第37話 じいちゃん
顔を腫らしながら俺は考えていた。
どうすればクソ親父を出し抜くことができる?
あのクソ親父には悪意はない。
と言うよりもやっていいことと悪いことの区別すらつかない。
悪意なく人を破滅に追い込む。
死人が出てもそれに感情移入することができない。
寿命のある悪魔としか表現ができない。
せめて悪意があればそこを利用して嵌めることができるのだが……悪意があるのはまだ善良だということだろう。
目的は血の繋がらない俺を王にすること。
理由は俺を愛してるから。
そのための手段がカオスだ。
血は繋がらないけど王家の血を引く弟を殺す。
正妃も殺す。
正妃派の貴族も全皆殺し。
しかも親父、王は一切手を汚すことなく悪意をばらまくだけでお互いに殺し合いをさせるのだ。
人間の闇の部分を凝縮したような人間なのだ。
ギュンターはまだ物理攻撃だから対抗する手を考えることができた。
でも王に対抗する手段が思いつかない。
どうすればいい。
「殿下」
フィーナの声が聞こえたが俺はそれよりも大事なことがあった。
「どうすればいい……」
「殿下ー!」
「どうすれば……」
「おーいマザコン」
「ま、マザコンちゃうわ!!! いいかげんにしないとおじさん開けちゃいけない扉開けちゃうよ!」
「聞いてるんじゃないですかー。もうグレイ公爵がお見舞いに来られました」
「はい?」
「ですから殿下のお爺さまが殿下のお見舞いに来られましたよ」
ふぁ、ふぁっく……
さらに事態が面倒になった!!!
……うん、逃げよう。と思ったが動けない。
チート能力者なら痛むなど超越してるはずなのに!
俺が藻掻いていると問答無用でグレイ公爵が入ってくる。
「おーい、お母ちゃん大好きっ子おじいちゃんだぞー」
「ま、マザコンちゃうわ!!!」
思わず言い返してしまったが、目の前の白髪を長髪にしたかつての伊達男がグレイ公爵だ。
若いころは将軍職に就きブイブイ言わせたらしいファンキーなジジイだ。
「おー元気じゃの。我が孫よ。
「グレイ公爵」
「お・じ・い・ちゃ・ん!」
「おじいちゃん。私は出生の秘密を知ってしまったので……」
「おう、小せえことは気にすんな。お前は俺のかわいい孫だ。んで、喧嘩に勝ったって?」
「私は逃げ回ってただけです」
「またまたー嘘ばかり。エリックには一対一で完勝。ギュンターにも足に噛みついていいところまで行ったって」
なんで知ってるんだ、このクソジジイ。
「なんて知ってやがるって顔してるな。あのな騎士なんて言うのは大人になれないガキの集まりなんだ。どんなに隠蔽しても誰が誰と喧嘩して勝ったなんていう噂はどうやったって漏れるんだよ。あー、安心しろ。騎士は喧嘩の勝敗にしか興味ないから」
男子校のヤンキーかよ!
「それにしても……」
あー、お説教ですね。よくわかります。
「でかした!!! じいちゃん大満足!」
グレイ公爵はそう言って親指を立てる。
喧嘩に勝って褒められる。そこのヤンキーの家だ。
誤解を解いておこう。強いなんて思われるのは困るからな。
「エリック叔父は体調不良。ギュンターには思いっきり手加減されました。それで勝ったなんて言われても釈然としません」
俺は全ての戦いで王の陰謀の後押しがあった。それに運も良かった。
つまり次やれば必ず負ける。全て1回こっきりの戦術だ。
「そうかね。ギュンターに聞いたぞ。高度な投げ技と関節技を使ったってな」
「腕力が伴わなければ勝てないのだけはわかりました。やはり片足タックルか牛殺しから腕を極めた方がよかったですね。いやむしろ小手返しとかの技の方が……って会ったんですか! 匿っていたはずなのに!!!」
「おう。かわいい孫を殺そうとしたんだ。弱ってる今のうちに始末しようと思ってなちょっくら会って来た」
この人怖い……ヤダァッ!!!
「だけどな……二人とも言ってたぜ。家族のために必死だったお前にシビれたってさ。思わず殺すのやめちゃったよ! がははははは!」
その言葉を聞いたとき俺はフィーナの言葉を思い出していた。
『本気を出さないで飼われているだけのバカ王子』
そうか……やはり全力でやらなければ人の心をつかむことができないのか……
「んで、なにをそんなに悩んだ顔をしてるんだ? じいちゃんに話してみないか?」
「ええ……父上を出し抜くにはどうすればいいかなと……」
「やっぱりジョン坊が暴走したか……」
……あの父上をジョン坊なんてこれが本物の伊達男か。
「父上は私を王にするつもりです。そのためには手段を選ばない……私は王家の血筋であるランスロットを王にするつもりです」
「うちの孫は真面目だなあ。おいおい。そんなんじゃ人生面白くねえぞ」
「面白い面白くないの問題じゃ……」
「あのな。この王家な三代前に断絶してるからな」
「……はい?」
「これは言ったら断首ものの話なんだけどな、この王家は三代前に絶えてる。妾腹の……まあ実際は血統を偽った王が王の血筋を根絶やしにしたからな」
「……はい?」
「あのな王家なんて言ったってそんなもんなんだよ。誰が王にふさわしいかなんて
言い返す言葉がねえ。
だから俺は本音で話すことにした。
相手は実戦を経験した古狸だ。
この場では修辞は意味をなさない。
ならばこちらも気合を入れて話す必要がある。
「じいちゃん。俺は父上を超えないといけないんです。それもすぐに。父上の命は長くない。俺は王にならなくてもいいけど、俺を支えてくれた人たちの身の安全だけは確保したい」
言ったあとで『私』ではなく『俺』と言っている事に気づいた。
そこまで気を使う余裕がないほどおれは真剣だったのだ。
じいちゃんは白髪をボリボリと掻いた。
そして『にやあ』っと笑うと最高に悪い顔をした。
寿命のある悪魔を超える鬼の笑いだ。
ここだけ見ると血が繋がっていないのが不思議なほどだ。
「お前の覚悟。気に入ったぞ。それだけ生意気なことが言えるって事はなにか企んでるんだろ? じいちゃんが手を貸してやる。ほれほれ、言ってみろ!」
「ああ……あるよ。でもじいちゃんの力でも難しいかも。でも言うよ」
俺は親父に勝利する一手をじいちゃんにぶちまけたのだ。
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