Episode2 メラーナ洞窟Ⅰ
「結局、家には帰らなくていいの?」
「帰っても家の中に入れさせてもらえないよ」
「それって寂しくない?」
「別に……。前から他人の家だし」
俺の無力さが露わになってから、リンジーはまるで俺を家に帰さないか画策しているかのように話題を振ってきた。
もう三日もこっちで過ごしてるんだから、今更だろう。
散歩の最中、どうにもリンジーが俺を役立たず認定したような気がしてならなかった。
「でも聞いた話だとお母さんは、ジャックのこと心配してたんでしょう」
「そうだけど、どちらにしても俺はあの家に帰れない」
「せめてバーウィッチに行けば――――」
「俺はどうせ弱いし、一緒にいても迷惑をかけるだけだって! 分かってるよ!」
「え? いや、あの、そういう意味じゃなくて」
リンジーが俺の苛立ちに狼狽し始めた。
「俺だって、人に迷惑かけてまで生きたいなんて思わない!」
堪らず、駆け出した。
「あっ! ジャック、待ってよ!」
引き留めようとするリンジーを振り払い、後ろを振り返ることなく真っ直ぐ逃げ出した。
後ろで何かリンジーが叫んでいるが、そんなもの知るか。
結局、力が全てなのか?
……リンジーが何を企んでいたのか分からない。でもあの変わりようは明らかに俺のステータスを見てからだ。
もしかして何かをやらせようとしていたけど実際は役立たずだったということが分かって、家にタダで居候されても困る、ということで何とか家に帰すよう仕向けたかったんだろう。
きっとそうだ。
結局みんな偽善者か。
親切そうに見せておいて、実際は本人にも目的があるんだ!
ちくしょう!
…
しばらく走っていて、町の外れに辿りついてしまった。当たり一面草原で、多少の森林もある。
どうせ失う物なんて何もないんだ。どこにいたって同じだろう。
不貞腐れるように草地に寝転がる。
さて、これからどうしていこう……。
そういえばさっきリンジーと町を歩いているとき、露天商のような場所の前にクエスト掲示板を見かけた。
あれが冒険者ギルドという奴だ。こんな田舎でもしっかりあるんだ。
依頼を受けて達成していけば、もしかしたら生計を立てられるかもしれない。
自分の低い能力値でも受けられる依頼があるか分からないけど、ゴミ拾いレベルの依頼でもあれば出来ないこともない。
なんとかして生きねば。
そう思い、体を起こす。
とりあえず次にやることを決めた。冒険者ギルドでクエストを引き受けて、依頼をこなし、なんとか食いつなぐ。
チャンスがあれば他の冒険者の仲間に加わってステータスアップを図りたい。
それでいこう。
…
冒険者ギルドとは名ばかりの無人屋台の前に到着する。依頼掲示板を眺めてみるが、なんと二件しか掲示されていなかった。
この町、あまり冒険者をやっている人間がいないのか?
____________________________
【クエスト1】
メラーナダンジョンに潜むガーゴイル討伐
/報酬100,000G
【クエスト2】
メラーナダンジョンにあるガーゴイルの宝玉を入手
/報酬50,000G
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どっちも無理!
というかこれ、二つと思わせて一つみたいなもんじゃん!
もっと簡単な薬草採取みたいな依頼はないのかよ!
