第4話
翌朝、ウメに起こされて、眠そうなお母さんとごはんを食べて、ハナは学校に向かう。昨日お風呂からあがったあとウメに風呂場の話をしたら「それがどうかした?」と言われただけで終わってしまった。でも、きっと内心はちょっぴり秘密がバレてあせっていたに違いない。
いつものように商店街に入ると、天ぷら屋さんの前からおまわりさんが帰るところだった。
「おじさん、どうしたの!?」
おまわりさんの背中を見送って、ハナはおじさんに話しかける。
「それが泥棒に入られちゃったみたいなんだよ」
「え、また泥棒!?」
これで泥棒は3件目だった。カリンちゃんのおばあちゃんち、佃煮屋さん、そして天ぷら屋さん。こんなに連続して泥棒が発生するなんて、平和な日の出商店街を狙う不届きな泥棒がいるってことだ。許せない。
「なにを盗まれちゃったの?」
「おつり銭をね、10万円」
「10万円!?」
それはかなりの大金だった。天ぷら屋さんで一番高い200円の大エビの天ぷらがいくつ買えるかとっさにハナは計算する。
500個!!
「ほんと困っちゃったよねえ……」
おじさんが腕を組んでうなり声をあげた。いつも明るいおじさんも今日ばかりは落ち込んでいるみたいだ。
「困ったなあ……」
おじさんがつぶやく。10万円だなんて! 絶対絶対困るに決まっている。10万円なんてお金がなくなったらきっとハナのお母さんだったら3日くらい……いや10日くらいは立ち直れないに違いない。
「昨日の夜の話?」
「たぶんそうなんだけど……ああ、ハナちゃんは学校に行かないと遅刻するよ」
弱々しくおじさんが言った。落ち込んだおじさんを置いて学校に行くのはなんだか心配だけど、今ハナができることはなにもない。
「じゃあ行ってくるね。学校から帰ってきたらお見舞いに来るから」
「ありがとうね、ハナちゃん」
「いってきます」
ハナは仕方なく歩き始める。それにしても短い間に3件の泥棒だなんて。もしかするとどこかの猫が泥棒の姿を見ているかもしれない。学校から帰ったら、猫たちに話を聞いてまわろう。きっとなにかわかるはずだ。
学校から帰って台所に行くと、いつものようにウメも台所にやってくる。
「よく寝たわ~」
ウメはそう言うと、器に入った水を飲み始める。ハナも電子レンジからおにぎりを取り出すと椅子に座り食べ始めた。ウメは水を飲み終わると、おにぎりを食べているハナの膝の上に飛び乗り、そこで毛づくろいを始めた。テーブルの上にはいつものように買い物メモが置いてある。
あじの開き2つ(なかったら焼けそうなお魚)
魚屋さんにトロが帰ってきたか聞きたかったし、ちょうどよかった。ハナはおにぎりを食べ終わると、ウメに質問する。
「天ぷら屋さんの話聞いた?」
「聞いたわよ。泥棒が入ったんでしょ?」
ウメは毛づくろいしながらのんびりと答える。
「誰から聞いたの?」
「クロからよ。佃煮屋の件もあるし、パトロールを強化してるからね」
ハナの質問にウメは答えて、さらに毛づくろいを続ける。パトロールとは初耳だった。その上、佃煮屋さんのシロが泥棒を追い払った話は、ハナが話していないのに、しっかりウメに伝わっているようだ。でも、そう言っている割に、天ぷら屋さんの泥棒の話を聞いても、カリンちゃんのおばあちゃんのケガや、クロの病気や、シロの家出ほどウメは興味がないみたいだ。
「クロ、泥棒の顔見たって言ってた?」
「見たみたいよ」
ウメがあっさりと言った。
「え! じゃあクロに聞けば泥棒の顔がわかるってこと?」
