復元3
「魔法陣の中へ一人ずつ入ってくださる?」
ローラに促され、まずはシバが恐る恐る魔法陣の中央へ進む。白銀の光は聖なる光の魔法。わかってはいるがためらうのだろう、シバと言うよりは芝山の方が前面に出たような、変なすり足で進んでいく。魔法陣の中心部に入ると、下からスキャニングするように光の輪が迫り出て、シバの身体を下から上に、上から下に何度かなぞったあと、スッと足元に消える。
「次から次へ、全員終わった後で復元が始まりますわ」
魔法陣の外へ出たシバが緊張したとばかりに胸を撫で下ろしたのを見てから、今度はザイルが中に入る。やはりビクビクとして肩をすくめ、光の上下に顔を青白くさせている。
同じ要領で乗組員たちがどんどんとスキャンを終わらせ、最後の一人が終わった後、ローラは俺にも声をかけた。
「リョウも船には乗ったことがあるのでしょう。お願いしますわ」
わかったとうなずきで返し、魔法陣へと足を向ける。
複雑な魔法だと、俺はそればかり感心していた。二つ以上の動作を一つの魔法陣に書き込むだけでも相当大変なのに、それを確実に実行するだけの技量がある。共に塔の魔女を目指していたというモニカの魔法も素晴らしいが、ローラは抜きんでている。もっとも、俺がモニカの全てを見てきたわけではないし、彼女が俺の前で何割の力を出していたのかはわからないのだが。
蝶の文様で縁取られた魔法陣の中央部まで進んで足を止める。俺の殺風景な魔法陣とは違い、ローラの魔法陣には艶やかさがある。蝶と花、蔓がとても美しい。下から迫り出す光の輪が身体の外側を通っていく。頭部に光が差し掛かったところで、一瞬帆船の記憶がバッと去来した。三往復ほどしたところで光が消え、魔法陣を出る。
対象者全員がスキャンを終えたことを確認すると、ローラは両手を皿のようにして竜玉を持ち、自ら魔法陣の中心部へと進んでいった。
白銀の光がローラを幻想的に照らす。光という光が竜玉に集められ、恒星のように光り出した。彼女はそれを頭上まで掲げ、魔力という魔力を竜玉に注いでいく。
「――帆船よ!」
まるで稲光のような強烈な光が辺りを照らした。
あまりの強烈な光に、僅かに目を逸らした、その間に何かが起こったらしい。
巨大な箱のようなものが辺りの光を全部遮るようにして目の前に現れていた。薄暗さとものの気配を感じ、ふと見上げたところでアッと叫んだ。
「は、帆船……!」
白銀の光を僅かに帯びた、見覚えのある船。
砂地を行く巨大な帆船をこうして下から眺めるのは久しぶりだ。
「嘘だろ……、あの船が元通りに」
「す、凄すぎる」
「これが塔の魔女の力か……!」
口々に詠嘆を漏らし、その出来映えの素晴らしさに感動する。
「船の中も概ね元通りだと思いますわ。……もう少し、砂の深いところで復元した方が良かったかしら」
ローラはそう言って照れ気味に笑う。キツイ顔ばかり見ていたが、笑うとえくぼができてかなり可愛らしい。
竜玉を受け取ると、底に描かれた彼女の魔法陣はすっかりと消え、元の透明なガラス玉へと戻っていた。なるほど、確かに凄い。使い方さえ間違わなければどうにかなりそうだ。
「大丈夫。ありがとう。で、ここから船を転移させると」
竜玉を道具袋に片付けながら尋ねると、
「ええ。まずは船の内部へ。
ローラはまた、ニコリと笑った。
■━■━■━■━■━■━■━■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます