次いで、八月二十五日。

 昨日に引き続き、俺は今日もここ、普段の教室にいる。補習授業が残り二日とはいえまだあるのだから、来ること自体今さら特に不思議な事では無いのだ、夏休み中である点でこの状況は不思議な事なはずなのだ。

 午前中での全四時間もの授業がある中、すでに三時間目である。細かく言えば中盤といったところか。いつもなら、先生の話などに耳を貸さず、外を眺めるか持ち合わせた夏休みの課題をせっせと片付けているだろう。がしかし、今の俺は文字通り完全に上の空だった。俺は今日、ある事案を抱えていた。


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 朝、昨日より大幅に余裕を持って学校に来た俺は、ある違和感を覚えた。

『七月二十七日の放課後、一年七組で待ってる。』

 女らしい丸文字で書かれた、お世辞にもきれいとは言えない文章。

 手のひらほどの多少黒ずんだノートの切れ端には、この一文のみ。きれいに四つ折りに畳まれたそれは、紛れもなく俺の靴箱から出てきたのだ。


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 これはいわゆるラブレターとやらか?靴箱に紙切れ、放課後の教室に呼び出すという手口。この送り主、誰かは知らんが何とも古風な手段を用いてやがる。まさか昭和生まれじゃなかろうか、年の差にも程がある。

 さて、どう解釈しようか。ここで、俺の脳内では閣僚会議が開かれることになった。いやなっちまった。天使と悪魔ならわかりやすいのに。

 まず防災担当大臣が、「前にも似た事例がある」なんて言いやがった。言うんじゃないよ全く。それは思い出したくない中学二年の記憶、これと似た代物が同じように靴箱に入ってたのだ。端折って結論から言おう、人違いだ。真実なんて知ってしまえばどうということのないものだってのが、身を削ってまで感じたよ。

 すると外務大臣が、「じゃあ正真正銘のラブレターじゃないか?」なんて抜かした。その意見真っ向から切り裂いてやる。ありえないだろう、万年文化部で友達関係を持たず、一日中ボーッとしてるさながら置物のような存在が、これを受け取る要素などあっただろうか。いや、ない。反語形の例文にもしたいぐらいぴったりな事例だ。

 そしたら今度は防衛大臣が「イタズラ、坂田か河本のジョークに違いない」とまあ身を乗り出してまで言い放つ。それが一番しっくりくる。いかにもあのアホどもがやりそうなジョークだ、ご丁寧に女らしい丸文字で書きやがってな。だが、それなら月日がたった時点で回収するかネタバレするだろう。

 出した結論は「誰かの入れ間違い」だ。両手広げても端を掴めないほどにも靴箱がずらりと並んでいるのだ、そんな事があってもおかしくない。いや、そうでなければこの世界がおかしいとさえ思えた。


 それでも、注意深くディティールに至るまで見てしまう。どこにそんな希望なんておいてきたんだか、さっきクズカゴへトスしてきたはずだが。

 そして見つけた、正確に言えば見つけてよかったのか?と半信半疑だ。メッセージの下に記載された添え書きに『東高校,一年三組,窓側最後尾の席へ』と、またこれも女らしい丸文字で記されていた。宛先には、間違いなどないと言わんばかりに事細かに書かれている。まさか送り主は某魔法学校の手先じゃあるまいな、魔法使いになるのは面白そうだが厄介事は遠慮しとく。

「しかしまあ」

 なぜ俺だのだと、もう過ぎた事とは言え疑問だ。喉の奥につっかえた魚の小骨みたいにしぶとい疑問は晴れることなく、結局結論は出ないままとっくに補習授業は終わっていた。

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