「うーん、まあそうだけど……」
ウメがようやく毛づくろいをやめ、首をかしげる。
「トロの話も聞いてる?」
「そういやクロの話をしにきたっきり、顔みせないわね、あいつ」
ウメがちょっとだけ眉をひそめた。
「家出してるんだって」
ハナが答えるとウメは大きくため息をつく。
「バカねえ、あいつ。ま、すぐに帰るわよ。もしかするともう帰ってるかも」
ウメはそう言うけど、昨日のトロの様子はかなり深刻そうだった。
「トロはなにが悩みなんだろう……」
ハナはつぶやくと、ウメを床に下ろしてすっくと立ち上がる。
「魚屋さんに行ってトロのこと聞いたあと、クロの話聞いてくるね!」
食器棚の引き出しに入っているお財布を取り出しながらハナは言うと早足で台所を出て行く。
「ちょっと待ちなさいよ、ハナ」
「ウメは風呂場で待ってて! トロが来るかもしれないし」
ハナは慌てて靴を履きながらウメに言う。きっとこういうのは早いほうがいいよね。
「だから話を聞きなさいって!」
「行ってくる!」
ウメの話を聞かずにハナは家から飛び出した。
「ハナちゃん!」
魚屋さんに行く途中のハナを呼び止める声があった。カリンちゃんのおばあちゃんだ。となりにはカリンちゃんもいる。
「今からハナちゃんち行くところだったんだよ」
カリンちゃんが言った。おばあちゃんはこの間の元気のなさがウソみたいにニコニコしていて、その手にはパン屋さんのケーキの包みがあった。
「こないだのお見舞いのお礼よ。それからハナちゃんに謝らなくちゃって思って。いろいろ心配かけてごめんなさいね」
包みをハナに渡すとおばあちゃんは小さく頭を下げた。
「謝るって?」
不思議そうにハナは聞き返す。お礼はわかるけど、おばあちゃんが謝るようなことはなにもないはずだ。
「泥棒の話だよ」
カリンちゃんが言う。
「その話なんだけど、今朝天ぷら屋さんに泥棒が入った話聞いた?」
ハナは、もしかしておばあちゃんとカリンちゃんが、今朝の天ぷら屋さんの泥棒の話をなにか知っているかもしれないと逆に聞き返す。
「そうねえ、その話は本当に心配ね」
おばあちゃんがため息混じりに言った。
「でも、うちのは泥棒じゃなかったんだよ。もうほんとやんなっちゃう」
「どういうこと?」
あきれた様子のかりんちゃんにハナは聞き返す。
「本当にごめんなさいね。私と一緒に暮らしたい息子が、勝手に荷物を運び出してたのよ」
「えっ!?」
びっくりして、ハナは声をあげた。おばあちゃんちに入ったのは泥棒じゃなかった!? 泥棒の正体はおばあちゃんの息子、ということはカリンちゃんのお父さんだ。
「あたしも学校から帰ってきて知ったんだけど、お母さんが今日掃除してて、押し入れからおばあちゃんちの熊の置物を見つけてわかったんだよ。お母さんが怒って仕事中のお父さんに電話してお父さんも白状したみたい。ほんとお母さんがものすごーく怒ってて超こわかった……」
カリンちゃんが思い出してもこわいというように、ぶるりと身を震わせる。
「警察の人にもお話ししてね、ご家族でも被害届を出せますけどどうしますかって言われて……もちろん取り下げさせてもらったの」
「そうだったんだ……」
ほんのちょっとだけ安心してハナはため息をつく。でも、それじゃあ佃煮屋さんと天ぷら屋さんに入った泥棒は、おばあちゃんのところに入った泥棒とはまったく別の泥棒ということだ。
「私も電話して、息子のこと、きつーく叱っておいたわ。この商店街を離れるつもりはありませんって」
