第3話 負うように
***
通り魔事件の話には続きがあった。
「一部では都市伝説のように言われているけど、それには理由があるんだ」
しばしの沈黙を挟んで、
隣にいる
「実は二十年近く前にも同様の事件があったんだよ。赤いコートを着た不審者が金属バッドで人を襲う通り魔事件がね」
「……なんかで見た気もするな」
犯人の特徴が酷似していることからテレビで取り上げていたのをたまたま観たことがあったのだろう。例によって詳しくは憶えていないが。
「いま起きている事件と異なるのは、被害者が全員殺害されている連続殺人だったということかな。犯行も市内全体と広範囲にわたっていてね。……それだけでも充分に大事件ではあったんだけど、世間の注目が高かった理由はまた別にある」
「というと……?」
「被害者には殺されてもおかしくないだろう理由があったんだ」
近所の厄介者や暴力団組員といった〝表立ったもの〟から、前科もちであったり家庭内でDVをはたらいているといった〝目立たないもの〟まで、何かしら人の恨みを買っていても不思議でない人間が次々と殺害された。
最初こそ個別の事件の被害者として取り上げられたものの、警察はすぐ共通点に行き着き、それらに週刊誌などが踏み込んだことで全国的に知れ渡ることとなった。
いつしか通り魔はこう呼ばれていたらしい。
――正義の味方。
「……犯人は?」
「捕まってない。容疑者も不明だよ。ただ、模倣犯ならいくらでも捕まったけどね」
模倣犯。通り魔の真似をして殺人を犯した人間が当時は多数いたという。
「正体不明の〝正義の味方〟を偶像のように祭り上げた、殺人を肯定する危険な風潮があったんだ」
正体が明らかになっていない犯人の存在。それは〝誰でもなりえるもの〟となって人々の殺人を後押しをした。
仮に誰かを殺しても、自分が犯人だという証拠さえ残さなければそれを通り魔のせいに出来るからだ。被疑者不明として扱われた事件のうち、実際に〝本物の通り魔〟の犯行だった事件がいくつあるのか、警察も掴み切れていないのだという。
誰もが〝通り魔〟になりえたという環境――それは一種の怪奇現象で、通り魔の存在は時を経て都市伝説となった。
「この事件と今の通り魔事件に関連性があるかは知らないけど、ないとも言い切れないね。実際テレビでも通り魔の再来とか言われているようだし」
「……二十年前の通り魔が、今になって犯行を再開した……?」
「どうだろうね。だとしたら、『なぜ今になって?』という疑問が出てくるし、『これまで何をしていたのか?』という謎も残る。……あるいは、この二十年の間も通り魔は活動していたけど、その犯行がそうだとは世間に認知されていなかっただけかもしれないけどね」
まったく関係ない人物の起こした事件が〝通り魔のせい〟とされたように、通り魔を特徴づける証拠さえ見つからなければ実際の通り魔の犯行も〝被疑者不明〟となって明らかにされないわけだ。
(……通り魔を特徴づける証拠……)
赤いコートに金属バッド。
(二十年前の通り魔は特段自分の犯行を主張する気はないみたいだ)
一方で、今回の通り魔は自身の姿が証言される恐れもあるにもかかわらず、暴行に留めるのみで殺害にまでは及んでいない。むしろ〝赤いコートの通り魔〟という特徴を敢えて残しているかのようにさえ思える。
――それにしても。
(……なんか知ってそうだな)
遊里の口調や言葉の端々から感じられる〝何か知っていそうな感〟……。
通り魔の正体なのかその〝空白の二十年〟なのか。なんにしろ教えてくれないということは、今はまだ言わなくてもいい/言わなくても問題ないと判断したのだろう。遊里の中でも確信が持てないことなのかもしれない。なら追及しても仕方がない。訊ねてもはぐらかされるばかりなのは目に見えている。自分で考えてみるべきだ。
(二十年前の通り魔は既に死んでいて、その霊がなんらかの理由で現在も犯行を行っている……とか?)
