第7話 対立

 有菜達はうまく城内に忍びこんだ。

 神族の兵達は町の周りでいつでも攻め入って援護出来るように待機している。

 だが、牢屋を見渡しても何処にも居ない。

 何処か別の部屋に幽閉されているとしたら、捜索は困難だ。

 どうするか悩みつつ、一度考えを纏める為に人影の無い部屋を探そうと、城内をうろつき始めた。

 あわよくば偶然見つける可能性もある。

 そう考えていたその瞬間背後から

「お前達、そこで何をしている?!」

 と声をかけられる。

「は!? あなたは!」

 声の主、ザイラスの姿を見ると有菜が剣を構えて切りかかる。

 侵入がばれたのなら人を呼ばれる前に倒した方が良い。

 そう思いみんなで一斉に戦いを挑む。

 5対1なら勝てると思って切り掛かった瞬間全員の攻撃が跳ね返された。

 騒ぎに気付いてやって来た愛恵と優舞がザイラスの援護をしたのだ。

「愛恵! 優舞! どうしてあなた達がその男を庇うの?」

 みんなにはなぜ二人が魔族の味方をするのか理解出来ない。

 どういう事なのかと聞いたその時、外が騒がしくなったのに気付いた。

 すると、外では待機していたはずの神族と魔族が戦闘を開始していた。

「なんで神族が攻め入っているの?!」

「神族ってそういう人達だったんだよ。みんなはこのまま魔界に残らない?」

 愛恵と優舞はみんなにそう持ちかけた。

「何馬鹿なこと言ってるのよ!そんな事出来る訳無いじゃない!」

 有菜がきっぱりと断るともう一度ザイラスに切りかかった。

 それを優舞が受け止めると

「どうしても戦うと言うなら私達が相手になるから表に出よう」

 と言う。

 城の庭に出ると外は完全に戦場と化していた。城壁の外からも爆発音などが聞こえる。

 町は地獄絵図と化しているだろう。

 ザイラスの前に立ち塞がった二人は武具を装着する。

 それは神界の物ではなく、魔界の戦士の物だった。

「その格好は・・・・・・」

 みんなは二人がザイラスに操られているものだと思って手が出せないでいる。

 すると優舞が

「来ないの? 戦う気も残る気も無いのなら帰れ!」

 と言う。

「なんだと!」

 その台詞を切欠に御影と裕美が動いた。

 二人は以前とは比べ物にならないほど動きが良くなっている。

 天性の能力と幾多の実践で鍛えられて来たのだろう。

 しかし、その相手は優舞一人で愛恵とザイラスはまったく手出ししていない。

 一番おっとりしていたはずの優舞に、一番戦闘能力の高い二人がかなわないのが信じられないでいる。

「くそっ!」

 飛鳥がそこに割り込もうと動き出したのを見て

「だめだよ! ボク達仲間同士で戦っちゃだめだよ!」

 と有菜が叫び追いかける。

「・・・・・・仕方無いか」

 それをみて夏姫も後を追う。

 すると飛鳥達の前に愛恵が出て来て三人の動きを止めようとする。

 やむを得ず愛恵と剣を交えるが、有菜と夏姫も以前と比べれば戦闘を重ねて強くなっているのに加え、戦闘のプロの飛鳥と三人ががりで掛かっているのにそれでも攻撃を受け流されるだけだった。

 それも剣技だけで全て受け止めている。


 しばらくそんなやり取りをしているうちにみんな気付いたようだ。

 二人は攻撃を受け止めているだけで一切攻撃して来ないのだ。

 5対2でこちらは全力なのに向こうはまだ手加減している。

 これでザイラスが加わったらどうなるのか?

