Episode29 ストライド家の試練


 バーウィッチはソルテールから徒歩で半日、馬車で数時間の距離だ。

 山側へも海側へも近いことから、多くの冒険者や商人が行き交い、商業区として形成された。

 そういった背景から情報も寄り集まりやすい街である。

 街は長方形に外壁を取り囲まれ、川が北から南へと通っている。

 その川を挟んで西区と東区に分かれている。

 面積的には西区の方が広い。

 西区には冒険者ギルドや商店街や露店商ストリートがあり、どちらかというと西区が栄えている。

 ちなみにオルドリッジの屋敷や依頼主のストライドさんの自宅は東区にあり、普段旅人が寄りつくことはあまりない。

 バーウィッチに古くから住む住人たちは、東区に屋敷を構えている事が多いらしい。

 ストライド家もバーウィッチの街では有名な地主だとか。

 アルフレッドと二人で冒険者ギルドに立ち寄って、クエスト情報の詳細について話を聞いた。住所などは既に分かっていたが、もう少しこのストライド家の情報を収集しておきたいと思ったからだ。


「パーシーンは白だな。ストライド家の後継ぎの息子が三ヶ月前に失踪してる。例の誘拐事件と関係があるんだろう。娘もいるみたいだが、そっちも半年前にダリ・アモールの祭に行ったっきり行方不明になったみてえだ」


