第17話「小さな救い」
『ザッ……ザッ、えるか、聞こえるか、ガンジー!』
「あ、あぁ……生きてる」
『何があった』
「二発目だ。モニタが死んだ。どうなってやがる」
先ほどの攻撃とは違い、今回はガンジーの側に衝撃は来なかった。
だが、アンテナにダメージが入ったのか、ドローンとの通信モニタの画像が乱れている。
『こっちでも、ドローンから画像を拾ってる……こいつは』
通信機越しに、息を呑む音が聞こえる。
『道だ。道ができてる』
「道?」
クーカイが見た画像。そこには。
爆心地であるクレーター。そして……そこからに伸びる、不自然な木々の跡。一直線の『道』が、暗視センサーによってくっきりと映し出されていた。
『……一斉射で進行方向の障害物を薙ぎ払ったのか』
「石ころ退けるのにビーム使うこたねぇだろ……」
ガンジーはぼやく。
『だが、ラッキーかもしれん』
「どこがだ!?」
『あのでかぶつの進む方向がはっきりした』
「……確かに、道作っといて、わざわざ他のとこ歩く奴はいねぇな」
『それに、この『道』は、南東に伸びている』
クーカイは通信機の向こうで、画像の道を指でなぞる。
『奴は、橋のルートを通るぞ』
燃える大地を闊歩する、未来仏の姿を模した兵器。これは末法の光景か。或いは、遥か未来の景色なのか。
ある者が見れば、跪かずにはいられないだろう。またある者が目にすれば、恐怖を抱かずにはいられないであろう。だが、得度兵器は仏像ではない。まして、仏そのものではない。ただの機械だ。
得度兵器はただ、蓄えた徳によって人類を至上の人生の結末……解脱へ導くための機械なのだから。ゆえに、その『進路』にも『行動』にも合理的理由が存在する。
……タイプ・ミロクMk-IIの対人センサーが捉えたのは、一人の少女。谷底へ向かう彼女に、『それ』は次なる狙いを定めていた。
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ガンジーの運転する車は、荒れた斜面を往く。
「あでっ!」
車体が激しく上下し、頭をハンドルにぶつけるガンジー。
『……合流は間に合いそうか』
「今走ってる!遮蔽物が無くなっちまった。そっちへ合流する!」
得度兵器の一撃による解脱の余波は、大きな道を作ってしまった。
ルートは変更を余儀なくされた。ビームの射線に入らぬよう走り抜けるには、道なき道を行くしかない。付け加えるなら、設置したトラップの大部分も無意味と化した。
得エネルギー兵器の最大火力は……蛇行する斜面の参道を一直線に射抜き、途中、よく見れば一軒の人家を貫通している。先程の一撃で仏がまた増えたに違いない。ガンジーも明日と言わず、数分後には我が身である。
「……とはいえ、気休めかもしれねぇが」
得度兵器の性能には、不明な点が多すぎる。距離があるとは言え、探知されていない保証は無い。次の瞬間にも三発目のビームで焼き払われないとも限らないのだ。
「退き時、ミスっちまったか」
ガンジーはぼやく。
『谷の爆破だが……意外と地形が複雑だ。目が十分に届かん』
彼等の『目』は、滞空させた
「橋の方は大丈夫だろうな!?」
『それは問題ない。急拵えだがな』
「ギリギリだな……」
『起爆タイミングは任せるぞ』
「……よし、行ける」
ガンジーはダッシュボードに装備された、遠隔起爆装置の電源を入れ、鍵を差し込む。
『位置はこちらも把握している。合流できれば勝ちだ』
「言われなくても!」
運転を半自動から手動に切替え、ガンジーはアクセルを目一杯踏み込んだ。
ロデオマシーンの如く車が跳ねる。得度兵器は、自らの作った『道』を変わらず悠々と闊歩している。斜面の終わりは近い。
街と参道の間を接続する橋。そこを得度兵器よりも先に越えることさえできれば、クーカイの仕掛けた発破が使える。
最後の難関は、斜面の終わりから橋へ続く舗装道路。そこだけは、得度兵器の『前』を通ることになる。徳エネルギー兵器の射線が通るのだ。
「……ナムサン」
信じても居ない仏に縋り、ガンジーは跳ねる車体を抑え続ける。後ろで荷台に積まれた工具の荷造りが解け、床に散らばる音がした。
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反響する爆発音。得度兵器の放った解脱の光。それは、複雑な崖に阻まれた谷の底へも届いていた。
(……きれい)
まるで日が沈む時みたいだ。そう少女は思った。もしも、彼女がもう少しだけ普通の感性を持ちあわせていたなら。その心は恐怖と畏怖でくじけていただろう。
しかし、彼女は歩き続けることができた。徳エネルギーの人工の黄昏の中を、一人の足で。少女はずっとずっと、歩いて行く。
だから、彼女は出会ってしまった……否、見つかってしまった。
「……ンジー!ガ……事態だ!聞こえるか!」
何処かから響く、叫ぶ男の声。タイヤの擦れる音……そして。
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