第11話 真実

 ある時、有菜達は神界に来ていた。

 その時洋子は人目を気にしながら歩く愛恵の姿を見つける。

 一人列を離れ愛恵の後をつける洋子。

 洋子が居なくなった事に気付いた仲間達は、どうせまたどこかで一人物思いに耽っているのだろうと軽く考えていた。


 城の外れにやって来た愛恵はどうやって開けたのか隠し扉の中へ入って行く。

 すかさず後をつける洋子。

 だが愛恵の姿を見失い、辺りの物を物色しているとある事に気付く。

 それは闇の組織の事に関する内部資料だった。

 なぜこんな物が此処にあるのか。いや、分かっている事があるならなぜ公表しないのか。

 そんな事を考えていると後ろから愛恵に声をかけられる。

「見ちゃったんだね」

「何故こんな物が此処に?!」

 当然の如く問いただす洋子。

「闇の組織っていうのは神界の組織で、魔界とは関係無かったんだよ」

 そこで愛恵から真実を聞かされる。

 愛恵は組織の事を詳しく調べる為に神界に来たのだと。

 それならなぜ自分達にまで秘密にするのかと聞くと、有菜と夏姫は知っていると教えられる。

 敵を騙すにはまず味方から。有菜達が神界の信頼を無くさない為に最低限の者にしか教えていなかったのだと言う。

 そこまで話を聞いてもまだ信じられないでいると、それなら一度魔族と接触するといいと言われ場所を教えてもらう。


 夜中に一人、半信半疑で指定の場所に行くと暗闇から声をかけられる。

 それは今まで何度か剣を交えた事のあるザイラスだった。

 愛恵に言われて此処へ来た事を告げ、持たされた手紙を渡すとしばらく考え込むザイラス。

『てへ、ごめんね。この子にバレちゃった。この子に魔界と闇の組織の事を教えてあげてね(はぁと)』

「・・・・・・わかった、ついて来い」

 そう言われて、丁度今から出発するという魔族の作戦行動に同行する事になった。


 行き先は神族の支部だった。

 これでは潔白の証明どころか悪事を決定付ける事にしかならない。

 しかし洋子一人ではどうする事も出来ず、なすがままに襲われる神族達。

 いったいどういうつもりなのかと問い詰めていると、神族の支部から闇の組織の内情が書かれた資料が出て来た。

 表向きは神族の支部だが、ここが闇の組織のアジトの一つでここからいろんな指令が出ていたのだった。

 それを魔族が襲撃するので、魔族は神界の施設を襲撃する悪い奴らだと思わされていたのだ。

 どうりで闇の組織のアジトからは内部資料などが出て来ない筈だ。

 信じられない思いで資料に目を向けると、そこには今まで魔族の仕業と思っていた事件の計画書がいくつか出てきた。

 ここまで決定的な証拠が揃うと疑う余地は無い。

 今までの自分達の行いとは何だったのか・・・・・・。愕然とする洋子。

 こうして洋子も愛恵同様神族の内情をさぐるスパイとして動き出すのだった。

 幸いにも神族は洋子にまるで感心を抱いてなかった。

 今まで通り仲間達と距離を置いたまま愛恵とザイラスとの情報の橋渡しを始めた。

 自分の父を殺した者達への復讐の為に。




 一方愛恵の方は、情報収集をしながらも護衛兵として絶大な戦果をもたらしていた。

 優舞やザイラス達に剣技を鍛えられ、同じくザイラスとファミルに魔力のコントロールを教えられ身に付けた愛恵は最早敵無しの強さを誇った。

 そしてそれらの功績により王から特別に褒美が与えられる事になった。

 謁見の間にて初めて愛恵をみた王と妃、そして一部の使用人達は目を疑った。

 愛恵は神界から抜け出した王の娘セリア姫に瓜二つだったのだ。

 王はセリア姫が神界から抜け出した後、人間界に居た事を知っている。

 まさかと思いつつ、王族の力にのみに反応する宝玉に触れさせてみる。

 すると案の定愛恵が手を触れた瞬間に宝玉は光り輝き出したのだ。

 愛恵は訳が分からないでいると、いきなり王に抱きしめられた。

 その後ようやく事の成り行きを聞かされた。

 セリア姫は国内での紛争により弾圧され居場所を無くし、国を出て人間界で隠れて暮らしていたのだ。

 そして、ある男と恋に落ち、愛恵が生まれたのだと。

 セリアが死んだと聞くと王は悲しげな表情を見せるが、孫がいる事が分かったのだと明るく振舞う。


 いきなり王族に仲間入りしてしまった愛恵は今までとは違った意味で忙しい毎日を送っていた。

 なにせこういう上品な世界とは無縁だったため、作法などを一から徹底的に教え込まれているのである。

 話し方・姿勢や歩き方など日に日にお上品に仕立て上げられていく。




 愛恵を王族とする事に反対する者達との論争が続く。

 そうこうしている内に、洋子が魔族と密通している事がバレ、洋子が糾弾される。

 城内で神族の兵に囲まれる洋子。

 なんとか庇おうとする有菜や夏姫に対して、事情を知らない御影・裕美・飛鳥の対応は冷たかった。

