夕焼けの教室3
「何だよその、『来澄“君”』って」
君付けで呼ばれるなんていつ以来だよ。あれだけ来澄来澄と連呼していたクセに。そう思った直後、ふと我に返った。
もしかして、アレか。芝山が俺のことを干渉者だと知るずっと前に戻って来てる。芝山は俺のことを、クラスにいる根暗な男子の一人くらいにしか思っていない。てことは、逆にアレか、俺がこんな態度じゃ不自然……。
そんなことを考えて窓の外に目を向けた隙に、芝山哲弥は俺の真ん前までズンズンと進み、思いっ切り俺の顔を。
――殴った。
不意打ちに俺はよろけ、そのまま廊下に尻を付く。
芝山はそんな俺の胸ぐらを掴み、また数発、俺の頬をぶん殴った。
「ちょ、おい! 何すんだ! 止めろ!」
しかし芝山は、小柄な身体からは想像も付かない力で何度も俺を殴り、最後に思い切り頭突きをかましてきた。あまりの石頭に俺は唸り、そのまま仰向けにぶっ倒れた。
芝山は肩で息をして、俺のことを仁王立ちで見下ろしている。
「心配……、させやがって」
「ハァ?」
「どれだけ心配したか、わからないだろう。好き勝手やり放題やって、何が契約だ。何が同化だ。馬鹿か。君は馬鹿か。自分が納得すれば、周囲がどんなに傷つこうが関係ないとでも思ってるのか。君が! どうなろうと! 確かにボクが知ったことではない。けれど、説明くらいしろ! 何がどうなってるのか、理解するのに何日要したかわかるか! 夏休みが終わりそうだと思ってた。補習にも塾にもまともに参加できないまま、騒ぎに巻き込まれて秋が訪れる。そういう時期だった。Rユニオンの仲間たちと共に戦い、傷つき、お前が全部背負っていなくなった。そこまでは理解できた。問題はその後だ! 戻って来たら春じゃないか! ゴールデンウィークの真っ只中! 何が起こってるのか理解できなくて、滅茶苦茶アタフタした。ボクの記憶はどこに消えたのか、皆の記憶はどうなっているのか、整理している間に休みが終わった。つまり、どういうこと? ボクだけ変な時間を生きてた? レグルノーラに行って確かめようと思っても、美桜も君も休みで向こうに飛べないし、とにかく記憶の中で“ゲート”だったり“ゲート”に近かったりする場所に行ってみたらどうかとあっちこっち――って、人の話を聞いてるのか!」
真剣に怒る芝山を見上げていた俺は、知らず知らずのうちに頬を緩めていた。肩を震わせ、顔を手で覆って、声を立てて笑ってしまっていた。それが芝山の癪に障ったらしい。
「聞いてる。ちゃんと聞いてる」
ゴメンゴメンと謝りながら俺は立ち上がり、埃を払った。
「悪かった。説明するから。切り取った時間がそういう風に作用してるなら、俺は少し救われたかもしれない」
言うと、芝山はまたムッとしていた。
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