この街ならなんでも起こりうる。
だが起きるにしても何かしらの理由が存在するものだ。
(俺が昨日見たのは霊体で……)
女子の制服を着ていた。だから学校で死亡した生徒について調べてもらい、その結果、
そうなると『玖純愛架=通り魔』だが、二十年前なんて当然彼女は生まれていないし、少なくとも諒真の知る彼女は通り魔などするような人物ではなかった。
二十年前の通り魔も気にはなるものの、現在巷を騒がせている通り魔、それから昨日
(犯行を再開した……というより、過去の事件を模倣した人物による犯行と考える方がまだ説得力もあるしな)
しかし、引っかかるものがある。
現在の通り魔が狙っているのは諒真も在籍する学校の女子生徒。そして、玖純愛架もまたその学校に在籍しており、昨年屋上から転落死した。
事故、だったらしい。
……自殺ではないかと邪推することも出来る。
仮に自殺だったなら……その理由は?
(……二十年前の通り魔は、何かしら罪のある人間を狙って襲っていた)
狙われた女子生徒たちには、襲われるだけの理由があったのではないか……?
(…………、)
彼女が犯人だとは考えたくない。
ただ、死後も生前となんら変わらない、なんてことは言いきれない。
この街なら、起こりうるのだ。
起こるに足る理由さえあれば、なんだって。
「――まあ、なんにしてもだよ」
ぽん、と手を打って、遊里は事も無げに言う。
「諒真くんが昨日見た赤コートは霊体だった。それと通り魔事件との関係性もまた知れないけれど相手が霊体となれば警察には対応できない。こうして情報もらっちゃってる以上……無視はできないよねぇ?」
「……この流れは」
「諒真くんの証言によれば赤コートは女の子の制服を着ていた。となれば、学校で調べるのが一番手っ取り早い。警察もやっぱり学校には手を出しにくいようだから、ここで諒真くんが活躍すればくっしーに恩が売れるね」
恩を売るというより貸し借りがチャラになるだけだが。
「……調べても、得られるのは霊体の方の情報なんだから」
「警察には無益だって? ついでに現行している通り魔関連の情報も手に入るかもしれない。なにせ、狙われてるのは学校の生徒だしね」
「…………、」
再三言うようだが、調べるとなるとどうしても他人に話しかける必要が出てくる。
今回は特に、思いついてしまった以上、玖純愛架に関連する事柄……諒真自身が在籍していたクラスの連中に話を聞く必要があるのだ。
(……滅茶苦茶イヤだ……)
たとえるなら、ズル休みを続けたせいで登校するのが気まずい、ような感じだろうか。実際そんな感じだから尚更に。
しかし任されると断れないのが居候である諒真の身分というか性分だ。なんとか反論して調査など引き受けずに済むようことを運びたかった。そんなもの遊里相手には最初から無理だと分かっていても、やりたくないという意思を示すことは大事だ。
ただ、そんな自分の横で駄々をこねる子供を微笑ましく見守る年上のお姉さんじみた表情を浮かべている言梨の存在もあって、それ以上食い下がることは躊躇われた。
「というわけで、よろしくね」
「…………」
よろしくされてしまったら、仕方ない。
そうして諒真は通り魔事件の捜査をすることになったのだ。
***
――それが昨日のことなのだが、案の定というか、諒真は自ら積極的に動こうという気がないようだった。
教室の真ん中、自分の机に突っ伏して眠っている……ように見える。
「おはよう
「…………」
今日も今日とて高慢さの滲む元気のいい挨拶。
「……あれ? 返事はどうしたのかしら」
「……あぁ」
一応、起きてるらしい。とても面倒臭そうな低い声だった。それでも満足したようで、美依は諒真の席から離れていった。
(……どうしたのかな)
大方調査の件がわずらわしいいのだろうそんな彼の様子を、
待っていると、しばらくしてから束原
彼女はまず鞄を置き、何やらデジタルカメラを取り出して諒真の席へ向かった。
「諒真くん」
「…………」