 しかし洋子達が逃げ出すのを追おうとはしなかった。

 どうした物かと三人顔を合わせた時、自分達も囲まれている事に気付く。

 なぜ自分達まで狙われなければならないのか分からないまま戦うが、多勢に無勢でもう後がない。

 御影と裕美が目で合図すると、飛鳥一人だけ逃がそうとする。

 自分達は不死身に近いが、飛鳥は普通の人間だからだ。

 仕方なく飛鳥は洋子達の後を追う。

 なんとか城の庭で手こずっていた洋子達と合流する。

 そこへ割って入ってきたのは王女の格好をした愛恵だ。

 まだ愛恵を王女と認めない者も多いが皆の手が止まる。

 王も一緒に居るからだ。

 そこに重役達も集って来る。

 ゆっくりとその場に居るみんなに全てを話し出す。

 そして、エスカルの父、ジェイトス・アクセラルドを指差し、この男こそ闇の組織の指導者だと告げる。

「・・・・・・もしやとは思っていましたが、父上、本当に貴方が・・・・・・!」

 何時も冷静なエスカルの表情が変わる。

「やはり貴女は王族などでは無い。裏切り者の魔族めが!」

 逆上したジェイトスが愛恵に切り掛かる。

 だがその一撃を受け止めたのはエスカルだった。

「愛恵さんが言った事が間違いなら証明すればいい。なのに貴方は殺そうとした。罪を認めたという事ですよ」

「貴様、父に刃向かう気か!」

 二撃・三撃と攻防が始まる。

 だがエスカルに父を討ち取る程の気迫が無い。

 実の父に手を上げる事を躊躇している一瞬の隙を見てジェイトスの剣が振り下ろされる。

 だがその瞬間に裕美が飛び込み胴体を真っ二つにされる。

 ボロボロに傷付いたその体はかなり脆くなっていたのだろう。

「裕美さん!」

 エスカルが裕美に気を取られているのも構わずジェイトスの追撃が来る。

 それを今度は御影が受け止める。

 だがその体にいつもの様な力が感じられない。

 城内で多くの兵と戦い消耗しきっているのだろう。

 そのやり取りに呆然としている神界の兵の間を抜け出て有菜達がジェイトスを取り囲む。

 するとジェイトスは御影の剣を跳ね上げて上手く体勢を入れ替え、御影の首を抱え込み剣を突きつける。

 皆、手を出しかねて辺りを取り囲むだけだった。

「奇しくもあの時と似た状況の様ね・・・・・・」

 愛恵が静かに語り出す。

「何ぃ!」

 意味が分からず問い返すジェイトス。

「私達が戦士になる切っ掛けとなった、あの会社の事故の日と」

「なんだと!?」

 言われて少し考え込む。

「!?」

 逆に他の戦士達が驚く。愛恵はあの日の事を知っているのか?

「何も知らない所員達を盾に戦い、そんな貴方を止めようとした実の息子、エリオットをその手にかけた様に、今エスカルをも殺そうとしている。でも、それを食い止めているのが貴方達が作り出した者だなんて、皮肉な話しね・・・・・・」

「そんな・・・・・・兄さんを殺したのが父上だったなんて・・・・・・」

 呆然とするエスカル。

「あたしの事は構わず切れ!」

 叫ぶ御影。

 なんとかジェイトスの気を逸らそうともがき出す。

 だが、有菜達に仲間を傷つける様な真似は出来ない。

 ならばここは自分がと飛鳥が踏み出す。

 それに合わせて御影を投げつけ飛鳥にぶつける。

 直後にジェイトスの一撃が御影を襲いその首が宙に飛ぶ。

「いやぁー!!」

 有菜の絶叫が響く。

 体勢を立て直した飛鳥がジェイトスに向き合う。

 だが次の瞬間、

「父上ー!」

 そう叫びながらエスカルがジェイトスを袈裟切りにした。


 一部始終を見ていた王は、ジェイトスの身の回りを徹底的に調べさせ、闇の組織解体を行なった。

 その頃には裕美の修理も終わり、御影の首も上手くくっ付いた様だ。

 御影自身の超再生力もあるが、処置が早かったのも良かったのだろう。


 そして、今までのしがらみを拭い去った王は、愛恵に王権交代を告げる。




 それからしばらくした頃、老いた国王に代わり愛恵は女王として即位した。

 式典も終わり大勢の者に見守られながら王座に付いその時、伝令兵が飛び込んできて魔界の王アトライルが部下数名を連れて話し合いにやってきたと告げる。

 一同騒然となる中、愛恵が話し合いに来たと言うならその話を聞こうではないかと、追い返すのはそれからでも遅くないと言い放ち、謁見の間まで通される事になった。

 大勢の視線を浴びながら愛恵の前まで通されたアトライルは新しい国王に即位の祝辞と、和平を申し込みに来たと告げる。

 再び場が騒然とするが、愛恵がそれを制する。

 アトライルはさらに続けた、神界が闇の組織なるものを撤廃した今、二度と人間界に手出ししない事を誓えば、魔界も人間界にも神界にも手出しをしない、昔の用に三界がそれぞれに歩んで行けば一先ずの平和は訪れると言うのだ。