「じゃあおじいちゃんとの思い出の品も返ってきたんだね」
ハナがちょっとうれしくなって聞くと、おばあちゃんもうれしそうに頷いた。
「さっきあたしが熊の置物だけ運んできたよ。あとのものはお父さんがあとで運ぶんじゃない?」
「え、思い出の品ってあの熊の置物だったの?」
笑いながた言ったカリンちゃんに思わずハナは聞き返す。ハナもおばあちゃんちに遊びに行って見たことがある。真っ黒な木彫りの熊の置物だ。口に鮭をくわえていたあの熊の置物がそんなに大切なものだとは知らなかった。
「おじいちゃんと新婚旅行に行ったときのおみやげよ。あんなもの盗んでいくなんて変な泥棒だと思ったのよね。でも私にはすごく大切なもの」
おばあちゃんがちょっとだけ笑いながら言うと、もう一度頭を下げた。
「ハナちゃんにも、ハナちゃんのお母さんにも、商店街のみんなにも心配かけちゃったわね」
「ううん、おばあちゃんが無事ならそれでいいよ。でも、玄関の鍵、かけた方がいいよ」
まだ佃煮屋さんと天ぷら屋さんの泥棒がいる。油断はできない。
「そうね、気をつけるわ。ハナちゃん、本当にありがとう。お買い物の途中だったんでしょう? ごめんなさいね」
「あたしも塾に行くね」
おばあちゃんに続いてカリンちゃんが言った。
「うん、じゃあまたね」
ほんのちょっとうれしくなってハナは歩き始める。きっとパン屋さんの包みの中はフィナンシェだ。あとでお母さんと食べよう。
「こんにちは!」
「へい……らっしゃい……」
足取りも軽く、ハナが魚屋さんに入っていくと、おじさんの元気がない。
「もしかして、まだトロ帰ってこないの?」
「まだ帰ってこないんだよ……2晩も帰ってこないなんて初めてだからさ……」
いつも元気な魚屋のおじさんが落ち込みながら、お店の中にある貼り紙を指さした。それはだらしなくおなかを見せて寝ているトロの写真と、見つけた方にはお礼します、と書かれた貼り紙だった。
「私、トロのこと、昨日見かけたよ」
「どこで!?」
おじさんがずずいっと身を乗り出した。
「うちの裏で。あとで私もトロを探してみるね」
「そうか……腹がすけば帰ってくると思ったんだがな……マグロの大トロのとろっとろのいいところを用意してあるのによ……」
おじさんが鼻をすすった。
「大丈夫、帰ってくるよ」
「あいつなんか不満でもあったのかなあ……」
しょんぼりとおじさんがうなだれる。おじさんは本当に落ち込んでいるみたいだった。ハナは元気のないおじさんからアジの開きを2枚買うと店を出る。
それにしても、トロはどこに行っちゃったんだろう……?
ハナは魚屋さんから天ぷら屋さんへの道を歩きながら考える。たぶん商店街の中にはいるはずだ。でも昨日の様子じゃ、きっと家に帰りたくないってことだと思う。悩みを聞いてハナが解決できるような悩みだといいけど、昨日の様子だとそれもちょっと難しそうだ。ウメはトロの悩みを知っているみたいだったけど……。
そのとき、突然商店街に大きな叫び声が響き渡った。
「このバカ野郎!」
「うるせえ、このくそオヤジ!」
それは天ぷら屋のおじさんと高校生の息子のケンイチくんの声だった。ハナが慌てて駆け寄ると、商店街のお客さんたちが遠巻きに見守る中、ケンイチくんが天ぷらの入ったトレイを地面にたたきつけようと持ち上げたところだった。
「毎日毎日天ぷらばっか食わせやがって!」
ケンイチくんがトレイを地面にたたきつけけた。
アスファルトの上に揚げたての天ぷらが散らばる。もったいない……!