「おはよう」
カメラを構えている。顔を上げるのを待っているようだ。
「……なんだよ、」
なかなか立ち去らないから気になったのか諒真が顔を上げた時、眩しいフラッシュが教室内に炸裂した。周りのクラスメイトたちも思わずそちらに目を向けるほどに強烈で、それを間近で喰らった諒真はというと、
「目が……っ」
両目を押さえ呻いていた。
緋景は撮った写真を確認しながら、
「だいじょうぶ?」
「……誰のせいだと……」
「最近、疲れてるみたい」
なんだか会話がかみ合っていない。
「……写真を撮られると魂が抜かれるって話、知ってるか」
「そうなの?」
「そうなんだよ」
人形のように、昔からひとの形をしたもの、ひとの形に似せたものには死者の霊魂が宿るなど霊的なものが憑きやすい性質がある。髪が伸びる日本人形などがいい例だろう。その点、写真は人間そのものを写す。似せるどころか被写体本人の姿を写真の中に作りだすのだ。
さらに言うなら『写す』は『移す』に通じ、被写体の魂を写真の中へ移す、また、被写体の姿を写真に撮ると同時に魂を盗るとも言える。
現実的な解釈をするなら、昔のカメラは撮影に時間がかかったために撮影の終わる頃には被写体となった人が疲れ果てていたことから、まるで『魂が抜かれたよう』に見え、そのような迷信が語られるようになったのだろう。単純にカメラのフラッシュに驚いてそうなるというのもあるかもしれない。
なんにせよ、要するに疲れているのはこのところ緋景に写真を撮られているせいだと言いたいらしい。
思えばたしかに、何もすることがないせいか朝から机に突っ伏している姿をよく見るものの、最近はただだらけているのではなく本当に眠そうな様子だった。
(……今週に入ってから……?)
ちょうど緋景が写真を撮り始めたのも今週だ。
これだけ切りとってみれば緋景のせいともとれるが、
(そういえば、レンカちゃんは束原くんの家にいるんだよね)
なんとなくそうではと思っていたが、昨日諒真の家に行って初めて知った。
レンカは常に何か喋っているような印象がある。目に入らず黙っていれば存在感の欠片もないが、だからこそ自らを主張するように声を上げているのかもしれない。
(夜とかもずっと喋ってそうだし……寝てないのかな)
家に他人の存在があるだけでも気を遣うというか意識して疲れるというのもあるだろう。諒真なら特に。
(これもある意味、レンカちゃんにとり憑かれたせいなのかも……)
だから疲れている、と。
そんな諒真の様子を緋景は物珍しく思ったのか記録に収めている――
(あ、行った)
美依も緋景も挨拶を済ませ、ようやく自分の番が訪れたと思い言梨は席を立つ。
「……なんだよ、俺はアイドルだったのか」
「ええっと……まあ、順番待ちはしてたよね」
気配でも察したのだろうか。声をかける前に諒真は顔を上げた。
「まずは……おはよう、束原くん」
「…………、」
「やっぱりまた返事してくれなかった……!」
訝しむような目で睨まれる。さすがにわざとらしかった自覚もある。話し始めるためのきっかけが欲しかったのだ。
「その……三年生の人に話とか聞くんじゃないの?」
通り魔事件の話の中、亡くなった玖純愛架の名前が挙がったこと。彼女が自殺したのだとすれば、その原因として真っ先に浮かぶのは――いじめ。
いじめがあったにしろなかったにしろ、彼女について知っているだろう元クラスメイトたちに話を聞く必要があるだろう。
しかし、それこそ元クラスメイトである諒真には難しいかもしれない。昨日のあの反応から察するに諒真は玖純愛架と知り合いだったとも考えられる。そうであれば彼女が辛い目に遭っていたという話を聞くのは酷だろう。
そこで、だ。
「なんだったら……わたし、代わりに話きいてきてもいいけど……」
何か、自分に出来ることをしたいと思う。
「……それで恩返しのつもりかよ。自分から問題ふっておいて。マッチポンプじゃねえか」
「う……、」
だからこそ、尚更に。