 その後神界と魔界で少しずつ交流を深めていこうと言う。

 魔族の出した答えとは、万人にとっての理想郷など存在しないという現実だった。

 そして愛恵はそれを受け入れた。

 当然の如く一同は大反対をする。魔族の言う事など信じられぬ、愛恵は国王の器では無かったなど、多くの批判が飛び交った。


 そこで愛恵が一同に問う、自分は王族ではあるが国民の支持無しでは即位は出来無い、皆は今日それを認めたのではないかと、そして魔族の事が信じられぬと言うが私の事も信じられないのかと。

 これまで愛恵が神界のために尽くしてきた事を皆十分に理解している。だからこそ王権交代にも賛成したのだ。

 一同が静まり返ったのを見てさらに愛恵が告げる。

 私の事を信用してくれるのなら彼らの事も信用して下さい、なぜならあなた方の定義で言うなら私も魔族だからですと告げる。

 三度騒然となる。

 王座から降り立つ愛恵にザイラスが近づいて行く。

 そして、

「お会いしとう御座いました」

 と告げると強く抱き締め合い熱い口付けを交わす。

 そう、愛恵が神界に来たのは最初からこの目的のためだったのだ。

 神界と魔界の和平。魔族の話を神族に聞いてもらうためには何より信用を得ないと

 相手にもされない。

 愛恵が女王にまでなったのは想定外だったが、おかげで効果は抜群だ。

 自分達の国、神界のために貢献し信頼していた人が魔族の仲間だと言うのなら、魔族とはいったいなんなのか?

 良い意味でも悪い意味でも神界の者達は信じていた人に裏切られたのだ。

 今までの常識が音を立てて崩れていくようだった。

 それでも頭の固い連中も居る。愛恵が今までしてきた事は信頼を得るためだけにやって来た

 事でこれから手の平を返すぞ、騙されてはいけないなどとのたうちだす輩もいる。


 しかし魔族が言うのはこうである。

 魔界の者同士でも神界の者同士でも人それぞれ考えが違って当たり前なのである。

 考えの違う者同士が無理をしてまで仲良くしようとしても必ずどこかに歪が生まれる。

 ならば考えの似通った者同士で集まっていても良いではないかと。

 集まる事は逃げるのではなく無理をして歪を大きくするなと言うのだ。

 我らは古の時代よりそうして秩序を守って来た筈だ、と。

 そうして神界と魔界・人間界に分かれたのだと。


 愛恵を信じて付いて行く者が居ても良いし、それを批判した者に付いて行くのも良い。

 魔界と神界の違いとはそれだけである。全ての人間に共通する理想郷など存在しないのだ。

 そういう理想郷に近づける努力をする事自体は構わないだろうが、それを相手に押し付けても争いにしかならない。

 だからと言ってグループ間の交流を無くしてはいけないが、自分達の考えを違うグループの者に押し付けるような事をしていれば争いが静まる事は無いと。

 考えが変わってグループを移動したって構わないし、新しいグループを作っても良い。

 そういう心の広い考え方の下で神界・魔界・人間界全ての構造を再構築して行こうと言うのだ。

 どちらが良い悪いでは無く、ただ国がルールが作法が違う程度の認識でいれば良いだけなのだ。


 そして神界自体が大きく二つに分かれたのである。

 これまでと変わらず神界は選ばれた者だけが平和に暮らせる理想郷だと信じて止まない者達と、愛恵や魔族の言うように魔界や人間界を他国の異文化と受け止めるようになった者達とに。

 ただ、それらの考えを違うグループに押し付ける事が少なくなった。

 魔界は最初から二つに分かれていた。ザイラス達の様に他国も平和になるように働いている者達と、そういう事はあきらめて自分達だけ平和に暮らせたら良いという者達である。

 だから人間界に侵攻した神界を止めに入りもしたし、神界や人間界に居られなくなった者を受け入れたりもしているのだ。


 こうして長きに渡った神界と魔界の抗争は幕を閉じたのだった。




 今まで世間を騒がせていた謎の戦闘集団の噂も聞かなくなっていった。

 闇の組織の残党は、人間界に手を出す事より、神界での自分達のあり方を認めさせようとして、内乱状態になっていた。

 有菜達は、戦う事こそ無くなったものの、人間界で数少ない各界の事情を知る者として、人間界を代表する首脳陣の一角として、外交に忙しい日々を送っていた。

 夏姫は有菜の補佐役に徹していた。

 御影と裕美はそういう事にはあまり関わらず、平和な暮らしという物に馴染もうとしていた。

 飛鳥は、何かの時には駆け付けるからと言い残し、何処かへ旅立って行った。

 愛恵は神界に、優舞は魔界に移住したままだ。

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SACRED 弥生 @huzy

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