第4話 ビオラとの出会い

最初の森を出発して、ホーペは北へ、北へと進んだ。

人目を避けながら、昼間は森に身を潜め、夜は人気のない道を通り、時には山小屋がない時もあったが、なんとかしのぎ通し、やがて大きな街にたどり着いた。

街は人間の目につきやすい。困っているところに、白い猫が通りかかった。

ホーペは白い猫に声をかけた。


「人間に見つからない場所、教えてくれないかな?」


白い猫はホーペを見上げるとすました顔をして通り過ぎていった。

だめか。とあきらめて白い猫と反対へ向かおうとしたとき。


「どこに向かってるのよ!ついてらっしゃい!」


と白い猫は声を荒げたのだ。

ホーペが慌てて白い猫についていくと、そこは猫の通り道で、子供一人通るのもやっとな狭さ。

細身だったホーペはすすまみれになりながらも、白い猫に案内された小さな家へたどり着いた。


「ここ、だれか住んでるの?」


人目につかない場所の小さな家の中は、そんなに汚れていなくて、むしろ、家具や食器が整頓されている。


「あ、こっちにも部屋が…」


「そこはだめ!!」


大きなドアノブに手をかけようとしたとき、白い猫は叫んだ。


「そこには、ママが寝ているからだめなの!!」


ホーペは青ざめた。人間にばれたら…

その様子を察した白い猫は「あなた、魔法が使えるんでしょ?」と聞いてきた。

ホーペが頷くと、白い猫は二本足で立ち、ギィィ、と重たそうにホーペが開けようとしていたドアを開けた。

白い猫の後ろを追って入ると、そこにはベッドの上で眠るように死んでいるおばあさんの姿があった。

死後数日経っているのだろう、少し腐敗している部分がある。


「ママね、眠ったまま、起きないのよ…」

(知っている。死んでいることなんてとうに、ただ、受け入れられないだけで。)


白い猫は涙を流しながらおばあさんの顔を見ていった。


「おねがい!!ママを!!ママを起こして!!」

(おねがい。この悲しみから。苦しみから。助けて。)


魔法使いなんでしょ!!とホーペに泣きすがる白い猫を前に、ホーペは黙り込んでしまった。

白い猫の心の声がホーペには聞こえているのだ。


―死んだものを生き返らすことはできない―


魔法でもできないことがある。そんな酷なことを、言えるほど、ホーペは強くなかった。

おばあさんに手を向けて、自らの生気を必死に送り続けた。

無理だとわかっていても、たとえ無駄だとしても。

ホーペの息が絶え絶えになるのを見て、白い猫は、今まで以上に大きな声をあげて泣いた。

そして、泣きながらホーペの腕をつかんで顔をよこにブンブン振った。

ホーペが手を下げると、白い猫はホーペの腕を掴んだまま


「ママは…ママは、死んだのね…」

(私には、ママを助けられる力がなかった。)


声殺して泣き崩れてしまった。

ホーペもつらかった。自分の無力さに、どうしようもなくやりきれなかった。

突然ホーペは外に駆けだして庭に咲き残った花々をたくさん摘んできた。

そして、おばあさんの上にたくさんちりばめると、フゥーと優しく息を吹きかけた。

その様子を白い猫は不安そうに見つめた。

ひらひらと舞った花びらは、おばあさんの傷んだ肌の部分を覆うようにしていろどり、最後にホーペは閉ざされたカーテンを開いた。


白い猫は目の前の光景に涙した。うれしかったのだ。

おばあさんは、色とりどりの花々に包まれて、光に当たると、まるで、

お花畑で本当に眠っているかのように見えたのだ。


「僕にできることは、ここまでなんだ。」


はい。と、白い猫に一輪の花を渡した。


「最後は君が、おばあさんに持たせてあげて。」


白い猫は一輪の花を受け取ると、涙を流し、だけど笑顔で、胸元で組まれたおばあさんの手に花を添えた。


「ママ…ありがとう。」

(ママ、だいすきよ。)


白猫が花を添え終わると、おばあさんは淡くひかり、眠ったままの表情が笑顔に変化し、光はキラキラと白猫に振りかかった。


「ママ、きっとあなたにお礼を言っているわ。ありがとうって。」


「きっと君に感謝しているんだよ。」


ホーペが微笑むと、白い猫も、そうかもね。と微笑んだ。


「そういえば、あなた、名前は?」


「ホーペっていうんだ。君は?」


白い猫はスクッと立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。


「ビオラよ。ママがつけてくれた名前なの。音楽が大好きな人だったの、素敵でしょ!」


ビオラからおばあさんと過ごした日々を聞き、しばらくして、ビオラはホーペの事を尋ねてきた。


「ホーペは旅をしているの?なんだか人目を避けているようだけど。」


「母さんを助けに行くんだ。生まれたときに引き離されたままなんだ。」


ホーペが遠くを見つめ答えると、ビオラはうーん、と唸り、スチャッと立ち上がり言った。


「私もついていく!」


ホーペが驚きの声を上げると、ビオラはニヒルな笑みを浮かべた。


「ホーペとママから強い力をもらったから、私、役に立てると思うの!」


そう言って、きれいな長いしっぽをかまどに向かって振ると、ボワッと火が燃え上がった。

ホーペが腰を抜かしていると、


「きっとあなたの力とママが最後にくれた贈り物で、私強くなったのよ!」


「本当にいいのかい?」


ホーペが聞くと、もちろんよ!とウインクで返すビオラ。

こうしてビオラは、ホーペと共に母を救うべく旅に出ることになった。


―その後、おばあさんはというと、家を出る際にホーペとビオラで書いた手紙の元、街の人々から大切に埋葬まいそうしてもらえたという。


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