第8話 さあ、最北端へ!

「…あ、れ、いつの間にか寝ちゃってたか…」


朝食を終えた後、ホーペはずいぶんと寝入ってしまっていた。


「あ!お寝坊さん、やっと起きた?」


ビオラが食器を片付けながら振り向いた。


「うん、なんだか懐かしい夢を見たよ。」


大きな伸びをしてフゥーと息を吐いた。

食器を片付け終わったビオラが心配そうにホーペの顔を覗き込んだ。


「すごくうなされてたわよ?大丈夫?」


どんな夢見たの?と問いかけてきたビオラにホーペは照れくさそうに


「旅を始めたころから、ビオラとホーペにあったころ、なんだかタイムスリップしてたような気分だよ。」


寝床から起き上がり顔を洗うホーペの姿を見て、ビオラはタオルを持って駆け寄った。

ありがと、とビオラからタオルを受け取り顔を拭くと、ホーペはホーンを探した。


「もう一人の寝坊助さんならあそこよ。」


ビオラは窓辺を指さした。

そこには、夕日を浴びてスヤスヤと眠っているホーンの姿。


「なんだかここ最近やけに穏やかだから、平和ぼけしちゃいそう。」


ビオラが花冠を片手に踊りだすと、ホーペは苦笑した。


「ほんと、このまま平和ならいいのに…」


どうやら、そうはいかないみたいだね。窓辺から見える森の鳥たちがあわただしく羽ばたく姿を見て、ホーペはつぶやいた言葉を消し去るように外へ飛び出した。


ホーペを見るやいなや、森の鳥たちはバサバサとホーペの周りで飛び回り、口々に大変だ!大変だ!と鳴き出した。

飛び出したホーペを追ってきたビオラと、騒ぎを聞きつけ飛び起きてきたホーンが揃うと、鳥たちはさらに鳴き叫んだ。


「人間が!」「人間が来るよ!見つかった!」「狩人だ!きっとそう!」


三人は顔を見合わせて、鳥たちに礼を言うと、それぞれ急いで身支度みじたくを始めた。

次の住処すみかを探す旅へ、そしてその先の最北端へ。

最初のころこそ、ビオラもホーンも不満を口にしたが、ホーペのまっすぐな信念には逆らえなかった。いや、逆らう気すらはなからおきなかった。


「ホーン、ビオラ、忘れ物はないかい?」


ホーペが大きな布袋を持って振り向く。


「ボクはOK!」


フンフンと鼻を鳴らすホーンは、旅に必要な道具を背負ってしっぽを振る。


「私OKよん!」


頭に花冠を乗せ、ビオラはポーズをとって見せた。

ビオラは猫、力もあまりないので、旅の荷物は男たちの役割。

いつも手ぶらなビオラは、「私だけお荷物みたい。」といつもしょんぼりしていたが、今日のビオラは機嫌がとてもいいようだ。


「さ!いつものアレ!ホーペ、頼んだわよ!」


ビオラは鼻歌を歌いながらホーペにウインクした。


「はいはい。さて、ここから北は、どっちかな!」


胸元から青い羽根の胸飾りを取り出すと、手の上に乗せ一度大きく太陽の光を浴びせた。そして再び掌に正すと、青い羽根は光を放ち、はるか先の方向を指している。


「わぁ!また光が強くなってるよ!」


ホーンは嬉しそうにしっぽを振る。


「かなり光が濃い色をしているわ。」


ビオラはまじまじと羽根を見つめた。


「ちょっと上を見てくるよ!」


ホーペはそういうと、手を下から上へ振り上げ、風に持ち上げられて木々の上まで飛び上がった。



「毎回思うけど、日に日にホーペの力、強くなってると思わない?」


はるか上のホーペを見上げてホーンは言った。


「ほんと。みるみる背も伸びちゃって、なんだかおいてかれちゃうような気がして寂しいわ。」


しゅんとしたビオラを横に、ホーンは、大丈夫だよ。と声をかけるのだった。


ホーペはというと、木々の上でフワフワと浮かびながら、遠くをさす光の先を見つめた。その先に見えたのは、黒い雲が覆っているおどろおどろしい山だった。


「これは厳しい旅になりそうだ…」


そうつぶやき、ホーペはストン、と二人の元へ降りた。


二人が駆け寄り、どうだった?とホーペを見つめる。


「今回はかなり、厳しい旅になりそうだよ。」


ホーペが二人に告げると、ビオラとホーンは顔を見合わせ、そしてホーペに言った。


「旅に試練はつきものだよ!」

「今まで乗り越えてきたんだもの!大丈夫よ!」


いつもより、心なしか、険しい表情のホーペを気遣い、ホーンもビオラも明るくふるまった。

そのおかげでホーペの表情も明るさを取り戻し、ビオラを肩に乗せたホーペは、大きな体のホーンにつかまり空いた片手で下から風を仰ぐと、三人そろって風と共に空の上へ舞い上がった。


「本当、この移動手段は楽よねー。歩いてた頃が懐かしいわ。」


風になびかれ、花冠を落とさないようにしながらビオラはいう。


「ビオラは楽でもボクたちは結構大変なんだよー?」


あきれたようにホーンはビオラを見上げる。

ハハハと笑いながらホーペは


「でもまあ、この移動手段、晴れた日しか使えないんだけどね!」


とビオラに言った。

空中を移動するこの手段はホーペが提案したもので、竜巻を操れるホーンと、風を操れるホーペ二人の力を合わせて見出したもの。

最初は、数メートル進むだけでやっとだったが、毎日二人で挑戦して培った賜物だ。


「でも、まさかホーンが竜巻を操れるようになってたとは、今でもびっくりだよ。」


ホーペがホーンに向かって言うと


「ボクもたまたま身体についた枯れ葉を身震いして取ろうとしただけで小さな竜巻ができたのには腰を抜かしたさ。」と笑った。


「きっと、ビオラとホーペから力を分けてもらったとき、一緒におまけでもらっちゃったのかな。」


ビオラとホーペはホーンの言葉に顔を見合わせ、


「言われてみれば!」

「そうかも!」


また嬉しそうに声を上げた。

そんな会話をしながら楽しい空中の旅はそう長くは続かなかった。

光は濃くなる一方、向かう先は黒い影で覆われている。


―雨だ。


山のふもとまで来た三人は空中から地面に降りた。


「この先は、自力でいくしかないね。」ホーンがつぶやく。


「それにしても、なーんか暗い森って感じ。お化けが出てきそうだわ。」


ビオラは腕を組んで先を見据える。


ホーペはというと、


「羽根が点滅してる…」


母への道しるべとなる羽根の光が点滅しているのを、不安な気持ちで見つめた。


―母さん…―


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