26.生死の狭間
生死の狭間1
心臓が、焼けるように熱い。
文字が、見える。
心臓をグルッと囲うようにしてまとわりつく、光を帯びたレグルの文字。
実際に見えているのか、脳内に浮かび上がったイメージなのか。俺にはもう、その判別さえできなくなっていた。
身体中麻酔をかけられたみたいに感覚が痺れて視界はぼんやりしていたし、手足の先まで針金が通ったみたいに硬直して思い通りに動かなかった。喉の奥から捻り出したようなうめき声も、自分ではどうすることもできなくて、ただただなされるがまま、ディアナに身体をゆだねていた。
いつもと同じはずの天井がぐにゃぐにゃと歪んで見える。ベッドの上でディアナに身体を拘束されているからそう見えてしまうのか、はたまた、俺自身の感覚がおかしくなってしまっているのか。
高くなった日差しが窓から急激に降り注ぎ、視界を白くする。
ディアナの唱える呪文が脳内を駆け巡り、文字と共に俺の心臓へと吸い込まれていく。
『全てを、解放せよ』
レグルの言葉でディアナが言う。
文字が一つ一つ、心臓に焼き付いていく。初めてレグルノーラへ連れて行かれたあの日、美桜にやられたのと同じように。ジュッ、ジュッと、一文字ずつ焼き付いては光を失っていく。
ディアナやジークが言う“能力の解放”の果てには、一体何があるのだろう。
身動き取れないベッドの上で、俺は天井を仰ぎ見ながら、ふとそんなことを考えていた。
もし“能力が解放”されたとして、俺はこれから先、どうしていけばいいのだろうか――。
それからしばらく、俺の意識はかなりぼんやりとしていた。
・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・
「凌、どうしたの、凌!」
遠くで母親の声がする。
俺の仰向けの身体を大きく揺すって、心音と呼吸を確かめている。
「おと……お父さん! 凌が!」
慌てたように携帯電話で父親を呼ぶ母。声はかなり震えていた。
確か、パートの仕事が午前に終わり昼過ぎには帰ってくる日だった。
朝ご飯半端にして“レグルノーラ”に飛んだから、台所も片付けてない。いつもなら、忙しい母を気遣って飯平らげたら綺麗に食器まで洗っておくんだが、そうしていなかったことで何かしら異変があったと思ったんだろう。普段殆ど立ち入ることのない俺の部屋に母親が入る切っかけなんて、そんなものだ。
営業職で土日も出張ることの多い父を、母は必死に呼んでいた。
諭されたのか、一旦電話を切って、それから119番にかけ直す。
程なくして、救急車のサイレンが耳に入ってきた。
・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・
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