自分の相談したことが思ったよりも厄介な案件に発展し、それに諒真が巻き込まれ迷惑を被っている。たとえ直接的に自分のせいではないにしても、諒真の中ではどうやら『言梨からの相談』という認識で固まっているようだし、言莉自身そういう意識があるから負い目を感じてしまう。
「じゃ、じゃあ……レンカちゃんの件、昨日の朝きてた人から……、」
「……お前は信用できない」
きっと火災の件を黙っていたせいだろう。
「別に困らせようと思って隠してたわけじゃなくて……そもそも蓮延さんとはクラス違ったからうわさ程度しか知らなくて、確信のもてない話するのもどうかと思ったから。それに何度か話そうとしたけど束原くんわたしのこと邪険にしたっ」
「…………」
諒真は逃げるように腕の中に顔を埋めて机に突っ伏した。
「とにかく……わたし、レンカちゃんみたいに、依頼料代わりに働くから……なんでも言って」
「……いらない」
「でも、」
「昨日……来てたやつとは、放課後に会って、話すつもりだ」
レンカの、
しかし兄であるという話が事実かは分からないし、彼を通して知る蓮延憐果の現状がレンカにとって良いものとは限らない。だから諒真はレンカを邪険にしながらも、レンカにそのことを告げなかったのだろう。伝えれば一発で全て解決するかもしれなくても。
ただ、諒真が自分から話を聞きにいくことはないと、心のどこかでは思っていた。
(元クラスメイトみたいだったし、絶対嫌がるって……)
いったいどういう心境の変化だろう。白黒はっきりさせて、問題なければレンカに全てを伝えるつもりなのか。
今朝はレンカの姿は見えないものの、諒真が隠していたって結局のところ遅いか早いかの問題で、いずれは知られてしまうことだろう。そして、レンカも知らねばならないことだ。
そうとは分かっていても、言梨は自分の口から告げることに抵抗がある。
諒真にはあんな言い訳をしたが、レンカを、ひいては諒真を傷つけるかもしれないことを自分から言うのが躊躇われたのだ。
彼は違うのだろうか。
きっと、違うのだろう。
誰かを傷つける覚悟が、それでも前に進む決意が、諒真にはあるのだ。
たとえ自分自身が嫌な想いをしてでも、レンカのために話を聞きにいくのだろう。
なんとなく、そんな気がした。
(…………、)
そして、言梨にその役を……話を聞き、レンカに伝える役を負わせまいとしている――なんて、考え過ぎだろうか。
……願望だろうか。
「三年の……ところに、いくんだ」
諒真は顔を上げないまま、どこか歯切れの悪い――いや、躊躇いを、抵抗を押し殺して、苦手とする説明を続けようとした口調で。
「ついでに、通り魔の……〝あいつ〟の、話も聞く。だから、お前の出番は、ない」
小さく、呼吸を整えるような間があった。
「依頼料っていうなら、これまで充分もらってる。……今回は、大人しく結果待ちしてろ」
「ぁ……、うん……」
いまいち自分が依頼料代わりになるような何をしたのかピンとこなかったが――
「頑張って、ね」
「……うるさい」
子供じみたそんな物言いが、なんだか微笑ましかった。
***
放課後になるとなぜか身体が重くなってきた。
(……いや、まあ、うん……)
行かねば。
言梨の視線を感じながら諒真は席を立つ。今朝ああ言った手前、行動しなければ。
誰に絡まれることなく教室を出て、目指すのは三年の教室がある上階だ。進むにつれ重力が増していくかのように歩くのが辛い。帰りたい。
しかし、行かねば。
それもこれも自分のため、ひいてはレンカのためにもなる。
(話を聞けば何か悪霊を追い払う手立てが得られるかもしれない)
元クラスメイトに会う不愉快か、今後もレンカに居座られるストレスか――天秤にかければ、前者は一時だ。長い目で見れば面倒なのは後者である。
だから、別にあの悪霊のことなんて考えちゃいない。
(それに、これは――)
今まで目を背けてきた〝過去〟と向き合うために必要なことだから。
「さて……」
