第6話 一緒に食事

「と、いうわけでこれから俺の食事はフィーナ嬢に作ってもらうことになりました」


 俺はニコニコと微笑みながら言った。

 フィーナは涙目でゴキブリを見るような冷たい視線を俺に向けている。

 いいの?

 そういうことするとおじさん何かに目覚めちゃうよ?

 というのは冗談で、フィーナのこの反応はしかたないだろう。

 10歳児の知能では感謝しろっていうのも無理がある。

 おいおいわかればいいだろう。

 くくくく。理解したときのカタルシスが楽しみだ。


「……何を仰っているのかわかりません」


「運ばれてきた料理は信用できない。現時点で私が信用できるのは子分のお前だけだ。料理作ってくれ」


「……殿下。個人的に毒を盛ってやりたくなったのですが」


「あのな、すでに俺とフィーナは一蓮托生だ。俺が成人してそれなりの地位に就いたら実家にもお前にも恩返しをする」


「恩返し?」


「ああ。金でも名誉でも俺ができることならなんでも叶えてやる」


「……うーん」


 フィーナが悩んでいる。

 まあ10歳の女の子の想像力では「なんでも」と言われても想像は難しいだろう。


「あ、お姉様がお姫様になりたいって言ってました」


「いいよ」


 俺は即答する。

 実はそれは生存計画の一部でもある。


「で、できるんですか?」


「ああ、方法はいくらでもあるがもう考えてある」


 そう言うとフィーナはにっこりと笑う。

 俺もにっこりと笑う。

 そして同時に俺は心の中でほくそ笑む。

 くくく。

 一人の純真な人間を汚すのってこんなに楽しいことだったのな。


「では料理してもらっていいかな?」


「いいですよ」


 フィーナはニコニコしていた。

 ここからフィーナの受難が始まるのだ。

 その受難のほとんどは俺が与えるんだけどな!

 ……と、人ごと風にまとめてみた。



「はい。できましたよー♪ 二人前のお料理♪ 仰るとおり、銀が変色しないように卵抜きですよー♪」


「おう、そこに座れ」


 俺はテーブルの向かいにフィーナの席を作ったのだ。


「え?」


「お前も一緒に食べるんだよ」


「あ、あの……プライベートで一緒の食卓を囲むと言うことは家族であるという意味で……」


 うん知ってる。


「まあなんだ。二人とも同じものを食べるんだ。毒を入れられないかちゃんと確認しろよ♪ じゃないとお前も死んじゃうぞ♪」


「……イジワル!」


 くくく。

 なんとでも言え!

 貴様と俺は一蓮托生なのだからな!!!

 だが貴様はあとで思い知るだろう!

 良い買いものをしたとな!!!

 ぐあーはっはっは!

 と、外道そのものの思考をしながらフィーナの作った料理を口に運ぶ。


「美味しい」


 普通の家庭料理だ。

 だがちゃんとした味だ。

 それは壮絶な使い回しより美味しく感じられた。

 フィーナは褒めたせいか機嫌がいい。

 チョロいな。

 このタイプは褒めて伸ばした方がよさそうだ。


「でもいいんですか?」


「なにが?」


「いえ、このお料理は使用人用の食材ですよ?」


「原料に毒が入ってたら回避できない。それに高級食材はちょろまかすのが難しい」


 それに味の違いがわかるほど俺は繊細な舌はしてないしな!!!


「ふーん」


「それにフィーナの料理は美味しい」


 俺が褒めるとフィーナは顔を赤くした。

 どうやら褒められ馴れていないようだ。

 チョロいぜ!


「あとは寝るときだな。」


「どうされるんですか?」


「まあ楽しみにしてろ」


 俺はニヤリと笑った。

 その後、俺はいつもより食べ過ぎた。

 やはり誰かと食事するってのはいいものだ。

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