臭い3
肩から力が抜ける。
美桜のヤツ、妙なところで鋭い。これは本格的に、隠すところは隠さないと、あとで面倒なことになりそうだ。しっかりと情報整理して、俺なりの立ち振る舞いを考えていく必要があるな。
「君、美桜と親しいんだ」
と、ウィルが聞く。
「あ……まぁ、親しいというか、何というか。学校でも一緒だし、何かと俺には言いやすいみたいで」
ハハッと、ウィルだけじゃなくて他のメンバーも苦笑いしているところを見ると、俺たち二人の会話で何か感じるところがあったのか。
「彼女があんな風に感情さらけ出すの、初めて見たわ」と、一人の女性。
「確かに、美桜はいつもクールで、戦うことでしか自分を表現できないなんて言っていたこともあった」と、今度は別の男。
へぇと、美桜の別の一面を知ってうなずいていると、ウィルがスッと右手を差し出してきた。
「いつだったか、ジークに『とある干渉者に、市民部隊への協力を求めている』って話を聞いたことがあった。『まだ力は使いこなせないが、できるようになればかなり強力な助っ人になるはずだ』って。それが、君だったんだな。名前は聞いてる。僕は第二部隊隊長のウィル。さっき名前の出てたライルは、第一部隊の隊長。第一部隊は主に竜騎兵で、こっちは歩兵が主体。近頃頻繁に出るダークアイ殲滅のため、大体はこの二つの部隊が協力して作戦を行ってる。第三部隊は森に張ったキャンプで主に生活支援を、第四部隊は食料や物資の調達と供給を、第五部隊は砂漠の侵食の調査を主に行ってる。もし君が協力してくれるなら、かなり助かる」
ニコッと、優しく微笑むウィルは、兄貴より少し上くらい。面倒見もいいんだろう、部隊の面々も、ウィルに心をすっかり許しているようだ。
「こちらこそ、俺で良ければ」
右手を差し出すと、思いっきり強く握られた。大きく無骨な手だ。
「キャンプにいる第三部隊と連絡を取ることは?」
ついでだ。聞きたいことを聞いておこうと、話を切り出す。
「勿論。連絡は密に取り合ってるよ。お互いの情報を共有しなくては、万が一のとき対応できないからね」
「じゃあ……、キャンプに砂漠の帆船から物資の要請があったことなんかも、ある程度把握を?」
「ああ、彼らは定期的に森へ寄るからね。最近は街へ行っても店が軒並み閉まってるからって、キャンプに寄っているそうだね。柄は良くないが、気はいいヤツらだって聞いてる。砂漠の魔物についても情報をくれるし、時空嵐の発生箇所や森の消滅箇所も、彼らが居ることで把握できていることが多いんだ。それが、どうかした?」
「その帆船の
「見慣れない……? さぁ、わからないな。君自身がキャンプへ向かって確かめた方が早そうだけど、場所は知ってる?」
「いや、全然」
「ここからあのビル群を抜けた先へ真っ直ぐ進むと、キャンプへ出る。一本道じゃないからイメージしにくいかもしれないけど、近くに目印の大きな泉があるから、わかるんじゃないかな」
ウィルが指差した先には、いつぞやにジークとエアバイクの尻に乗ってダークアイと戦ったとき、空中で何度もぶつかりそうになったビルがいくつもそびえ立っていた。
なるほど、何となくだが、位置関係が掴めた。
「今行くなら、送ろうか?」とウィル。
「ありがたいけど、まさか、魔法で? それともエアカーとか」
「いやいや。竜の背にでも乗せてやろうかと」
言ってウィルは指笛を吹いた。途端に、バサバサと上空から音がして、瓦礫の真上に、巨大な黒い影ができる。大きく羽を広げた翼竜は、さっきまで上空でダークアイを威嚇していた個体のようだ。
ゆっくりと高度を下げて、瓦礫の上に降り立つ竜。その背には、既に人が乗っている。
「ウィル、呼んだ?」
竜の背で男が叫ぶと、ウィルは大きく手を振って、
「呼んだ。ちょっと貸して。これからキャンプに彼を連れてってくる」
男はわかったと手を振り替えして、スルッと竜の背から降りた。
「さっき協力してくれた干渉者なんだけど、キャンプに用があるそうなんだ。ちょっと借りるよ」
「了解了解」
パンと手をたたき合って、男は竜をウィルに預けた。
「見てたよ、上から。結構いい動きしてたじゃん」
すれ違い様に声をかけられると、急に恥ずかしくなる。
「ああ、ありがとう、ござい、ます」
頭を掻きながら、俺はぺこぺこと、何度も頭を下げてしまっていた。
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