 そう、はなから相手にされていなかったのだ。

 夏姫は素直に撤退しようと言うが、その事実にブチギレた飛鳥が

「馬鹿にするのもええかげんにせえ! 戦うんなら本気で来いや!」

 と罵る。

 すると愛恵が

「良いんだね? 本気出しても。・・・・・・覚悟してよ」

 そう言ったその台詞と表情にぞくりと背筋に冷たい物が走った。

 と思った次の瞬間、いきなり目の前で大爆発が起きて、城壁をぶち壊し全員町の方までまで吹き飛ばされる。

 誰も呪文の発動すら分からなかった。

 軋む体を無理矢理起こし愛恵の方を見ると、此方が起き上がったのを確認してからゆっくりと手を挙げ、今度は魔力を集中し始める。

「もっと大きいのが来るぞ逃げろ!」

 御影がそう叫ぶや、皆一目散に逃げにかかった。


 街の外の丘の上まで来て、皆遠くから戦況を眺めていた。

 飛鳥はさらにキレまくっていた。

 本気は出しても狙いは外して吹っ飛ばされただけなのだ。

 それなりの怪我は負ったが最後まで手加減されていた事に腹を立てる。

 御影は押し黙っているが、かなり悔しいようだ。

 本意では無いにしろ究極の生体兵器として生み出され、常人を遥かにしのぐ能力を持っているはずなのに、一番おっとりしていた優舞にいいようにあしらわれたのだ。

 魔力も一番あったはずなのに、今の自分ではさっきの愛恵の一撃に到底かなわない。

 夏姫と裕美は冷静に分析をしていたが、最後の一撃以外は本気を出していないので何とも言い難かった。

 いや、最後の一撃すら本気かどうか怪しいなど、とにかく今の自分達との戦力差がすさまじいという事しかわからなかった。

 有菜は愛恵の行動が信じられなかった。

 一度は二人して戦った親の仇なのにどうして味方するのか。

 愛恵もあの男を憎んでいたはずなのだ。

 それに二人のあの強さの秘密とは・・・。

 やはり二人は操られているとしか考えられなかった。


 その後ザイラス達も戦線に加わったのか神族は這う這うの体で退却して行った。

 神族には愛恵と優舞には接触出来なかったと嘘の報告をした。

 二人が魔族に寝返ったと知れたら神族はどんな対応をするのか、なによりも自分達が信じてやらずに誰が二人を信じるのかと思ったからだ。

 その後の五人は死ぬほど辛い特訓をしたのだった。

 エスカルは上層部が予定と違う行動を起こした事に対して抗議をしていた。

 そこから次第に上層部に対して疑念を抱き始める。

 神界は最初から愛恵達の救出を口実に魔界に攻め込むつもりだったのではないのか? 御影や裕美の研究・開発も自衛の為では無く侵攻するための物だったのではないか、と。


 エスカルにだけは二人を救出出来なかった本当の理由を話していた。

 すると、しばらく救出の見込みが無いという事から、二人が欠けた分の補欠要員として麻島洋子という一つ年下の少女を連れて来た。

 彼女の父親もあの事故の時に亡くなったそうだ。

 それで以前から目は付けていたらしい。

 今までの中で一番普通の少女だが飲み込みは早く教えた事はどんどん吸収していった。

 だが彼女は少し心を閉ざしていて、言う事は何でも聞くのだが何時もみんなとは少し距離を置いていた。

 後輩だからという訳でも無さそうだ。それほど心に傷を負っているのだろう。

 それでもなんとか活動は続けていた。

 愛恵達が人質では無い、魔族側に付いていると分かると今まで通りの活動を再開する。

 敵の動向を調べ行動を阻止してまわるが、いたちごっこで切りの無い作業だ。

 アジトを潰すような大掛かりな戦闘もいくつかこなすがそれでも大した情報は得られない。

 結局奴らが動き出してから防戦に回る事しか出来なかった。

 流石に最初の頃のような大規模な被害は出ないが、小さな被害がマスコミを賑わす事になっていた。

 だが、そんな事を繰り返すうちに確実にみんな強くなっていった。

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