 アルフレッドがギルドの熟練冒険者たちから情報収集してきた。


「ってことは今回の依頼は、やっぱり誘拐犯のアジトへの潜入?」

「……だろうな。この依頼主がそれらしい場所を見つけたんだろう。ジャック、これは手引いた方がいいんじゃねえか?」

「なんで?」


 アルフレッドは溜息をついて頭を掻いた。

 俺が誘拐犯に捕まるほど弱くはないことはアルフレッドも分かってるだろう。


「いくらお前が強くなったって……ガキが見ちゃいけねえもんもあるぜ?」

「………」


 見てはいけないもの……なんとなく想像はつく。

 誘拐事件の始まりはもう一年くらい前からだ。

 いなくなった子どもが一年間、どんな目に遭っていたか。

 人身売買、虐待や虐殺……あるいはもっとおぞましいものかもしれない。


「俺だってそれくらい受け入れるよ。こうしている間にも苦しんでる子どもがいるかもしれないんだ。だったら役に立てそうな俺が動かなきゃ」

「その考えは立派だけどな。トラウマってもんはなかなか手ごわいもんだぜ」


 アルフレッドにも何かトラウマがあるのだろうか。

 斯くして面接に赴くことにした。

 ここでトンボ帰りしては何の意味もない。


「マグリール通りの五ってことはこの辺か?」


 依頼書の住所を見ながら屋敷を探した。

 東区のかなり奥へ行ったところだ。ここまでくるとだいぶ大きな屋敷ばかりだった。貴族や名家の家なんだろうな。


「……たぶん、これかな?」


 やたらと大きな門を構えた家の前に辿り着いた。背の高いアルフレッドが立っても、彼が小さく見えるくらいの門。

 巨人族でも住んでるのかってレベルのデカさだ。


「すげえな。こりゃあ報酬額も納得だ」

「これどうやって入ればいいの……?」


 見上げると、はるか高くにライオンのドアノッカーが設置されていた。しかもライオンの顔は実物のライオンの顔に匹敵するほどの大きさだ。

 誰があんなドアノッカー使うんだよ。

 アルフレッドが手を伸ばしてもまだ届かない。


「んーー、届かねえ! こりゃあ来客を馬鹿にしてやがるぜ」


 仕方なくアルフレッドに肩車してもらって俺が両手で叩くことにした。

 あまりの視線の高さにちょっと怖い。


「よし、いけ、ジャック!」

「ん~~、もうちょっと!」


 ようやく手が届いたか、というところで、急に門がギギィっと開いた。

 俺は不意を突かれてバランスを崩し、倒れそうになる。


「おわっ!」

「ジャック、引けえ! 引くんだぁ!」


 俺の両足をがっちりつかむアルフレッド。

 アルフレッドの頭を掴んで体制を立て直す俺。

 なんという茶番。


「……なにをしておるんじゃ、おぬしら」


 出てきたのはけっこうお年を召した老人だった。全頭髪は白髪、長い髭も真っ白なのに、毛髪量の方は若々しく、ふさふさと毛が逆立っていた。

 世捨て人のような風貌だった。

 この巨大な扉もあってどんな巨人が住んでいるんだとびくびくしていたが、出てきた老人の背丈は俺と同じくらいだ。俺はアルフレッドに降ろしてもらって、その老人の前に立った。


「いや、このノッカー届かねえって!」


 アルフレッドがその老人に早速、文句を伝えた。


「あれは飾りじゃ。用があるならそこのボタンを押せと書いてあるじゃろう」


 そこで老人が指さしたのは門の脇の方。

 そこには小さい文字で、しかもけっこう低い位置に「御用のある方こちら」と書いてあった。俺が近寄って試しにボタンを押してみると、門の内側から何かがゆっくりと倒れる音がして何かとぶつかったのか、ガン、ガン、ガンと大きな音を立てた。

 なんかの絡繰りが施されているようだ。


「こんなん気づくかっ!」

「なんじゃ、血気盛んなやつじゃのう。その頭はだれの返り血じゃ?」

「これは地毛だ!」

「ふぉっふぉ、冗談じゃて」


 老人はアルフレッドを適当にあしらって、まんまとイライラさせていた。


「さて、おぬしじゃな……ほうほう、なかなか見込みがありそうな子じゃの」

「……俺?」

「うむ。依頼書を見てきたんじゃろう。ささ、こっちじゃ」


 値踏みされるかのようにじろじろと見られ、ちょっと緊張した。


「おい、待てよ、じいさん! あんたがパーシーン・ストライドか?」

「……ん? パーシーンはわしの息子じゃが?」

「ってことは、あんたは?」


 老人はゆっくりと振り返り、アルフレッドに睨みを利かせるようにまっすぐと見据えた。


「わしはストライド家八代目当主マーティーン・ストライド。おぬしは無謀のアルフレッドで間違いないな?」

「なんで俺の名前を知ってんだよ」

「わしが何年バーウィッチで居を構えていると思っておる。お前くらいの有名人なら噂は耳が遠くなろうが入ってくるわい」


 アルフレッドは有名人と呼ばれて気分が良かったのか、いらいらとした表情が消えた。


「それにシュヴァリエ・ド・リベルタが数か月前に解散したことも知っておるわ」

「へぇ……地獄耳な爺さんだな」

「まぁよい、ついてこい。話をしてやろう」


 そういうと再びマーティーンさんは庭先を歩き、屋敷の奥へと歩いていった。



      …



 案内されて、マーティーンさんの後を付けているが、かなり奥の方まで案内された。

 ストライド家の屋敷はバーウィッチにある他の屋敷とは違って、かなり独特の雰囲気を出していた。周囲を囲う外壁や門はバーウィッチの街並みに溶け込んでいたが、庭と家は独特だった。

 広い庭には松などのぐにゃぐにゃと幹を曲げた木々が植えられ、広い池もあった。池の周囲はレンガや石膏ではなく、天然の岩石を何個も置くことで囲いとしていた。さらにはその池に竹で作られた水筒のようなものが、岩の隙間からの垂れ水を溜めるとお辞儀をして、カコンと小気味の良い音を立てる。

 これは俺のオルドリッジ書庫ライブラリにはない造園だった。

 俺の疑問に代弁するようにアルフレッドが口を開いた。


「極東の文化のモノマネか?」

「真似とは失礼じゃな。わしの祖先はそこの生まれだ」


 外国ではこういう庭造りもあるらしい。おしゃれなものだ。

 そしてある程度歩いたところで屋敷の別館のようなところへ案内された。

 その別館というのも変わった構造だった。いまどきにしては質素な木造建築で、家の中まで土が入りこんでいる。

 そして玄関と思われる先で靴が揃えて置かれており、どうも家に入るときはここで靴を履きかえるようだった。


「さぁ、あがれ」

「"あがる"?」

「靴を脱いで入ってこい」


 そう言うと、マーティーンさんは藁で編んだ履物をひょいっと脱ぎ捨てて、素足で家の中へ入っていった。俺とアルフレッドもそれに習ってブーツを脱ぎ、素足で屋敷に入る。

 家の中は木々の良い香りがした。ぴかぴかに磨かれた木造の廊下を歩いたところ、かなり広い部屋へと通された。

 特に家具が置かれているわけでもない。

 奥の方には竹製の木刀のようなものがいくつも掛けられていた。

 椅子もないのにマーティーンさんはその場で胡坐をかいて座り始めた。

 俺たちもその正面に同じように座る。

 なんだか足が冷たい。


「……さて、なにから話そうかのぉ」

「マーティーンさん」

「ん、なんじゃ?」


 俺は疑問を口にした。


「この屋敷には使用人がいないんですか? あと他のご家族は?」


 この家に辿り着くまで、さらにはこの屋敷に入ってからもマーティーンさん以外に人を見かけなかった。


「ほっほっ、この老いぼれを気遣ってくれとるのかの? 気転の効く子じゃの」

「いえ、そういうわけじゃないですけど……」

「使用人もおるし、メイドもおるよ。正面が本館でこっちの家は特別じゃ。わしはこの静けさが好きなんじゃ。とくに道場は静かな方がいい」

「道場?」

「この修練場のことじゃな」


 なるほど、それであの木刀みたいなものがたくさん掛けられているのか。


「パーシーンは今、外出中なんじゃ。だがあの"依頼"はわしが出したようなもんじゃから気にするな」

「その依頼なんだけどよ」


 黙っていたアルフレッドが口を開いた。


「爺さん、おとり調査ってのはなんだ? まさか一時期多かった誘拐事件を追ってんのか?」

「……」


 マーティーンさんは黙った。

 こっちの質問に答えなかったのは初めてだ。


「まず、おぬしはともかく、その子じゃな」

「なんだって?」

「その子にちょっと面接試験を受けてもらう。それで合格したら話そう」

「おい、具体的な内容も聞いてねえのに、いきなり試験かよ」


 どんなおとり捜査か話すのはまずこっちの身元や素性がしっかり分かってからってことか。スパイをするんだ。それくらい仕方ない。


「わかりました。マーティーンさん、受けます」

「よし、素直な良い子じゃな」

「ジャック、いいのか?」


 俺はアルフレッドの問いかけに黙って頷いた。


「―――ほう、ジャック、というのか」

「はい」

「そうかそうか。わしはてっきりオルドリッジの倅の一人かと思うたよ。確か、彼奴の息子にジャックという名の子はおらんかったからの」

「……今なんて言いました?」

「いやなんでも。ボケた年寄りのちょっとしたたわいごとじゃよ」


 なんで俺がオルドリッジ家の血筋だって見抜いたんだ。


「爺さん、ふざけた事言うなよ。オルドリッジ家っつったらぼんぼんの貴族だろ? こんな変なおとり調査の依頼なんか受けに来ねーって」

「そうか。そういえば、おぬしのその頬、魔族の子かの?」

「いや、ちげえよ。これは事故の後遺症だ。こいつはれっきとした人間だ」


 アルフレッドが代弁してくれた。


「なるほど。さっきからいろいろと横やりが多いが、アルフレッド、おぬしが保護者ということか?」

「そうだ。こいつは元リベルタのメンバーだからな。見込みはあるぜ?」

