第9話 謎

 翌日、さっそく夏姫が戸籍などを調べて来た。

「どうだった?」

 有菜が夏姫の持っている紙を覗き込む。

「晴子さんもあかりさんも怪しい所は何も無かったよ。二人とも今の住所には引っ越したばかりの様だが、二人とも家には家族らしき人達と一緒に写った写真が有った。古いアルバムとかまで全部は調べて無いが、偽装だったとしてもボロは出さないだろう」

「そっか、流石にそんな簡単には行かないか・・・・・・」

 そう言って有菜が項垂れる。

「ところが、ついでに優舞と愛恵の事も調べて来たんだが、優舞の事がまるで分からないんだ」

 重ねて持っていた内から一枚抜き取りテーブルの上に広げる。

「どういう事?」

「親も兄弟も家族の無い孤児で、戸籍の住所は何も無い空き地だった。」

「ほふえ?!」

 有菜が変な声を上げながらみんなに確認するが、誰も優舞の事を詳しく知らなかった。

「言われてみれば、ボク達って優舞の事全然知らなかったんだね・・・・・・。それなのに勝手に普通と思い込んで・・・・・・」

「学費や生活費はどうしてたんだ?」

 御影が疑問を口にする。

「生活保護を受けていた様だが、こうして見ると身分を誤魔化す為に受けていた様にも思えるな」

「如何にも怪しいですって言ってる様なモンやから、おかげで本物見せられたって怪しく思えるな」

 飛鳥が神妙な面持ちで言う。

「そうなんだよな。だから晴子さんやあかりさんまで怪しく見えてくる。愛恵の分は多分本当だと思うが・・・・・・」

「優舞との接点と言えば学校ぐらいか・・・・・・。学校で聞き込みでもしてみるか?」

 御影の提案に全員が頷く。


「駄目だな、私達と一緒に居る所以外はほとんど情報が無い。」

 夏姫がお手上げといった素振りをする。

「放課後たまに一人で居る所を見かけたという情報が幾つか有るが、場所もバラバラで目的は分からない」

 御影が少し考え込む。

「同じ中学の子とか居ないの?」

 有菜がそう聞くと、

「職員室にも忍び込んだが、優舞の資料は見当たらなかった。多分誰に聞いても分からないだろう」

 と、夏姫が静かに首を振る。

「それって教師も知ってるって事だよな。学校ぐるみで偽装してるって事か?」

 御影の推測に、飛鳥が乗ってくる。

「そういう可能性も出てくるな。一体何の為にここまで徹底して隠しとるんやろ」

「案外全部本当の事で、話したくても記憶喪失とかで過去が無いって可能性は?」

 珍しく洋子が自分なりの憶測を口にする。

「少なくとも住所とかは偽装なんだ、その可能性は無いだろう。電話番号も私達に教えた物とは別だし」

 夏姫に否定されつつも、洋子の案を少し掘り下げる有菜。

「引っ越して転居届けが出されていないとか?」

「そんな話があったら私達にも何か言って来そうな物だけど、これだけ秘密にしてたらそれも無いか・・・・・・」

「逆に一人でそこまで何でも出来るんなら、なおさら転居届けの出し忘れなんて可能性は考えたく無いな」

 夏姫と御影にあっけ無く否定される。

「優舞・・・・・・」

 心配で有菜がふと名前を口にする。

「・・・・・・教師がグルかも知れないとなると、次は校内の怪しい事を調べてみるか・・・・・・?」

 夏姫の提案に全員がすぐさま動き出す。


 相変わらず優舞の事は全く分からなかったが、調べる内に生徒の一部、特に進学科の成績の良い者やスポーツの得意な者が謎の塾に通っているという噂が有った。

「塾?」

 有菜が言葉の意味を捉えかねる。

「ああ。何人かが同じ所に通っている様なんだが、名前も場所も分からないんだ。当人達は絶対教えないらしい」

 夏姫のその言葉に御影の目が光る。

「通ってる奴らの目星は付いてるのか?」

「なんとか数人は」

「なら、つける(尾行)っきゃねぇな」

 今度は飛鳥の言葉に皆が続く。


 後日、さっそく目星を付けた一人の生徒の後をつけ、ある建物に忍び込む。

 幾つかの部屋を覗いてみんな驚く。

 そこではいろんな事が行なわれていた。

 ある部屋ではいろんな国の言葉の勉強、他の部屋では格闘技を、また別の部屋では銃などの武器の取り扱いを教えていた。

「なんなの? ココ?」

 倉庫の陰でみんなが集るが、有菜が訳が分からず声を上げる。

「ここは工作員の養成所や」

「工作員?」

「ああ、要するにウチみたいな非合法の任務を遂行するための人材育成所や」

「あたしらも同じ様な事やってたからな。間違いない」

 御影の言葉に無言で頷く裕美

「すると此処は・・・・・・」

 洋子もようやく理解する。

「日本にこういう特殊機関は無い。間違いなく敵の拠点だ」

 夏姫がそう口にすると全員の緊張が高まる。

「とりあえず生徒達の事は良いだろう。皆が帰るのを待つか」


「まさかうちの生徒にまで手が伸びてるとはね・・・・・・」

 この新事実に有菜が信じられないという声を出す。

「逆の意味で私達もだがな」

 自嘲気味に笑う夏姫に有菜が、

「でも全国区で考えるとどんな事になってるんだろうな・・・・・・」

 と言うと、その手の方面に詳しい飛鳥が割って入る。

「いやぁ、そんな大した事はあらへんやろ。経験上、あーゆー施設はひとつの国にそんな何個も無いと思うで」

「そうなの?」

「そら、あんなとこがそないに幾つもあったらそこらじゅうスパイだらけになってまうがな。一点集中でやってるからぎょうさん居る様に見えるやろうけどな」

「それもそうか。流石経験者」

 有菜がようやく納得した様だ。

「結局養成所のリストにも優舞の名前は無かったか・・・・・・。もしかしたらとも思ったんだが」

 夏姫がリストをパラパラと捲りながら言う。

「優舞って名前自体が偽名って事は?」

 御影が疑問を口にすると、

「考え出したらキリが無いが、このリストは顔写真付きだから居ないのは間違い無いよ」

 夏姫が否定する。

「そっか・・・・・・、そっちの方はこれ以上は難しいかもね」

 有菜の諦めムードに飛鳥も愚痴る。

「こないに全く手がかりがあらへんてのも凄いな、優舞っていったい何モンなんやろ?」

「その手のプロの飛鳥が凄いって言うんだからよっぽどだろうな」

 御影の言葉に対して、

「せや、御影や裕美みたいな非合法の存在でももう少し手がかりが有るて」

 と言う。

「優舞っていったい・・・・・・」

 嫌な予感のする有菜。


 その夜、有菜の家に全員を集めると、夏姫が重い口調で語り出した。

「今、あの二人に真相を問い詰めに行って来たんだが、手遅れで二人とももう居なくなっていたよ・・・・・・」

「そうか・・・・・・、此方の動きに合わせる様に二人共となると、やはり本人で間違いなかった様だな」

 御影が冷静に判断する。

「でも、なんでこんな事を?」

 有菜が疑問を口にする。

「愛恵の方は分からないが、優舞の方は私達と同じじゃないか? あの会社のプロジェクト再始動の動向を覗っていたのだと」

「すると今頃はもう二人共魔界に・・・・・・」

「その可能性が高いだろうな」

 夏姫がそう言うと暫く沈黙が続く。

「二人を助けなきゃ・・・・・・」

 有菜がそうポツリと呟くと、一人部屋に戻って行った。

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