想定外4
「芝山ァ――――!!」
俺はありったけの声で叫んだ。
「聞こえてるんだろ、芝山! さっき、逃げたくないって言ったよな! 逃げるのか? 逃げて魔物に成り下がるつもりか!」
ピクリとシバの身体が動いた気がした。
あと少し。
「それともアレか。お前はいつまでもチビでガリ勉眼鏡のまんまなのかよ!」
『チビ……』
どこからともなく声が聞こえた。
やったか。
『チビって言ったな……』
間違いない。シバの声だ。
魔物の頭部で、シバがカッと目を見開いている。
「ああ、言ってやった。いつまでもチビでガリ勉眼鏡のまんまなのかって。そのガリ勉メガネのチビキノコは、帆船の
俺が魔物に向かって声を張り上げていると、後ろでモニカが不審そうに、
「何をなさっているのですか」
と聞く。
俺は咄嗟に後ろを向いて、
「いいから黙って」
と人差し指を立て、もう一度魔物に向き直った。
「砂漠に行く前に俺に倒されるか、それとも俺たちと一緒にかの竜を倒すのか。二つに一つだ。戻れるならさっさと人間の姿に戻れよ。でなきゃ、俺たちはお前を倒さなくちゃいけなくなる」
最終目的はドレグ・ルゴラを倒すこと。
それはわかっているはず。
こんな所で魔物認定されたら、きっとシバはカチンとくる。
そしたらきっと、ヤツは。
『私は使命を果たさなければならない。かの竜の影の真下まで進まなくてはならない。かの竜を倒すのが来澄の使命ならば、私の使命はこの世界の果てに何があるのか見定めること。私を倒す……? 結構なことだ。互いに別々の道を歩んできたのだ。その終着点がこの船なのだとしたら、それはそれで興味深い』
ア、アレ……?
思っていたのと展開が。
「いや、そうじゃなくて。おっかしいな」
「おかしいのはお前だと思うぞ。何魔物相手にぶつくさと」
ノエルが疑問に思うのも無理ない。けど、アレ。なんでこう、思った方向に会話が。
『私の思いが膨れあがり、この姿を形作ったのだとしたら、それは本望だ。お前は私の使命を阻止するためにこの船へと乗り込んできた。ならばお前は私の敵。私は力をもってお前を倒さねばならない』
魔物の口がカパッと開く。中から赤黒く長い舌がべろんと覗く。
『作戦失敗だな、凌』
と、今度はテラ。
『君が変な挑発をしたせいで、全力で倒すしかなくなってしまったぞ。それとも、これは作戦の内か?』
まさか。作戦な訳がない。
目を覚まさせて、俺たちと一緒にかの竜を倒すよう仕向けるつもりが完全に失敗しただけのこと。
「モニカは物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい敵を倒す方法、知ってる?」
俺は顔を引きつらせたまま、モニカに聞いた。
彼女は神妙な顔で首を横に振る。
「表皮は硬くても、内臓への攻撃は案外効いたりもしますけどね」
へぇと返事をしてはみたものの、どうにも良い方法が浮かばない。
「何、ようやく倒す気になったとか?」
ノエルが馬鹿にしたように言ってくるので、俺も俺で、吐き出すように言い返した。
「んなわけないだろ。諦められるか。親友の命がかかってるんだ。絶対に殺さず、ヤツを止めてみせる」
『また君は、何の根拠もないのに』
テラまであきれかえる始末。
けど。
本当に諦めてしまったら、何もかもお終い。
それだけは避けたい。
「大丈夫、きっと何とかなるさ」
魔物の目がギラギラと光っている。
俺は自分の発言の無責任さに打ち震えながら、必死に魔物を睨み付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます