選択肢2
夢想癖があると、兄にレッテルを貼られて以来、俺は人前で自分のことをさらけ出すことができなくなっていた。
俺は他人と、どこかが違う。
思うことで、更に自分の殻に閉じこもるようになる。
目つきも悪くなるし、人との会話にも混じれなくなる。
当然のように友達は減るし、誰も俺を誘わなくなる。
「来澄君てさ、キモいよね」
デリカシーのない女子に、面と向かって言われたこともあった。
キモい。そうかもしれない。
女子から見たら、俺は相当キモいのかも。
ヒソヒソと俺の変な噂を流すヤツもいた。来澄はキモオタで、根暗で、危険人物だと。
噂は酷く心を抉るような内容ばかりだったが、俺は友達なんか作らなくても何とか生きていけると考えるようになっていたし、そんな思考のヤツらとつるむのも嫌だった。
どうせ学校での友人関係なんて、いつかは消える。ほんの数年間の限られた間に仲良くなったって、進む道はそれぞれなんだから、繋がり続けることなんてあり得ないはずだ。
だから、俺は孤独でいい。
そういう思考回路で、ずっと、何年も過ごしてきた。
それを劇的に変えたのが、美桜の存在だった。
――『見つけた』
――『何が、だよ』
――『あなたのことを、ずっと、探していた』
ふと、記憶の中の青い目の女の子と、美桜を重ねてしまう。
そんなわけはない。
あどけない笑顔の彼女と、冷たい含み笑いで俺を“裏の世界”に引きずり込んだ彼女が、同じ人物だなんて、あるわけがない。
もしそうだったとしても、俺はその先に、何を期待していたんだ。
・・・・・‥‥‥………‥‥‥・・・・・
「私のこと、好きなんでしょう」
美桜が言った。
いつもの、冷たい眼差しのままで。
「な、何言ってんだよ。正気か」
放課後の教室、長く伸びた窓の影が半分、美桜にかかった。
彼女は、眼鏡を無造作に外して教壇に置くと、一歩一歩と、教室の中央で立ちすくむ俺に近づいてくる。
心臓が、高鳴っていた。喉が、乾いていた。
「私、知ってるのよ。あなた、私で何度か、抜いたでしょう」
ドキッと、身体に衝撃が走った。
な、何て卑猥な。
確かに、抜いたことがないわけじゃないけれど。
「私のことを、そういう対象にしたいんだって、思っていながらずっと我慢していたのね。手を握っても、唇が触れても、胸が当たっても、凌ったら全然興味のない素振り。……ねぇ、私のこと、本当はどうしたいの」
言いながら美桜は、ブレザーのボタンを一つ、一つ、外し始めた。
「ねぇ」
茶色い髪が、揺れている。
ブレザーがバサリと、床に落ちた。
「私は、凌の、なんなの?」
スルッと、今度は首元の赤いリボンがほどける。そしてまた、はらりと床に落ちていく。
「いつだったか、凌は私に言ったわよね。『俺って、美桜の、なんなの』じゃあ、私も聞くわ。私は、あなたの、何? 干渉者仲間? 干渉の先輩? クラスメイト? 知り合い? 唯一話せる女子? 急に男女の仲を認めた、変な女? それとも……」
胸元のボタンが、いつの間にか殆ど外れていた。
ブラウスの中から、白いレースのブラジャーがチラ見えしている。
何を、考えているんだ。美桜、お前は――。
「……うっ」
背伸びして、首に両手を回し、無理やり唇を重ねる。
柔、ら、かい。
身体が、火照る。
美桜とはそういう関係にならないって決めていたのに、身体が言うことを聞かない。
華奢な身体に手を回し、背中のホックを必死に外そうとしている俺がいる。理性なんて吹っ飛んでしまう。好きな女が目の前で俺を誘っているのに、何もしないなんてできるわけがない。
「やっぱり、そういうこと、したいのね」
誰か、第三者が見ているかもしれないというのに、俺は自分で自分を止めることができなかった。
美桜の舌が、絡みついてくる。
白いショーツが、スカートの中からはらりと床に落ちた。
これはつまり、そういうこと……?
口先だけじゃない、本当の男女の仲に、なろうとしてるって、そう、思っていいんだよな、美桜……。
………‥‥‥・・・・・━━━━━■□
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