疑惑2
「フィールド?」
「これはあくまで僕の推測だけどね。あの学校にやたらと干渉者がいる理由、ゲートがたくさんある理由はそこにあるんじゃないかと。悪魔の力を持った干渉者――例えば怜依奈みたいに、本来ならばまっとうな干渉者になり得そうな才能の持ち主が抱いた悪意が、悪魔の力となってレグルノーラに影響を与えてしまっているのも、もしかしたら美桜の力の範囲つまりフィールド上で力を暴走させているだけなのかもしれないと仮定したらどうだろう。狭い範囲で起きている様々な事柄を説明するのにこれほどしっくりくる説明はない。本人の意思とは関係なく、美桜はいろんなものを巻き込んでしまっている。あまり考えたくはないけど、かの竜が更に動きを活発化させ、その力の影響が更に大きくなっていけば、この間の怜依奈みたいなことが今後いつ起きてもおかしくないだろうね」
二人とも、言いたいことはほぼ同じ。
最近起きてる様々な事象は全てかの竜の影響であり、美桜の影響でもある。
美桜にそれを悟らせぬよう、全てを終わらせる。それが最大の目標だが、現実的には難しいだろうことも、当然ジークだってわかっているはず。だからこそ、その続きの言葉が出てこない。
二人して渋い顔して立ち尽くし、ただ沈黙を続けた。
だだっ広い砂漠の奥で一際高く砂煙が立ち上った。サンドワームが地中を這っては出、這っては出て静かな画面の中を移動していく。幸いこちらには向かってくる様子はないが、いつぞやに戦ったことを思い出して、ブルッと背中が震えた。
「シバの帆船がこの先、砂漠の果てでかの竜に出会うことになったらどうする」
ぼうっと地平線の先を見つめていたジークがぽつりと言った。
「どうするって」
俺もその目線の先を追うように、砂漠の向こうへ目をやった。
「砂漠の果てに何があるのか、そんな冒険心だけじゃ済まされない。そもそも、彼は何に焚き付けられて砂漠の果てを目指してるんだ?」
何に。
知ってる。
話を聞いたことがある。
「“ドレグ・ルゴラ”だ」
俺の言葉に振り向いたジークの目は、見開いていた。
「俺の記憶が確かならば、芝山は人間に化けたかの竜にそそのかされた。前に言ってたんだ。砂漠を渡る方法を教えたのも、確かそいつだ。只の二次干渉者に過ぎなかった芝山が自在に砂漠を行き来してること自体に、もっと疑問を持つべきだった。なぁ、ジーク。もしかしたら、俺たちの知らないところで結構ヤバいことになってないか。芝山を……あの帆船を止めた方がいいんじゃないのか」
俺はフラフラと無意識に砂漠に向かって歩き出していた。
そんな俺の左腕を、ジークはしっかと握って自分の方に引っ張り寄せた。
「砂漠に行けば、帰れなくなる。知らないのか」
「知ってるけど」
死に急ぐなとでも言いたげなジークの顔をまともに見ることができず、俺はそっと目を逸らす。
「今行ったところで僕たちにできることは何もない。帆船と“表”を自在に行き来してるシバに、直接“向こう”で伝える方法だってある。違うか」
「だけどあの状況で芝山にどう説明すれば」
「かの竜がどれだけ危険か、必死に説くしかない。けど、かの竜と美桜の関係については絶対にバレないように、だ。正直なところ、かの竜が何故美桜を産ませたのか、彼女がどんな力を持ちうるのか全然見当も付かない。当然、美桜は一人の干渉者として正しく育ったとは思っている。けど、その中に流れるモノを考えると、余計な刺激は与えないのが一番なんじゃないだろうか」
言いたいことが、痛いほどわかる。
わかるだけに、尚更どうして良いかわからない。
左手を掴むジークの手を無造作に払い、俺は深くため息を吐いた。
悔しいが、こんな所までジークを引っ張ってきても、何の解決策も出てこない。立ちはだかるモノが強大すぎて、何をしても非力で、手の打ちようがないのだ。
それこそ、誰にも言わず、協力も仰がず、全てを解決することなんて難しいんじゃないのかと思い知らされる。
情報の共有は難しい。この状況を理解してくれる“味方”がどれくらい居るのか……少なくとも、アイツらには言えない。レグルノーラにだって、力を貸してくれる人が居るのかどうか。
「情報を隠すには、その情報を知っている人間の数が少ないほどいい……って、言うよな」
「ああ」
「ならやっぱり、俺とジーク、二人でやるしかないと思うんだ」
「それがどんなに大変なことかわかって言ってるんだろうな」
「当然。悪いけど、俺には呪いがかかってるから。レグルノーラを裏切るようなことは絶対にない」
ディアナがかけた呪いが、心臓に刻まれている。この世界を救うまで、この呪いは解けることがない。
「……いいだろう。で? どうする。これ以上話を広げられると、結局はかの竜に辿り着いてしまう」
「結局そこに戻ってくるんだよな。さっきも言ったけど、名案なんてない。いっそ、ここからは喋れる、ここからは喋れないってのを明確にすれば、その他は全部喋りたいところだけど」
「となると、思い切って美桜のこと以外は喋ってしまう、とか?」
「その方が何かと楽だろうね」
――パキッと、小枝を踏んだような音が響いた。
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