三年の教室がある廊下に来たはいいが、肝心の蓮延憐果の兄がどのクラスにいるのかは聞いていなかった。教室を出ていく生徒の流れに逆いながら各クラスを覗いていく。
そうしていると、やたらと視線がぶつかってくるから不快で仕方ない。
それだけでなく、
「束原……?」
声をかけてくる女子まで現れるから今すぐ引き返したい。
「……誰だよ。あ、お前……?」
記憶にない相手に名前を呼ばれると「誰だよ」がすっかりデフォルトになっていたが、顔を見て思い出した。つい最近、それも一昨日見た覚えがある。
その時のことが蘇った途端、なんとなく嫌な予感に駆られた。
「あんたがなんでここに……!」
噛み付かんばかりの勢いで迫ってくるつり目の女子。一昨日、教室にやってきて美依に怒鳴り散らしていた三年だ。まるで取り巻きのようにその後ろ、巻き毛とくせ毛がふたり控えているが、どちらも怪訝そうな目つきをしている。
いったいなんなのだろう。
つり目が物言いたげにこちらを睨んでいるものの、別に怒っているというわけでもないらしい。もともとつり目がちなようだ。
「……っ」
放課後になって教室を出ると諒真を見つけ、思わず声をかけてしまったはいいがどう言葉を繋げばいいか迷っている……といった感じだろうか。それとも諒真が応えるのを待っているのか。
いずれにしても、黙っていると徐々に後ろの取り巻きふたりが怯えるように気味悪がるように表情を強張らせていくのが面白いくらい印象的だった。
なぜかこういう反応をされるから元同級生と顔を合わせるのは嫌なのだ。
「みっちゃん、もう行こうよ……っ」
「そだよ、〝つかりょん〟にゃあんま関わんない方がいいって――、」
――××れるから。
「あ……? いまなんて、」
最初に声をかけてきたつり目はこちらを一瞥すると、必要以上に距離をとりながら横を抜けていった。引き留めようとすれば大袈裟な反応でかわされ、後ろの取り巻きふたりもやけにビクつきながら離れていく。
廊下に出る他の生徒たちの視線を感じ、それ以上の深追いは躊躇われた。
「……なんだったんだ」
初めて呼ばれたぞ、〝つかりょん〟って。
いや、そうじゃなく。
「あれー? 束原くんー?」
声に振り返れば、数人の男子生徒に囲まれた小柄な少年がこちらを見上げていた。
どこか見覚えのある、能天気そうな笑顔を浮かべた中性的な顔立ち。色を抜いた髪はショートで、男子の制服を着ていなければ華奢な体格もあって女子と見紛うかもしれない。
探していた憐果の兄、蓮延実咲だ。
「そっちから来てくれるなんて思いもしなかったよっ」
「……お、おう……」
「いやぁ良かった! 二年の教室なんか混んでたからさっ。行かずに済むなら何よりだよね」
なんだろう、この〝押してくる〟感じ。
「な、なぁみさちゃん、こいつって……、」
実咲の連れの一人が不安そうな声を出す。どうやら元クラスメイトはそいつ一人で他は知らないようだったが、
「あぁ、うん。束原くんだよ。ちょっと事情があってね。悪いけど今日はキャンセルで」
紹介されると他の連中の表情も強張った。
(名前だけでビビられるって……)
これまで〝年上の同級生〟だったり〝休学していた同級生〟に加え、見た目のせいで恐れられているものとばかり思っていた。
しかし、さっきの女子の言葉――
「じゃあ行こうか、束原くん」
実咲が先に歩き出すのでその後を追いかける。諒真は周りの視線が気になったが、どうやら実咲は気にも留めていないようだ。
レンカの件もあるからだろうが、実咲だけが元同級生の中で唯一ふつうに接することが出来る気がする。
「……一つ、ききたいんだが」
だから、この際だ。
理由があるなら知りたいし、改善できるものならそうしたい。
いちいち顔をあわせるたびに怖がられるのはご免だ。
少しだけ、知ってしまうことに不安もあるが――
「俺、嫌われてるのか?」
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