……そういえばオルドリッジ家の書庫で読んだことがある。
ガーゴイルはコウモリのような翼に、凄まじいパワーを併せ持つモンスターだ。
奪った旅人の剣などを器用に使いこなすとか。
うーん……討伐は無理だな。でももしもこのクエスト2だけでもクリアできるとしたら。
ガーゴイルの宝玉をガーゴイルに気付かれることなく盗み出せれば……。
報酬に目が行く。50000Gもあれば当面は食い繋げるだろう。
そういえばメラーナダンジョンは階層が1層だけとも本で読んだことがある。
ダンジョンとは名ばかりで、それほど入り組んだものでもなく、初心者冒険者の初陣にちょうどいいダンジョンとも書かれていたはずだ。
そんなイージー設定のダンジョンであれば俺でも攻略できてしまうんじゃないか。
ましてや敵はスルーして宝玉を盗むだけ。
それだけでもいいんだ。
徐々に思考が楽観的になっていた。
俺にだって出来るという思い込みの論理へと移っていく。その考えがいかに甘かったか、ということを後ほど思い知ることになるのだった。
…
近くの武器屋にメラーナダンジョンは何処か尋ねてみた。
武器屋の主人は最初、何かの聞き間違いじゃないかと思って「なに言ってるんだ坊主?」と俺に問いかけてきた。
追及されても後々が面倒なので、「知り合いの冒険者を迎えにいくだけ」と答え、道を聞いたところ、親切に教えてくれた。
すっかり周囲は夕暮れ時の赤みを帯びていた。オレンジに輝く草原を風が揺らして寒気を感じた。
メラーナダンジョンへ向かう道中の事だった。
「ピーター! そろそろだぞ!」
「う、うん!」
威勢よく声を張り上げて歩く二人の旅人を見かけた。二人とも腰に剣を携えてる。でもその背丈や声の幼さから、まだ同年代の子どもだと気付いた。
「準備は万端だよな? なにかあったらお前がサポートしてくれよ!」
「わかってるよ、アラン」
二人はアランとピーターと言うらしい。
アランは赤いマントのようなものを着ていて、いかにも勇者です感をアピールしているが、その小さい背丈には似合っていない。
ピーターの方は気弱そうな感じで体格も歳相応といった感じだった。
「む、なんだお前は!」
俺の視線に気づいたのか、アランの方から声をかけられた。
「そっちこそ、誰?」
「この俺様を知らないとは。お前この辺の奴じゃないな。名前は?」
「俺は………えーっと、そうだ、ジャックって言うんだ。君たちはアランとピーター?」
「ジャックか。さすがに俺たちのことを知っていたか、よしよし」
満足げに頷くアラン。てかさっき大声でお互いの名前を呼び合ってたじゃん。
「聞いて驚け。俺たちはな、今からメラーナダンジョンのガーゴイルを倒しにいくんだ」
「え!? メラーナダンジョン!」
「ふっふっふ、驚いたか」
「もしかして、クエストを見たの?」
「そうだ!」
クエスト依頼のビラをひらひらと見せつける。
「いいか? ここの大人たちはみんな腰抜けだ。ガーゴイル討伐に誰も動こうとしない」
「それで、君たちはガーゴイルを倒せるの?」
「俺は力には自信がある! さらにこっちのピーターは光魔法が使える! ほら、これを見ろ!」
もちろんと言わんばかりにアランは顔をにんまりさせて、右腕に巻きつけられた例のマナグラムを見せつけてきた。
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種族:人間 年齢:12歳6ヶ月
生命:61/61
魔力:21/21
筋力 C
敏捷 D
<能力>
剣術 D
拳闘 F
魔 氷 F
魔 炎 G
================
確かに俺なんかよりもずっと頼もしい。ついでにピーターも、アランと似た能力に加えて「魔 聖 F」とあった。光魔法とはそれの事だろう。
「お前、歳は?」
「10歳だけど」
「そうか! 今なら特別に俺たちの子分にしてやってもいいぞ!」
また偉そうな事言ってくれるな。
……でもこの上ないチャンスかも?
立場が下とはいえクエスト報酬の分け前はもらえるかもしれないし、なによりガーゴイルを倒してくれれば、宝玉に加えて10万ゴールドもセットだから報酬は15万ゴールド。
均等に分け前が貰えなくても、単独より多く報酬が手に入るかもしれない。
「……わかりました。親分、ついていきます」
「よしよし、わかっているなこいつ」
そうしてアランとピーターの二人とパーティを組んだ。子分とはいえ、初めて冒険者としてパーティを組んだ瞬間だった。
ちょっと嬉しい。
「ジャック君、よろしく。僕はピーター。頑張ろうね」
気弱そうなピーターの方は、まともに礼儀正しかった。
「で、お前は何ができるんだ? マナグラムを見せてみろ!」
アランに問われて「そうだった」と思い返す。
俺の能力値は非常に低い。俺は覚悟して自身の古ぼけたを示した。
「なんだこれ! ぶっはっは! 雑魚じゃねーか」
かなりイラっとくる言われ方だった。でも表面上は取り繕わないと。
「へい、僕は魔法も使えない雑魚以下です。でも親分の荷物持ちや身の回りのお世話なんでもします。お願いします。一緒に連れていってください」
「ぶっはっは! しょうがない奴だ。そこまで言うなら連れていってやってもいい。じゃあ荷物を持て!」
「へい、親分」
アランやピーターの荷物やバッグを担ぐ。
思っていたより軽かった。
もしかして、こいつら近所に住んでるんだろうか?
そうしてメラーナダンジョンへと歩き進めた。
日がかなり暮れて、パーティの影は3人の進行方向の方へと長く長く伸びていた。まるでこの先のダンジョンの闇が俺たちを引き込もうとしているかのようだ。
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