第28話「舎利ボーグ」
ミリミリ……メシッ……バキィ!
得度兵器の仏像を模した顔が、割れた。
その胴体部分にも、全体に大きく亀裂が入る。いや……生木を裂くような力技で、押し広げられている。
「柄じゃあ無いんだがな……」
先程の囁きとは違う声。2つに割れた仏顔の向こうに、ボロ布を目深に被った女が居た。
女の背からは光の粒が吐き出され、はらはらと地面に舞い落ちる。女は人間ではなかった。肉体を舎利バネティクスと徳エネルギーによって強化した存在、言うなれば舎利ボーグであった。
その場の誰もが絶句した。2つに割れた得度兵器はゆっくりと左右に別れ、地面へと倒れ伏した。
廃ビルの上から女は跳躍した。残る得度兵器は二体。迎撃の隙すら与えず、うち一体の頭を女は蹴り飛ばす。大仏の首だけが、ボールのように吹き飛ぶ。
「……あと一体」
最後の一体が、宙を舞った。
着地からの足払い。回転する得度兵器は、女目掛けて通常エネルギー兵器の照準を定める。徳エネルギー兵器ではない。当たれば解脱ではなく死亡する破壊兵器だ。
しかし、女の手許から高速投擲された何かが、開口した発射器に突き刺さる。
それはよく見ればただの石礫だった。女は、追撃を加えようとして手を止める。
「……一体くらいは、無傷で欲しいところだ」
空中で一回転した得度兵器が、足から廃墟に突っ込む。濛々と煙を上げて、嘗てのビルディングが崩れ落ちる。
ガンジー等が知略と技術の限りを尽くし、幸運に恵まれ行動不能に追い込んだ得度兵器が、僅か三分足らずのうちに総て破壊されたのだ。
いち早く我に返ったガンジーは呟く。
「……あんなの絶対、人間じゃねぇぞ」
と。彼女が『まだ』人間であるのか。それは彼女自身にすら分からぬ問だ。
噴煙の中から、女は立ち上がる。まとっていたボロ布は咲け、黒いインナーが覗く。強制冷却機構が作動し、体表から蒸気が吹き上がる。
直後、二体の得度兵器が背後で爆散した。背後から近付く軋むタイヤの音は、その轟音に掻き消される。
「無事か!遅くなっ……」
車窓から叫ぶクーカイもまた、絶句した。目に映る場で繰り広げられるは廃仏毀釈めいた惨劇、地に伏し怯える街の人間達。そして、呆然と立ち尽くすガンジーとガラシャ。
惨劇の夜から始まった一連の戦いは、今唐突に幕を下ろした。機械仕掛けの救いは、得度兵器を遥かに上回る暴力によって打ち破られた。
それは……嘗て世界を支配し、そして徳カリプス以前の人類が遥か彼方に置き去りにしてきた筈の
「初めましてだな、
女は、手を差し伸べる。だが、それを取る者は居ない。吹き飛んだフードの奥から現れたのは、流れるような銀髪の妙齢の女性であった。
「……誰だ、お前は」
ガンジーは、辛うじて口を開いた。ガンジーの身体は震えていた。それが強大な力への恐れなのか、高揚であるのか。彼自身にも区別は付かなかった。
「他人に名前を聞く時は、まず自分からだろう?」
あまりにも違いすぎる。それがガンジーの受けた印象だった。あれ程の破壊を繰り広げたというのに。女は明日の天気を尋ねるかのような口調で、そう口にしたのだ。
「……ガンジー」
「ガラシャ」
ガンジーの後ろに隠れながら、ガラシャも答える。
「ガンジー。レジスタンスらしい、いい名前だ。……そうだな、私のことは……うーん、ノイラ・H・S。そう、ノイラとでも呼んで貰おうか」
女……いや、ノイラと名乗る女はそう言って微笑む。ガラシャは怯え、ガンジーの後ろへ隠れる。
ガンジーは渋々、女の手を取った。その手は厚い手袋で覆われていたが、感触は明らかに人のものではなかった。
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ブッシャリオンTips ノイラ・H・S(Noira H S)(仮) (lv1)
舎利バネティクスによって強化された人間『舎利ボーグ』の一人。年齢不詳。元徳エネルギー研究者。サイバネティクスの専門家。とある理由から、彼女は舎利バネティクスの中でも破格の出力と戦闘能力を誇る。
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