「だからって、俺はおまえを釣り銭盗むような奴に育てた覚えはない!」
もしかして……。
ハナは息を飲んでおじさんとケンイチくんのケンカを見つめる。
「1000円だろ! 10万円とか話を大げさにして警察まで呼んだバカはどいつだよ!」
「1000円も10万円も盗んだことにはかわりねえ! そのうえ天ぷらを無駄にしやがって! おまえが育ったのはこの天ぷらのおかげだぞ!」
おじさんがしゃがみこみ、天ぷらを拾い集め始める。
「だから俺は天ぷらには飽き飽きなんだよ! こんなもん猫にくれてやれ!」
「なんだと!? そうかおまえか! クロに天ぷらを食わせたのは!」
おじさんが立ち上がりケンイチくんの胸ぐらをつかんだ。騒ぎに天ぷら屋さんとパン屋さんの間からクロが心配そうに顔をのぞかせている。
「そうだよ、食わせたよ。それのなにが悪いんだよ? 腹すかせてるノラ猫にメシやってなにが悪い!」
「俺はクロに天ぷらを食わせたことはねえからおかしいと思ったんだ! 猫に天ぷら食わせてどうする! 俺はおろしたてのキスしか食わせたことはない!」
「だからなんでクロがおろしたてのキスで、俺は毎日あげもんばっかなんだよ!」
ケンイチくんがおじさんの手を振り払い、逆につかみかかろうと手をふりあげる。
「にゃおん!」
そこにクロが飛びかかった。ケンイチくんの腕に飛びかかってひっかいた……かと思うとそのまま大きくジャンプして、今度はおじさんの頭の上に乗っかりおじさんのおでこを一回ひっかく。
「いてっ!」
「いててっ!」
ふたりに傷を負わせて地面に着地したかと思うと、そのままクロはハナの腕の中に飛び込んだ。
「なんとかしてよ、ハナ!」
小さな声でクロが言った。
「ほんとはふたりとも仲良くしたいんだよ」
クロはそれだけ言うとハナから飛び降りた。クロに勢いはそがれたものの、ケンイチくんの腕はおじさんを殴ろうとあげられたままだ。
なんとかしなきゃ……!
「このクソオヤジが……」
「ストーップ!」
そこに慌ててハナは割って入る。突然の登場にケンイチくんは振りあげた腕のやり場に困っているように間抜けな格好で動きを止める。
「な、なんだよハナ……」
どきどきしている心臓の音を押さえるようにハナは一回大きく深呼吸すると、ケンイチくんを見上げて言った。
「ケンイチくんはクロにごはんをあげようとしたんだよね」
「そうだよ、なんか文句あんのかよ」
ケンイチくんがふてくされたように言った。
「猫はエビとかイカ食べたらおなか壊しちゃうんだよ」
「知るか、そんなこと。オヤジがいつもメシやってたから、どうせ俺と同じ残りもんだと思ってやっただけだ」
ケンイチくんがそっぽを向く。
「クロがふたりに仲良くしてほしいって言ってるよ」
おじさんとケンイチくんが顔を見合わせる。
クロが言ったのはふたりが仲良くしたい、だったけど、この際それはかまわないことにした。だってそんなこと言ってもふたりは仲良くしてくれなさそうだったから。それに、クロは絶対ふたりに仲良くしてほしいと思っているという確信がハナにはあった。
だがケンイチくんは吐き捨てるように言う。
「そんなこと猫が言うかよ」
「にゃおん」
ハナが返事をする前に、地面からクロがケンイチくんを見上げて鳴いた。驚いたようにクロを見つめるケンイチくんにハナは一番言いにくいことを告げた。
「あと、おつり盗んだらいけないんだからね」
「ぐっ……」
ケンイチくんが言葉に詰まる。
ハナだって、いつも買い物に使っていいと預けられているお母さんのお財布から、お金をちょっともらって好きなものを買いたくなるけど、自分のものを勝手に買ったり、おつりを盗んだりは絶対にしない。それは泥棒と一緒だし、人のものを盗るなんて、絶対にいけないことだ。
「そ、そんなの今に始まったことじゃねえよ」
「じゃあもっと悪いじゃない!」
「……天ぷらばっかで飽きたから、コンビニでメシ買って食っただけだ」
言いにくそうにケンイチくんが言った。確かに毎日天ぷらだけじゃ飽きる。栄養バランス的にもどうかと思う。
「それを大げさにしやがって……クソおやじが!」
ケンイチくんは吐き捨てるよう言うと、ハナたちにそっぽを向いてどこかへ行こうと歩き始める。
「待って、ケンイチくん!」
ハナはそれを呼び止めた。これだけじゃふたりは仲良くできない。
確かにケンイチくんが悪いけど、でもおじさんにも原因がある。
「なんだよ、なんか文句あんのかよ」
言い返したケンイチくんの前でハナは振り向き、今度はおじさんをハナはにらみつけた。
「おじさん!」
ハナの様子におじさんが驚いたように一歩あとずさった。
「な、なんだいハナちゃん」
「どうして話を大げさにするの!」
ハナの剣幕におじさんが眉毛をへの字にして困った顔をした。
「そ、そりゃあ……その……」
「こないだのおばあちゃんの話だってそうだよ。頭にケガをしたなんてウソじゃない!」
「いや、それはその方が話が……」
おじさんがしどろもどろになる。
「それに毎日天ぷらだったらケンイチくん怒るに決まってるじゃない。飽きちゃうよ」
「そ、それはうちの嫁が……」
そういえばおばさんのことを忘れていた。外に働きに行ってるとはいえ、おばさんがいればケンイチくんは毎日天ぷらを食べたりしなくていいはずだ。
「おばさん忙しいの?」
「いや、その……」
おじさんが頭をかきながら地面を見つめる。なんだか言いにくいことがあるみたいだ。ケンカしておばさんが家出しちゃったとか? まさか。トロじゃあるまいし。
そのときだった。
「なんの騒ぎ?」
店の奥から顔を出したのは天ぷら屋のおばさんだ。おばさんは外で働いているせいもあるけど、きれいで高校生の息子がいるとはとても思えない。それにしても、今日家にいるなんて仕事休みだったのかな?
「いやなんでもないよ! なんでもない! そんなことより寝てろって!」
道路に天ぷらは散らかっているし、どう見てもなんでもないわけはないのに、おじさんが慌てたように言った。不思議そうにおじさんを見るおばさんに、大きくため息をつきながらケンイチくんが口を開いた。
「……わかった、俺が悪かったよ、オヤジ」
どうやらケンイチくんは、おじさんはともかくおばさんにはあまり心配をかけたくないらしい。
「おまえ……」
おじさんが顔をあげる。
「だからそろそろみんなにも言っちまえ」
「ぅ……」
おじさんの顔が耳まで赤い。
「じゃあ俺が言うぞ。大体オヤジがちゃんと言わないのがいけないんだからな。人の話ばっかり大きくしやがって」
ケンイチくんがほんの少しふてくされたように言った。その前でおじさんがいつもとは全然違う口調でボソボソとしゃべり始める。
「その、今、嫁が具合悪くて……メシを作る奴がいなくて……」
「おばさんどっか悪いの!?」
ハナは心配になって、店の奥から出てきたおばさんに駆け寄る。
「ちょっとだけね。でも大丈夫」
そのときハナはあることに気がつく。おばさんのおなかがちょっと大きい……ような気がする。もしかして……。
「ケンイチに弟か妹ができて、その……」
おじさんがしどろもどろに言った。ってことはおばさんに赤ちゃんができたんだ!
「わあ、すごい! おめでとう、おばさん」
「ありがとう、ハナちゃん」
ハナの言葉におばさんがにっこりと笑って言った。
「へへ……」
照れたように笑うおじさんを、遠巻きに見ていた商店街の人たちが、おじさんとおばさんを取り囲む。おじさんからちょっと離れたところでケンイチくんはしゃがみこむと、クロの頭を撫でていた。
「ごめんな、エビとイカがダメならダメって言えよ」
クロがケンイチくんに寄り添い、のどを鳴らす。そこにそっとハナは近づくとケンイチくんに話しかけた。
「ケンイチくんとは15歳離れた妹か弟ってこと?」
「そうだよ」
ケンイチくんはどこかあきれたように言った。確かに15も離れた弟か妹ができたら、驚いちゃうかもしれない。すっごいうれしいことだけど、なんて言ったらいいのかわからなくてハナはケンイチくんを見上げてちょっとだけ困る。
「えっと……赤ちゃん来たらきっと楽しくなるね!」
「そうだといいな」
「にゃうん」
笑ったケンイチくんの横でクロもうれしそうに鳴いた。
これで天ぷら屋さんの件は、うれしいお知らせもついて一件落着だ。残るは―――佃煮屋さんに入った泥棒だけ。日の出商店街の平和のために、なんとしても捕まえなくっちゃ。
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