第27話「救済の光」
「繋がれ!繋がれ……!」
ガンジーは祈るような気持ちで通信機のダイヤルを捻る。少しでも影響の少ないチャンネルを探し、クーカイとの通信を回復するためだ。
背後には、追手の街の人間が近づいている。
『……ジー!聞こえるか!』
雑音の中、微かに声が届いた。
「聞こえる!聞こえるぞ!」
『中継側との通信をレーザーに切り替えた。居場所を教えろ!』
「街の出口に向かってる。今は上り坂の上だが、それどころじゃねぇ」
『すまん、まだ少し時間がかかりそうだが……どうした』
「新手のデカブツが3体、街外れから近付いてる!さっさとずらかるぞ!」
僅かな沈黙。
『……脱出経路が問題だ。敵が三体だけという保証は無い』
もしも運悪く取り囲まれれば、どうなるか。二人は知らぬことだが、武装移動キャラバン寺院『ガンダーラ』の二の舞いとなろう。
「詳しい話は合流してからだ!」
『ああ、ザッ……でもいい。注意を逸らすことさえできれ』
「おい!おい!」
通信が再び途切れた。ガンジーは思わず無線機をコンコン叩く。得度兵器接近の影響か。それとも、ドローンや通信アンテナに不具合が生じたのか。
「きてる!」
折悪く、背後を見張っていたガラシャが駆け寄る。街の人間の追手は、すぐそこまで迫っていた。
農機具を持った人々が、じりじりと包囲網を縮める。
「娘を返せ!君達のご両親も泣いておるだろう!」
代表らしき男が、ガンジーに向かってメガホンで呼び掛ける。
「それどころじゃねぇ!得度兵器が、あのデカいのの親戚が、こっちに近付いてんだよ!」
ガンジーは動く螺髪頭を指し示す。
「おお……」
街の人間達は思わずその場で跪き、地面に伏した。一度は失われたかに思われた彼等の救いが、再び近付いているのだ。もはや、彼等の大半はガンジーのことなど見てはいない。
「ってオイ」
「……けっきょく、こうなるんだ」
ガラシャは、失望したような目で街の人間達を見下ろした。
三体の得度兵器は、廃墟の向こうからゆっくりと近づいてくる。彼等は一刻も早く仲間の救難信号に応えるため、長距離を高速で移動し続けた。故にそのエネルギーは残り少なく、減衰率の高い徳エネルギー兵器の使用には、いつも以上に対象まで接近する必要があった。
ガンジーはその場から一歩も動けなかった。既に3体の機械仏は、肉眼で螺髪を数えられるほど接近している。
クーカイはまだ来ない。通信も回復しない。ガラシャは、そっとガンジーの服の裾を握りしめた。
「……ここまでかよ」
思わず、口から弱音が零れた。ガンジーの脳裏で、走馬燈が回り始める。
記憶の光景は、次第に過去へと遡る。
廃寺のトラップで死にかけたこと。クーカイと出会った日のこと。採掘屋の街に辿り着いた日のこと。廃墟を漁り、生きている人間を必死に探し続けた日のこと。そして、徳カリプスの日のこと。全てが変わったあの日。目の前で塵に変わった両親。仄かな桃色の光。
得度兵器の指先に、同じ色をした救済の光が灯る。
「もう……見飽きたよ」
ガンジーは思う。解脱した人間は、何処へ行くのだろう。この先で、自分は再び家族に会えるのだろうか。
徳無き世界で生きるものには、もはや機械仕掛けの救いしか訪れることは無いというのか。
否。
例えこの世界が滅びに瀕し、浄土は彼方にあろうとも。足掻き続ける者が一人でも居る限り、慈悲の尽きることは決して無い。
「浄土は遥かに遠く、終焉は遥かに近い」
誰かが、ガンジーの耳許で囁いたような気がした。
「こんな世界を変えられると知ったら、君はどうする?」
お前はまだ、生を辞するべきではないのだと。世界は、変えることができるのだと。
「『僕』は、それを語るものだ」
次の瞬間、得度兵器の顔に亀裂が走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます