第2話 ホーペと2匹のお供

「ホーペ!ホーペ!朝だよ!」


そういってホーペの耳元でしゃべるのは大きな犬。

周りから見れば、大きな犬が少年に向かって吠えているように見える光景。

しかし、ホーペにはこの大きな犬が言葉をしっかり話しているのがわかる。

なぜなら、ホーペがこの犬に魔法をかけたから。


木々の生い茂った森の中に小さな小屋がある。そこがホーペの家。

家族は、大きな犬のホーン。白い猫のビオラ。そして森の小鳥たち。

動物に囲まれながらつつましやかに暮らしていた。

目をこすり、布から顔を出した少年は大きなあくびをした。


「ホーンー。まだもう少し寝てたいんだけどー。」


また寝床にもぐるホーペの服をくわえて引っ張るホーン。


「本当にお寝坊さんだね!ビオラなんてとっくに川辺へ向かったよ!」


渋々と起き上がり。深緑ふかみどり羽織はおりを持つと、ホーペとホーンは勢いよく家を飛び出した。


「今日は絶対ぼくが勝つよ!」

「いーや、今日も通算563勝のボクの勝ちさ!」


そういってホーペの横を竜巻のように草をまとわせながらホーンが走り去る。


「くっそー!ホーンのやつ!竜巻なんて使ってずるいぞ!」


ホーペは片手を振り上げ後ろから大きく前へ手を振り下ろした。

すると…


―ビュウウウウウウウウウ


大きな風がホーペの背中を押して、はるか前のホーンの元までひとっとび。


「まーた、風の力なんて借りちゃって。恥ずかしくないのかい?」

「君に言われたくないやい!」


二人の先に、キラキラと光る川辺が見えてきた。

お互い顔を見合わせ、ニヤリと笑うと、これでもか!と全力で走り出した。


「あとっ!もうちょっ…!?」


二人同時に川辺に着こうとしたその時、白い猫が二本足で目の前に立ちふさがった。

二人は急に止まったもので、どさどさっとその場に崩れこけてしまった。


「二人とも何やってたの?遅すぎて困っちゃうんですけど!!」


白い猫はしっぽをブンブン振り回しながら二本足で立ち、こけた二人を見下した。


「ボクは起きないホーペを起こすので時間がかかっただけなんだよ!文句ならホーペに言ってくれ!」


「なんだい!君だって昨日の晩、ビオラの大事なミルクちょっと飲んでたくせに。」


口論を始めた二人を前に、ビオラをしっぽをビュンッと振った。


―ビシャッ!ビシャッ!


勢いよく川の冷たい水が二人の顔に振りかかった。


「さっさと顔を洗ってきなさい!ついでに頭も冷やすことね!」


それだけ言うと、大きなかごの中にたくさんの魚をちらつかせながら、ビオラは家へと戻っていった。


「ビオラ、ご立腹だね…」

「朝飯抜きにならないかな…」


ホーペとホーンは遠のくビオラを見送った後、川で顔を洗い、火を起こすための枝を拾いながら早々と家へ駆け戻った。

そうそう。小鳥たちからのありがたいお恵みもいただいて。


「ただいまー!」


たくさんの枝をもったホーペと小鳥たちからもらった卵が詰まった籠をくわえたホーンが家へと帰ってきた。


「おかえりなさい。ちゃんと頭、冷やしてきた?」


ビオラはエプロンをつけて小さなかまどの火をおこしていた。


「ちゃーんと冷やしてきましたっ!あとこれ!おみやげだよ!」


ホーペがズボンのポケットから花びらを取り出し、ビオラに向けてフゥーっと息を吹きかけると、バラバラだった花びらが、ふわふわと集まり、ビオラの頭上で花冠になった。

そのままストン、とビオラの頭にかわいく収まると、ビオラはとてもうれしそうに微笑んだ。


「ホーンがビオラの好きな花を教えてくれたんだ。」


ビオラはチラリ、とホーンを見た。


「あー…。ビオラが昔、花冠作ってるの、こっそり見てて、さ。」


目をキョロキョロさせて恥ずかしそうにつぶやくホーンへビオラは近づき、大きく立派なホーンの鼻に、自分の小さなピンクの鼻をくっつけた。

ホーンの大きな目はさらに大きくなり、ビオラはパチンとウインクをして朝食づくりに戻るのだった。


「ホーン。これってもしかしなくても両想いなんじゃない?」


ピューウと口笛を吹くホーペに、「茶化すなよ!」とホーンは照れるのであった。


そうこうしているあいだに、ビオラのとってきた魚と、小鳥たちからもらった卵で、今日もおいしい朝食ができた。

明日もこうでありますように。ホーペを始め、みんなが毎日祈りながら生活してきた。

この平和に見える生活は、今まで幾度いくどとなく、突然、壊されてきた。

そしてまた、ホーペたちは新しい生活をはじめてきたのだ。


(母さん。待ってて。もう少し。きっと助けに行くから…)


胸元で揺れる青い羽根の首飾りを手に取り、ホーペは固く目を閉じた。

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