第5話 第二の暗殺事件
俺は部屋に戻った。
メイドの誰かが掃除したのだろう、部屋がキレイになっていた。
これでは本を隠す場所がない。男の子はどうやって生きていけばいいのだ!
意味不明なことを考えながら俺は部屋を観察した。
部屋には窓ガラスはない。
木戸だけだ。
そもそも城は要塞だ。
攻め込まれた時のために壊れやすい物では作られていないのだ。
なので多少居住空間としては少々不便があるのだ。
俺はぶつぶつ文句を言いながら木戸を開けようとした。
城内は戸を開けないと暗すぎるのだ。
いつもより木戸ががっちり嵌まっている。
嫌な予感がする。
俺は体重を使ってムリヤリ窓をこじ開ける。
意地でも開けてやるからな!
本気で力をこめるとがたんと言う音とともに窓が開いた。
窓には泥に藁を混ぜた物が塗ってあった。
まるで密閉をするかのようにだ。
冷たい風が頬に当たった。
今日は寒くなるだろう。
そうか気を利かせて部屋の保温のために泥を塗ったのか。
いやあ感心感心。
素晴らしいなあ。
俺は部屋の中央に置かれた火鉢を見る。
この部屋には暖炉も煙突もない。
理由は複数ある。
まず大きな理由は100年前の築城時には、まだこの世界に暖炉が存在しなかったため、この城には暖炉のない部屋が多い。
小さな理由は火遊びさせないようにわざと暖炉のない部屋をあてがわれている。
火事になるからな。
その代わりの火鉢だ。
中を見るとすでに炭がセットされている。
アロマ用としてポプリもセットされている。
前世の会社でもこんなに気が利く仲間はいなかったなあ。
おじさん感心しちゃう。
って、そんなことあるかー!!!
一酸化炭素中毒狙いまくりじゃねえか!
どうせこの火鉢の方にも何か仕込んでいるんだろ!
俺は火事防止用の金網のフタを外し、火鉢の中のポプリを火かき棒でつつく。
乾燥した花や香草が容易にバラバラになる。
俺はその中に見覚えのない枝を見つける。
……やはり!
「夾竹桃ですな」
俺の後ろで声がした。
音も立てずにゲイルが後ろに立っていた。
全然気づかなかった。
「夾竹桃?」
「ええ、非常に強い毒草です。おそらく火鉢と夾竹桃の二重の策だったようですな。夾竹桃は燃えてしまうので死因は火鉢での不幸な事故となるでしょうな」
全力で殺しに来ている。
これはちょっとまずい事態だ。
「念のために殿下の安全を確かめに来ましたが、どうやら相手は本気のようですな」
「……こんな露骨な悪意をぶつけられたのは生まれて初めてだぞ」
悪意を持って俺の命を取りに来ている。
これで確定した。
脅しでも警告でもなく明確な殺意だ。
その事実を自覚すると俺はさすがにヘコんだ。
これで犯人が母上だったら俺は一生立ち直れないぞ。
ま、マザコンちゃうわ!
地味にヘコんでいる俺にゲイルは容赦なく言った。
「私なら念のためにさらに食事にしびれ薬を混入するでしょうな。ふむ、今度から食事は信頼できるものに作らせてください。なんなら私が作りましょう」
そこで俺は初めてにやりと笑った。
「問題ない。それに関してはもう考えてあります。暖をとる方法もね」
ゲイルの手料理は悪くない案だ。
だが実現不能な問題もある。
食事のたびに寮に行くのも問題だし、来てもらうのも難しい。
道化師は目立ちすぎるのだ。
教育に悪いとかの難癖をつけて排除されるだろう。
俺も食事の方は対策を考えていた。
アイツに多少被害が出るがまあ仕方がないだろう。
埋め合わせはするつもりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます