ディアナの使い4
「あ、ああ。ごめんなさい。紹介もせずに。私は美幸。ディアナからは本当にお世話になってるわ。今回のこともありがとうと伝えてね。そしてこの子が娘の美桜。四歳よ。それから、銀髪の彼は私の竜、深紅。今は人間の姿をしているけど、元々は金色の竜なの。そして隣にいるのが凌。彼も干渉者なのよ」
「へぇ」
言いながらジークは、青色の瞳をこちらに向け、ジロジロと上から下まで眺めてきた。
「あんまり凄そうには見えないな。中の中……。僕の方が上、かな」
何が中の中だ。顔か。
「ま、とりあえず、僕の任務は果たしました。昼飯も逃したので、もう戻ります」
「え? お昼まだなら、食べていけばいいのに。少しなら、食べるモノあるわよ。おやつの時間も近いし、食べていきなさいよ。自家製だけど、パンと、それからスープも、煮込みもあるんだけど」
「いや、そういうわけには。ただでさえ時間かかってるので、早く帰らないとディアナ様にも叱られちゃうし」
「ディアナには私から言っておくから。ね、食べていきましょ?」
「え……あ……、はい……」
美幸の笑顔につられ、ついつい返事をしてしまったようだ。ジークは返事をしたあとも、困ったように頭を掻いていた。
「先に、契約だけ済ませちゃおうか。深紅、ジークのこと中に入れてあげて。美桜はこっちよ」
美幸はそう言って、竜の手綱を引き、ロッジの外階段を降りていく。前庭で竜と契約しようとしているようだ。
俺とテラはいけ好かない小さなジークを室内に招き入れ、ダイニングテーブルへと案内した。
ジークはジロジロと天井から部屋の隅っこまで眺めては、ふぅんと小さく頷いて、何か考えることでもあるかのようだ。
テラが台所に引っ込むと、ジークは一層、俺のことをガン見した。あまりにジロジロと見てくるので背筋が凍る。
「なんだよ」
思わず尋ねると、
「ディアナ様があなたの話をしてたんだ。未来から来た? 凄い力を持ってる? ……嘘くさい。どっからどう見ても、その他大勢の一人って感じだけどな。ま、僕には関係のないことか。他人のことを気にするくらいなら、まず己を鍛えなさいと、ディアナ様もおっしゃってたし」
ディアナがどんな話をしていたのか、想像は付く。未来のディアナもこっちのディアナも、一体俺に何を期待してるのか。
「まさか、美幸さんの恋人とかじゃないよね。未来から来たなら、年齢合わないもん」
「そんなわけないだろ」
「だよね。年齢もだけど、見てくれがまず釣り合わない」
本当に失礼なヤツだ。
いずれジークは、美桜のことを妹みたいに可愛がる、頼りがいのあるいい大人になる。頭でわかってはいるが、今この状態だと、年下の坊主に啖呵切られてるとしか思えない。
ここで人間は顔じゃないなんていう迷台詞を吐こうものなら、自分で自分の首を絞めることにもなるし、ここはグッと我慢。我慢しなくては。
「それにしても、こんな所に隠れてて大丈夫なの。ディアナ様の張った結界とはいえ、飛んで来た瞬間、ビリビリと干渉者の力感じたし、せっかくの竜も人間の姿してたんじゃ、門番の役目も果たせない。上位の干渉者なら、直ぐに見つけてしまうんじゃ……」
ジークは、余計なことを言った。
言葉には魂が宿るという。ハッキリと言葉にしてしまうと、現実味を帯びる。だからこそ、思っていても誰も何も喋らなかったのに。
ドンと、大きな破裂音が外に鳴り響いた。
俺たちはとっさに外へ向かった。
美桜が、泣いている。
美幸が何か叫んでいる。
黒竜の甲高い鳴き声と、羽を必死に動かす音。
玄関扉を開け放ち、俺たちが見たものは――、白いマントを羽織った五人の大人たちに囲まれた、美幸たちの姿だった。
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