どうすれば3
「それにしても、あんなことくらいで嫉妬するなんて馬鹿みたい。私のような女があなたと付き合ってるのがいくら不合理だからって、魔物を発生させるほど嫉妬するのは異常だと思うわ」
「ハァ?」
な……何かが、おかしい。
美桜は何か、大きな勘違いをしている。
嫉妬されているのは俺で、美桜みたいな美少女と何の取り柄もないパッとしないブサメンが付き合ってるなんてあり得ないって陰口叩かれてるのも俺で、美桜は嫉妬の標的になってるわけじゃないと思っていたんだが。
あのときだって、俺のことを酷く言う声があっちこっちで聞こえていたというのに。
「嫉妬の対象は、私よ。凌じゃない。それは間違いない」
美桜はまだ、そんなことを言う。
「逆だろ。『来澄凌なんていうキモい男が、芳野美桜っていう美少女と付き合う理由がわからない』って、俺にはそういう声が聞こえてたけど?」
口調を強めた俺に、美桜は大きく首を横に振った。
「私には別の声が聞こえていたわ。『最低な女ね』『公衆の面前であんなことまでやるなんて、本当はかなりの男好きなんじゃない』『芝山君可哀想、あんな女に惚れてたなんて』『普段はツンツンしてるのに、実は淫乱なんだ』『ついに本性を現したわね』『人間として最低』『自分がモテると思って、あんなことをしてるんじゃないの』『だから友達がいないのよ』……悪意の塊がうずいていた。私は気丈に振る舞うのが精一杯だったというのに、やっぱり凌の耳にはそんな声、微塵も聞こえてなかったってわけね。“自分に都合の悪いことが優先して聞こえてくる”って、聞いたことあるもの。互いに、自分に対しての悪口ばかり聞こえていたということなのかしら」
眉間にシワを寄せ、ギリリと奥歯を噛む美桜の様子から察するに、彼女の話は本当で、それによって彼女はかなり傷つけられているということか。
俺は……、俺は何を言われても今更感があるが、美桜には耐えられなかったかもしれない。もしかしたら、内面はものすごく繊細なのだろうか。
「ちなみに……言ってたのって、やっぱり女子……、なのか」
「どっちってわけじゃないわ。男も女も関係なしに、酷い言葉を浴びせていたもの。――ところで、凌は最近、誰かに付けられているような気がしない?」
「付けられてるって……」
「誰かに、ストーキングされてる気がしないかって、聞いてるの」
「ハァ?」
思わず大きな声が出た。
ストーキングって、また物騒な。
「誰かが、私たちの後を付けてるみたいなの。二人で一緒にいるとき、特に視線を感じるのよね。放課後に会うのをやめようって言ったときも、屋上でレグルノーラに飛んだ後も、気持ち悪いくらいねっとりした視線を浴びせてたわ。学校では二人きりになれる場所を探しても無理。だから今日ウチに呼んだの」
「あ……ああ、それで」
納得した。
突然女が男を自宅に招くなんて、ああいうことやこういうことになってもOKだよって意味だと勝手に思い込んで、ついでに実行してしまうところだった。美桜に限ってそれはないだろうと踏んでいたが、そういうことか。
本当に聞かれてはマズい話……、敵に関しての情報共有をしたかった、と。
「さっきも、公園に誰かいたでしょう」
「え?」
さっき?
ツツジ公園で、誰かが俺たちを見張っていた……のか?
何の警戒感もなく美桜の私服を想像し、今日何が起こるのか想像し、デレデレと変な顔しながらスマホいじってた俺が、第三者の視線なんかに気付くわけない。美桜が肩を叩くまで、後ろから彼女が歩いてきたことすら気が付かなかったというのに。
「やっぱり……、凌は気付いてなかったのね。ここ最近、ずっと誰かが私たちの後ろを追ってるのよ。屋上で今日のことを約束したじゃない。それも全部立ち聞きされていたみたい。人影が見えたもの」
サーッと、血の気が引いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます