウモリには気を付けなさいって言われたんだ。」


ホーンとビオラがホーペの言葉を聞いて首をかしげた。


―”そりゃあね。その熊も昔、コウモリに操られたからさ”―


どこからともなく声がして、ホーペたちはかまえて辺りを見渡した。


「誰だ!!どこにいる!!」


ホーペが叫ぶと


―”ここにいるよぉ”―


ホーペの足元から黒い影がズズズと伸びあがり、辺り一帯が黒い影に包まれた人形で埋め尽くされた。

クスクス、と不気味な笑い声が響き渡り、ホーペたちは身震いした。


―”きみもどうせあの男といっしょ”―

―”お母さんに会いたいなら”―

―”ぼくたちについてくればいい”―


次々と黒い影の人形がホーペによってたかって袖や裾を引っ張る。


「やめろ!!離せ!!僕は自分の力で母さんに会いに行くんだ!!」


そういって、ホーペは黒い影の人形を次々に追い払った。

すると、今まで小さかった黒い影の人形たちが、ワサワサと集まって一つの大きな人影になった。

それを見たビオラとホーンは驚きの声を上げた。


「ホーペ!」「ホーペだ!」


目の前に現れたのは、ホーペと瓜二つ。いや、ホーペを真っ黒にした、それだけしか違いのない少年の影だった。


―”きみにいいものを見せてあげるよ”―


黒い少年はそういうと、ホーペの胸飾りを指さし、黒い光を放った。

あっという間に胸飾りの大切な羽根は黒く包まれ、もくもくと黒い煙をあげた。


「なんてことするんだ!これは母さんの大事な…」


黒い影の少年の胸ぐらを掴んでホーペが叫ぶと、黒い影の少年はにやりと笑った。


―”今から映る光景が、今のきみの母さんさ”―

―”助けたいなら、まっすぐ奥の部屋に来るといい”―


そういうと黒い影の少年は薄れて消えた。


―”そうそう、きみのお父さんのことも”―


最後に聞こえたその一言にホーペの心は大きく揺らいだ。

そして黒い影の少年が完全に去った後、胸飾りの羽根は大きな煙を変化させた。

そこに映っていたのは、暗い屋敷の牢屋ろうやの中で弱っている母の姿だった。

ホーペは思わず、「母さん!!」と叫んだ。

すると、届いているはずのない声が母に届いたかのように、

「ホーペ!!助けて!!」

と叫ぶ母親が映ったのだ。

お互いが黒い煙越しに手を差し伸べた瞬間、煙はぼわぼわと散ってしまい母親の映像も消え、差し伸べたホーペの手には、粉々になった胸飾りの羽根だけが残っていた。


「そんな…」


ビオラが声をころすようにつぶやいた。


「大切な羽根がこれじゃあ、どうやってホーペのお母さんを探せば…」


ホーンも同じく弱弱しくうなだれた。

ホーペは粉々になった羽根を見つめ、何かを決心したかのように、羽根を握りしめて前へと歩き出した。


「ホーペ!?どこへ行くんだ!?」


ホーンがあわててホーペの前へ立ちふさがると、ビオラも急いでホーンのそばに駆け寄った。


「あの黒い影に会いに行く。」


そう答えたホーペに向かってホーンとビオラは、初めてホーペに反抗した。


「だめよ!絶対騙されているだけだわ!!」

「ビオラの言うとおりだよ!コウモリに騙されたボクに言えた義理じゃないけど…どう考えても信用できない!!」


どうにかホーペを引き留めようと必死に叫ぶが、ホーペは耳を傾けず、前へ前へと進んで行ってしまう。


―まるで何かに導かれているように。


進むホーペの前に、大きな扉が現れ、ホーペは無言でビオラとホーンに見向きもせず入っていった。

続けて、ビオラとホーンも走りこもうとしたとき、扉は黒い煙と共に消えてしまった。


残されたビオラとホーンは身を寄せて悲しみにくれるのであった。

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