【21話】メディカルチェック、キラリ

 ◇

 

 開け放たれた部屋の窓からは、澄んだ星空と黒いヒールブリューヘン城のシルエットが見えた。


 焼け落ちた廃墟の宿屋の一室、淡い蝋燭の炎が揺れている。

 寝台ベッドに仰向けに横たわる少年――星園キラリ――が身に着けているのは、薄手の白いTシャツとトランクス風の下着だけだ。


「キラリ君。リラックスしてね」

「は、はい……」


 錬金博士リーナカインは金色の髪を指先で耳にかきあげると、にこりと優しく微笑んだ。

 そして細く白い指先で、横たわる少年キラリの足先から、なぞるようにゆっくりと触ってゆく。


「う……んっ!」

「あらあら、いい声ね」

「だ、だって……その」

 キラリがきゅっと赤面し身を硬くする。

「ガマンしなくてもいいのよ?」

「……うー!」

 顔を寄せて甘く囁く美少女博士に、顔から湯気を噴きそうな勢いで赤面するキラリ。


「そうっプル! もっとヒィヒィ泣いていいっプルよ!?」

「んー! んー!」

「私はべべ、別に弟分・・を見守っているだけだ! うむ」

 寝台の脇には、椅子を並べたプルとミュウ、そしてアークリートが、爛々と目を光らせていた。


「この状況、物凄く恥ずかしいんだけど!?」

 キラリが叫ぶが、カインが唇に指をそっと押し当てて制する。


「もう。だから二人だけでしましょって言ったのに……」


 カインが残念そうに眉を曲げ、そのままキラリの胸をつつっとなぞる。


「電位変化、極小ップル……」

 ミュウにぬいぐるみのような抱かれたホイップルは、キラリの「体内電位」の変化をサーチしていたようだ。

「ふぅん? 足首は効果少ない……と」

 金髪の博士が手に持ったメモ帳に、サラサラと結果を書き込んでゆく。

 実はカインは「何処を触れば一番効率よくエネルギーをチャージ出来るか」というテーマについてデータを集めていたのだ。

 邪な感情云々は抜きにしても、考察と実験を旨とする錬金博士にとって、これは順当な手段だ。


 カインは既にアークリートやホイップルからキラリの「能力」の話を聞き、特別な力を発揮す「おおよその仕組み」は理解していた。

 理由はどうあれ、他人(ただし女性に限る)に手を身体をこすられる事で体内にエネルギーを蓄積、それを自在に放出し敵をほふることが可能な少年、キラリ。

 これは人類にとって、生存の一縷いちるの望みを繋ぐ「希望」なのだと確信するに至った。


 なぜ「ビーム」と呼ばれるエネルギーを放出し操れるかについては謎だが、今の自分では解けるはずもない以上カイン追求を止めた。その代わり既に有している力を最大限、効率的に使う方向を極めようと考えたのだ。


「じゃ、次は太股ふとももね

「うっ……、そんなとこ、くすぐったいよ……!」

 キラリが思わず身をよじる。


「少し蓄積パワーが多いっプル!」

「戦場でこんなトコ擦られてたまるか!?」

「シャーラップ! 次……! いよいよ本日の本丸・・いきます」


 リーナカインがわざとらしく額の汗を拭い去り、一層顔を険しくする。

 そして、おもむろにガッ! とキラリの下着に手をかけた。

「ちょっ!?」

「いいから、大丈夫だから、ね? お姉さんに見せてごらん!」

「どこの変態だ-!?」


 必死の抵抗を試みるキラリと、パンツをずり下ろそうとする金髪博士との、実に下らない攻防が続く。

「ごきゅっ……」

 思わず生唾を飲み込んだのはアークだ。

「ん、んーっ!」

 ミュウが「私が一番上手くキラリくんを擦れます!」と言わんばかりに挙手する。

 

「大事なッ……研究中だから、ねッ!」

 鬼気迫る顔でカインが叫ぶと、勢いパンツを抜き取る事に成功する。

「いやぁああ!?」

 ぎゅるっと下半身を隠して丸くなる。


「キラリくん。これは人類を……世界を救うためなんだ、わかるね!?」

 キリッとしているのは口調だけ。

 息も荒く口をニィッと三日月のように持ち上げて、カインは両手の指をワキワキと動かしながら迫る。その狙いは……言うまでもない。


「どうみても個人的な興味ですよね!?」

「大丈夫だ、痛くしないから」

「わー!?」


 星空に、キラリの悲鳴が響いた。


 ◇


「というわけで、データは集まった!」


「…………ぐす」


 キラリはすすり泣きながら、着衣も髪も乱れ、力なく横たわっている。まるで事後のようなレ●プ目で放心状態。

 その横では、リーナカインがホクホクとした顔で小さなメモ帳を眺めている。


 ちなみにキラリは内股やヘソやワキをくすぐられすぎて笑い死にしそうになっただけで、背徳的な行為・・は行われてない。


「で、何がわかったップル!?」

「うん、身体の中心に向かって、エネルギー生成効率の良い場所は点在するよ。たとえば胸とかヘソまわりとか、……ふふ」

「カイン、思い出し笑いをするな!」

 アークリートが赤面して叫ぶ。

「けれどね、実戦の戦場でそんなトコロを丸出しにして擦るわけにも行かないでしょ」

「そりゃそうだ」

 アークが半眼で腕組みをする。


「それに、キラリ君を擦る人によってもエネルギーの種類が変わるみたいで、出現する能力にも差が生じる」

「そうっプルね。これを見るっプル」


 ホイップルが目から光を出して、壁にこれまでの戦闘記録を映し出す。

 数々の豚人間との戦闘、半漁人との戦闘、と膨大な数の戦闘データをホイップルは記憶しているようだった。

 カタカタ……となぜかフィルム映写機風なのは意味が分からないが、アークリートもミュウもフンフン見入っている。


「っていうか、プルの能力にもみんなツッこんでよ!?」


 キラリがガバッと身を起こし、ツッこみを入れる。ようやく立ち直ったようだ。


「まぁ、このとおり。ミュウがコスれば遠距離系の射撃能力・・・・、アークがコスれば近接戦闘用の斬撃能力・・・・が発動したわ」


「体系付けると分かり易いっプルね」

「と、いうことは……、今私がコスったことで、キラリ君には新しい能力が生じたはず」


 リーナカインがつん、とキラリの鼻先をつつく。


「新しい……力?」


「そう。明日からできる限り早くその能力を見つけて、戦力化して欲しいの。ベイラ・リュウガインに向かうのはそれからよ」

「わ、わかった」


「確かにな。向こうには1万近い軍勢がいると考えれば、今のままでは……」

「そう。幸いここは水も食料もある。訓練をしながら鋭気を養いましょ」


「賛成だ」

「んっ!」


 アークとミュウも頷く。


「それに、ひとつパワーアップのアイデアも閃いたしね」

 ふわりと金髪を振り払い、意味ありげに片目をつぶる錬金博士。

「おぉ! すごいっプル!」

「んっ!」


「嫌な予感しか……しないんだけど」


 こうして――。

 

 数日の休息と修行を終えたキラリたちは一路、隣国である大陸最大の都市国家ベイラ・リュウガインを目指し出立した。


<つづく>

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