【27話】光の少年
馬車の中からあふれ出した光は、周囲をまるで太陽のように照らしていく。
立ち込める黒い雲下、キラリの輝きは周囲で戦っていたベイラ・リュウガインの兵士達にも、襲い掛かる豚人間達にも、そして邪悪な二つの化け物の王にもハッキリと感じられた。
光が、血と肉と、泥と悲鳴、そして暗黒の瘴気に満ちた世界を照らす。
圧倒的な「光」がキラリの全身から放たれていた。
『なっ……ナンダ……この光!?』
『太陽、いや……違う!?』
万毒の蛇人間、イグネークも、そして百の
戦場のすべてが、まるで魔法にでもかかったかのように、動きを止めた。
キバを剥き出して喰らいつこうとした汚らしい豚も、剣を振りあけていた腕も、誰もがまばゆいばかりの光に目を奪われ輝きに釘付けになる。
全ての視線が、地上に突如として出現した「太陽」に集まった。
『ブ……ギュッ!?』
『ビギィイイ……?』
「なんだ……この輝きは!」
だが、一人だけ戦場でぐっと瞳に力をこめて、つぶやくものが居た。
「――キラリ!」
アークリートは、光の意味を誰よりも早く理解し、そして微笑を浮かべた。
「まさかこれが、光の少年の……!?」
巨漢の将軍ブルグントが、アークリートの傍らで
太陽と化した馬車のキャビン中では、ミュウとカインが白い空間の中に居た。
熱量を伴わない、けれど暖かで真っ白な光に包まれながら、不思議と安らいだ気持ちで少年が立ち上がるのを見ていた。
白く輝くほっそりとした少年の裸体、そして、背中からは真っ白なビームジャケットで練成された「翼」が広がってゆく。
――ビームジャケット・クリア・リフター。
数億にも達するビームジャケットのナノサイズの繊維の束が生み出す電磁気力。それにより重力線を遮断、空を自在に舞うことのできる究極の力。
それは馬車の天井を全て吹き飛ばし、神々しいばかりの輝きを放った。
「キラリ!」
「翼が……生えた!?」
ミュウとカインが唖然と腰を抜かしたように驚きの声を上げる。
「そうみたい。カインとミュウのおかげ、かな」
「てか、全裸!?」
カインがガン見するが、肝心の部分は白い光で見えない。
「臨界を越えて……キラリは、ついに
元気を取り戻したホイップルが立ち上がり、そう告げた。
「
キラリは銀河の星々を散りばめたような輝きを宿した瞳を細め、自分の掌を眺めた。
「そうっプル。重力さえも凌駕する……、自分の意思と光との融合……! それは……まるで……」
プルはそこまで言いかけて、言葉を飲み込んで、そして叫んだ。
「――キラリ、行くップル!」
「うん! いってくるね、ミュウ」
「ん!」
キラリはいつもどおりの声でそう言うと、
ビシュウウウウ! と流星が地上から放たれたかのような速度で。
「てっ……天使!?」
「かっ神の……御使い……!」
兵士達が叫び、天を指差す。誰も天使だと思った。それほどまでにキラリの姿は輝きに包まれ、背中から生えた白い羽が美しかった。
そして上空100メートルほどに達すると急停止、背中の翼を広げ慣性などまるで存在しないかのように平然と空中で留まった。
黒い雲の下でキラリが光源となり地上を照らし出す。
『ビギュルウルウ!?』
『ピギイイイ!?』
豚人間たちが悲鳴を上げて空を見上げた。淀み、血走った目で薄汚れたキバを剥き出しにして。
「……いま、
キラリは確かにそう言った。
そして右手を天にかざす。
キィイイイ! と光が集まり始めた。
頭上に収斂してゆく光は、熱プラズマの温度さえも凌駕する温度を秘めて、太陽の中心の輝きにも似ていた。
キラリが見下ろす視界には、ハッキリと無数に群がる数百、いや千匹を超える
大きさはどれも数センチ程度。
それが本来、ほとんど無害のはずの、豚人間や亜人たちを邪悪で恐ろしい怪物たちに変えているのだ。
そして、
掌をすぅううっと地上を撫でるように動かして、キラリは見えない照準を次々と合わせてゆく。プルバイザーは無かったが、キラリには感じられた。
見える限りのドロップスの総数、1467個。
「すべてを……撃ち抜く!」
瞬間、キラリの頭上に収斂されていた光が爆発を起こした。
それは無数の光の矢となって、雨のように戦場全てに降り注いだ。
「なっ! こ……これはっ!?」
「ぬぅううう! なんと、なんとおおおお!?」
「光の矢……まさしく天の力じゃ!」
ピキシュ! チュン! チュチュン! と、鋭く細い光の矢が空気を切り裂く音をあたり一面に響かせながら、次々と
『――ビギッ!』
『ピキイイッ――!?』
射抜かれた
人間の兵士達と乱戦になっていた場所では、正確にと
そしてバタバタと倒れこむそのまま昏倒し、動かなくなった。
だが、今までと違うのは、彼らが内側から爆裂したり吹き飛んだりしない、という事だった。
キラリは全ての矢を撃ちつくすと、静かに地上に舞い降りた。
フッ……と、着地の瞬間、裸足の足元で土煙が舞うが、それだけだ。
戦場は静まり返っていた。
もはや動いている豚人間や亜人は一匹としておらず、絶命したかのように動かない。
ただ、二匹を除いては。
『ギッ、ギザマガァアアア!? 何を……何をしたぁああ!?』
『消えた……私の……部下達の……』
「そう、ドロップスだけを
キラリは静かにそう言うと、残った巨大な二匹の怪物の王イグネークとフラッズウルの間に立つように対峙する。
互いの距離は僅かに15メートルほどか。
この二対の宿すドロップスだけは別だ。力が強すぎて光の矢では貫けない。そうキラリは判断したのだ。
『なっ……!』
『ぎ、ギィイイサマァアア!』
「さ、決着をつけようか」
キラリは、フワサッ……と、背中の美しい羽を振り払った。
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