「ほほう」


 白髪の老人は関心を向けるように口髭を撫でた。


「では、まず基本試験を受けてもらおうかの。試験はわしとの一本勝負じゃ」


 そう言うと、マーティーンさんはふらりと立ち上がった。

 決して戦えそうな体ではない。


「え、マーティーンさんとですか?」

「そうじゃ。わしみたいな老いぼれじゃ不服かの?」

「そうじゃないですけど」


 子どもとチャンバラごっこでもしたいのか、この人。

 マーティーンさんはひょこひょこと木刀を取りにいき、それを二つ手に取ると、一本をこっちに柄を向けて渡してきた。


「これは、竹刀と言うんじゃ。思いっきり叩いても死ぬことはないから安心せえ」

「マーティーンさん、これけっこう痛いんじゃないですか? 本当に思いっきり叩いてもいいんですか?」

「おや。体は爺でも、わしとてストライド家の現役当主。子どもに舐められるとは落ちぶれたもんじゃわい」


 いや、本当にこんなので本気で叩いたら当主といえども危ないんじゃないか。俺は心配に思いながらも竹刀を受け取った。ふわっと軽い感触だった。普段握っている刀剣と比べてもあまりの軽さに逆に振りにくそうだ。

 マーティーンさんからいろいろと指示を受けて、道場の中央で距離をあけて向かい合った。


「ジャック、遠慮するこたねえ。全力でやっちまえ」


 アルフレッドから声援が届く。この軽さならあまりダメージもでないかな。


「では、用意はええかの? 年寄りは気が早いんじゃ。さっさとやるぞ」


 自分で気が早いとか言うなよ……。

 俺は無言で剣を下段に構えて応えた。それに対してマーティーンさんは、剣を中心に構えてしゃがむように座って構えた。


「準備よさそうじゃの。ではゆくぞ? 一本勝負じゃから最初から本気でこい」


 けっこうお喋りなお爺さんだなぁ。


「では、参るぞ――――」


 その掛け声とともに、マーティーンさんの体は残像を残しながらもその場で消えた。


「………え?」


 迫りくる気圧。

 何かが来る!


「うわっと……!」


 何かを竹刀で弾いた。

 ――カシャンと派手な音を立てる。軽さもあって、なんとか反応できたが、マーティーンさんの握る竹刀だったようだ。


「ふぉっふぉっ、こやつ防ぎおったわい」


 後ろから声がした。

 すぐさま振り返るとマーティーンさんがさっきと同じように竹刀を真っ直ぐ中心に構えて立っていた。口で言うだけあって、ただのお爺さんではなさそうだ。

 しかしそう思うのも束の間、また残像だけがその場に残り、消えた。

 また来る!

 俺は即座に、自分自身を加速させた。

 心臓の鼓動が大きくなって視界が赤く沸き立つ。

 これはきっとマナグラム上の「時間制御」ってやつだ。

 拡張された視界とスローになっていく世界。

 ゆっくりと流れる時間の中を、俺は自由に動くことができた。

 気が付くと目の前でパーシーンさんが竹刀を振り被っている。

 世界がゆっくりになっても、この迫りくる瞬速を捉えるのは難しい。


「おや、またか。さすが元リベルタの子じゃの。では次はどうかな」


 さらに迫りくる白い影。

 こちらに態勢を立て直させる余裕すら与えないのだろう。

 その影はかつての師匠に姿が重なった。

 その技を俺は知っている。

 トリスタンの得意技。神速の剣技『ソニック・アイ』だ。

 一秒間に十の斬撃を繰り出すその神業。

 だけど今度は最初から見えている。初撃から捉えられていれば、一連の流れを見切りやすいため回避することも容易い。

 それにストライド家の当主といえど、やはりその体は既にご老体。

 技にキレがなかった。


 そこだ!

 俺は何度か竹刀を打ち合い、やり過ごした後に隙だらけの股下へと竹刀を叩き込み、そのまま駆け抜けた。バシンっと、乾いた音が道場に響いた。


「ほげぇ!」


 追随するようにご老人の悲鳴が道場に響いた。

 なんだ今の悲鳴……。大丈夫かな?

