16.微妙な関係
微妙な関係1
サーシャは、“表の世界”の俺たちに近い格好をしていた。如何にも森の中を駆けずり回ってきたと言わんばかりに汚れた服は、胸がはだけて谷間がくっきりと見えているし、ショートパンツは下半身の大事なところを辛うじて隠しているくらいピッチリとしていた。編み上げのサンダルを履いているからか、足がものすごく長く見えて、太ももの締まり具合が気になってしまう。
目のやり場がない。
重たい道具袋のようなモノを担ぎ、腰に結わえたポーチから銃身がはみ出している辺り、この世界の住人らしいっちゃらしいのだが。
ショートよりももっと短いクセっ毛に、優しそうな黒い瞳。黒い肌にピンク色の厚ぼったい唇が、妙に色気を出している。
「またそんな格好で森にいたの?」
「まぁね。ミオが心配しなくても、ちゃぁんと虫避け塗ってるから大丈夫大丈夫。最近売り出された魔物撃退リングってヤツも腕に付けてるし。効果あるかどうか知らないけどさ。リリィはこっから出てる電波? が苦手なんだって。メチャクチャ嫌がられるけど、少しは慣れてきたみたい」
サーシャは腕に付けた金属製のリングを美桜に見せびらかし、なにやら自慢しているようだ。美桜は興味なさそうに、そうなのと適当な相づちを打っている。
美桜が同じくらいの年頃の女子と楽しそうに会話するのを初めて見た。
ジークのときもそうだった。美桜はレグルノーラの人間とは親しげに話す。この差は一体何なのだろう。“表”と“裏”で彼女はどうしてこんなに。
ぼやっと考え事をしながら二人の様子を見ていると、サーシャがズンズンと目の前まで迫ってきた。俺の顔を面白そうに覗き込んだ挙げ句、
「誰? 君。まさかミオの彼氏?」
胸の谷間が一層くっきりと見える。
ヤバイ。
必死に目を逸らすが、サーシャはそんな俺の視線が動く場所にわざとらしく身体を動かして、まじまじと観察してくる。
「か……彼氏じゃないです。いや、彼氏? 彼氏なの?」
助けてと美桜に視線を送るが、彼女は相変わらず微動だにせず、ニヤニヤと笑いながらこっちを見るだけだ。
「いいんじゃないの、彼氏で」
面倒くさそうにそんなことを言って誤魔化すから、サーシャはあんぐりと口を開け、
「ホントに! 趣味悪いね、ミオ!」
……腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。
酷い。本当のことだけど、あんまりだ。
自分の顔にはからっきし自信ないが、“こっち”の連中と来たら何の遠慮もなしに思ったことを口にする。もっとこう言いようがあろうに、どうして心をえぐるような言い方をするかな。といっても、本人たちには自覚がないんだろうけど。
「それにしても、リリィは賢いわ。『ミオが来る』って教えてくれてね。そんで慌てて食料詰め込んで小屋に向かってきたら、本当にミオがいるんだもん。ね、ちょっと休んでくでしょ?」
「ええ、そのつもり。彼も一緒だけど、構わない?」
「大丈夫、歓迎歓迎。食材は足りると思うよ」
「だって。凌、小屋に戻るわよ」
二人の女性に圧倒され、俺はただハイハイと気のない返事をしながら、長いため息をついた。
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