 その場でマーティーンさんは蹲った。


「いたたたたた……」

「やっぱり痛いんじゃないですかっ」

「打たれたらのう……あいたたた。まさかわしが一本取られるとは思わなんだわい」


 老人は打たれた内腿部分を何度も擦っていた。


「最近の若いもんは容赦がないのぉ」

「最初から本気でこいって言ってたじゃないですかっ」

「ふぉっふぉ……まじで痛いわい……」


 ご老人は心底悔しそうだった。



     …



 アルフレッドがかろうじて使えるヒーリングでマーティーンさんの内腿の腫れを治してあげた。


「うむ、お見事じゃったぞ……子どものくせに何というバカ力じゃ……」

「あんたが子どもを募集してたんだろうが!」


 アルフレッドがすかさずつっこみを入れた。

 心なしかマーティーンさんは涙目だ。

 まだ痛みが残ってるらしい。


「ある程度わしの剣技に耐えられたら合格にするつもりだったんじゃ! まさか返り討ちに会うとはのう。しかもこんな子どもに……もう当主引退じゃわい………」

「そんなん知るかよ! でもこれでジャックの実力は認めてくれただろ?」

「よかろうぞ……実力は認めよう。だがお次の試験で採用を決めよう」

「おい、もういいだろ。また返り討ちに会うぞ」


 そこにアルフレッドが食ってかかる。


「今回の依頼はおとり調査じゃからの。強ければいいってわけじゃないのじゃ。それにこの試験で適性が分かる。おぬしらの素性も見極めよう」

「………はぁ? 次は何させるつもりだ?」

「こっちへこい」


 またしても別の場所へと俺たちは案内された。

 歩いている最中、マーティーンさんは脚を引いていた。

 相当ダメージを与えてしまったようだ。

 なんだか申し訳なくなってくる。


 そして外へと出て、今度は屋敷別館の裏側へと回る。

 砂利道を歩かされた。

 別館の裏側の庭には鬱蒼と茂った竹林が目に入った。その竹林の隙間に一本の細道が奥へと続いていた。


「この先にな、ちょっとした石像があるんじゃが……その石像の下に金を撒き散らしてあるんじゃ」

「お金? そんな、盗まれたりしたら―――」

「ここはわしの屋敷の敷地内じゃ。誰も盗むものなぞおらん。別に盗まれても大した金じゃないしな」

「そうですか」


 何の意味があるんだろう。

 お金持ちの考えることはよく分からない。


「それでジャック、お前さんにその金を盗んでもらおうと思うんじゃ」

「え?! いいんですか?」

「うむ。誰にも見つからなければな」

「………?」


 誰か見張りの人がいるんだろうか。


「この細道を通ってもいいが、別に竹林に潜んで進んでもいい。お金を取ってきたらその小銭はくれてやろう」

「………わかりました。行ってきます」

「金を無事に盗んでこれたら合格じゃ」


 言い方から察するに、きっと誰か見張りがいるんだ。今回のおとり調査というのも、見つからないように潜入する機会があるんだろう。


「"誰か"に見つかったら失格ですか?」

「うーむ……見つかっても戻ってこれれば合格にしてやろう。じゃが、確実に死ぬがな」

「え?!」

「爺さん、ふざけんなよ! 死ぬような試練なんて子どもに受けさせんのかよ」

「そもそも今回の依頼は潜入に失敗したら死ぬかもしれんし、仕方あるまい。怖いならやめておくんじゃ」


 けっこうハードル高いなぁ。まぁ報酬額が相当のものだし、そんな簡単な依頼ではないことは分かっていたけど。


「ジャック、ここで引き返してもいい。この爺さんちょっといかれてるぜ」

「フレッド、俺なら大丈夫だよ」


 俺の研ぎ澄まされた直感スキルがこの先に行った方がいいと告げていた。


「まぁお前がやるってんなら別に文句はねえがよ。気合い入れて行って来い!」

「うん、行ってきます!」


 俺はアルフレッドに手を振って、竹林の中に入っていった。

 昼間なのに薄暗く、少し寒気を感じる。

 でもなぜか俺はマーティーンさんのこの試練を受けることが、今後何か良いことが起こりそうな予感すら感じていた。さらにはなんとなく、このクエストに対して受けなければいけないという義務感もあった。

 鬱蒼と茂った竹林の奥へと、慎重に歩を進めた。


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