第6話 報道

 恐れていた事が起こった。

 マスコミが騒ぎ出したのだ。

 以前からも戦闘の痕跡などを謎の事故としてニュースで取り上げられる事は有った。

 破壊された物を復元させるのは難しい。しかし、戦いの痕跡は残しても、その姿をハッキリと見せる様な事は無かった。

 だが、徐々にでも情報を集めた記者達は少ない情報をたよりに調査し、ある学校で流れている噂に辿り着いた。

 その学校に犯人、『謎の戦闘集団』の関係者が居るかもしれないと。

 それは意外と有名な学校だった。

 進学科と普通科に分かれたその学校の卒業生達は、政治・学問・スポーツ・芸能方面と、多種に渡り有名人を輩出している。

 だが、在校生に限れば今一番有名なのは仲谷ゆうなだろう。

 アイドルとしてもそうだが、父親の会社の謎の事故も記憶に新しい。

 生徒達に直接聞いても芳しい答えは返って来なかった。

 口止めが行き届いているのか、直接関わり合いたく無いのか。

 まぁその両方だろう。

 誰だって情報源は誰だとか追及されるのは嫌な物である。

 そこで目を付けたのが仲谷ゆうなだった。

 彼女の日常を撮影するという名目で特別企画が立てられた。

 本人は嫌がった様だが、プロダクション側から強引に了承させた。

 そして堂々とカメラやマイクを持ち込む。

 何気ない授業風景や、実際にはほとんど編集されてしまう様な不要なシーンもちゃんと撮影する。

 だが、一番気を配るのは業間だ。

 カメラもマイクもずっと録り続けている。

 クラス中の、廊下中の生徒の会話を記録する心算で。

 女性リポーターが何気ない質問を繰り返す中、他のスタッフ達は生徒のヒソヒソ話に耳を傾ける。

 だが、噂話ひとつ、何の収穫も得られ無かった。

 そして昼休み、有菜の昼食風景。

 そこに違和感を感じたインタビュアーが質問する。

「あれ? ゆうなちゃん。ひとりでお弁当?お友達と一緒に食べたりしないの?」

「え? あー・・・・・・そうだ、彩子! 一緒に食べない?」

 そう言って彩子・美奈子・莱亜の三人の輪の中に入って行く。

 スタッフがその後を追った丁度その時、彩子が、

「そう言えば有菜と一緒に食べるのって久しぶりだね」

 と言う。

 その何気ない一言から思いもよらぬ方向に話が進む。

「いつもとは違うメンバーなんだ。普段は誰と食べているの?仲の良い子達教えてよ」

 その言葉に内心冷や汗をかく。

「有菜って最近いっつも昼休みは教室から出てって居ないよね」

「!?」

 美奈子がそう言った瞬間、流石に三人も気付いた様だ。

 有菜が教室を出て行くようになった切っ掛けを。

 それまでは他のメンバーからやって来たり、時には他のクラスに行ったりしていたが、あの学校襲撃の日以来昼食以外に時間の余る昼休みは

 どこかに雲隠れする様になった。

 業間はまだしも昼休みは他のクラスから覗きに来た生徒で廊下が一杯になったりしていたからだ。

 しかし、そんな事は知る由も無いスタッフは有菜に注文を付ける。

「ゆうなちゃん。出来ればいつものメンバーに集ってもらえるかな?ゆうなちゃんの普段の姿を録りたいのよ」

 スタッフとしては番組としての格好を付ける為だけの心算だった。

 しかし、ここで変な顔を見せるのもおかしいので、渋々席を立つ。


 有菜が戻ってきた瞬間教室が一瞬静かになる。

 それもその筈、この五人が揃っている所はあの日以来見ていなかった。

 生徒の会話に気をやっていたスタッフも妙に思うが、それが何なのかは分からない。

 体面を取り繕う為色んな質問を交わすが、流石に何も情報は出て来ない。

 スタッフも疲れを見せ始めた頃に『仕掛け』が始まった。

 直球勝負として、インタビュアーがわざとらしくカンペに目をやった後、

「そういえばちょっと噂を耳にしたんだけど・・・・・・」

「なんですか?」

「この学校に巷を騒がせている謎の戦闘集団の関係者が居るって聞いたんだけど・・・・・・?」

 その瞬間再び教室がシンとなる。

 流石にスタッフも気付いた様だ。

 この中に関係者が居ると。

 有菜が一瞬黙り込むのを見て夏姫がフォローに入る。

「なんですかそれ? 聞いた事ないですねぇ」

 普段の夏姫を知る者にとっては何とも奇妙に思えるテンションでそう答える。

「せやなぁ、ウチも知らんなぁ」

「ボクも聞いた事無いよ・・・・・・」

 すかさず割って入る飛鳥に続いてようやく有菜が話す。

「そう・・・・・・」

 インタビュアーの落胆を見て、最初からこれが狙いだった事が分かる。

 だが、ホッとするのも束の間、今度は他の生徒達に聞きだす。

「ねぇ、他の皆は聞いた事無い?」

 インタビュアーがマイクを向けると、

「僕は知らないです」

「私も、聞いた事有りません」

 そう言って、一人、また一人と教室を出て行く。

 流石に本人を前にして「コイツらです」なんて勇気の有る者は居ない様だ。

 そうこうしていると、三度静寂がやって来た。

「みんな知らないみたいだし、良く有るデマって奴じゃないですかね?」

 有菜がおどけた感じでそう言うと、

「なぁーんか怪しいなぁ・・・・・・」

 などと返って来る。

 完全に怪しまれている。


 何故? やはり生徒達が喋ったのか? 何処まで知っている。発信元は?

 いや、そんな事、今はいい。それよりもどう切り抜けるか・・・・・・。

 このメンバーが集められるぐらいだ、完全にばれているのかも・・・・・・。

 一瞬にしてそんな考えが頭の中を占有する。

「そんな事よりボクの取材はいいんですか?」

 引きつった笑いを浮かべながらも話を逸らそうとする有菜。

「でも記者としてはそういう事も気になるなぁ」

 と食い下がる。

「それに、この話を持ち出した瞬間こういう状況になるっていうのもねぇ・・・・・・?」

 ほとんど人の居なくなった教室を見渡すスタッフ達。

 辛うじて彩子達他数人だけ残っている。

 戦況はどうしようも無いくらい不利だ。

「あははー、みんな何処行ったんだろうね・・・・・・」

 内心ドキドキしながら抵抗を続ける。

「本当に何も知らないの?」

「知りませんってばぁ・・・・・・」

 所詮は噂を元に駄目元でやって来たのだ、あまりしつこくしてもおかしい。

 まぁアタリは付けたのだからと引き際を見極める。

 そして撮影のフリをしながら「最後の手段」に出る。


 放課後、ようやく撮影を終了し、

「お疲れ様でしたー」

 と大きく挨拶をしてスタッフと別れる。

 ふぅーっと大きく息を吐きながら帰路に付く。

 家に帰るとみんな揃っていた。

「ただいまー・・・・・・」

 その声に元気は無い。

「お帰り、ようやく終わったか」

「うん」

「今も話していたんだがあの連中、何か感付いている様だな」

「追求して来ぉへんかった所をみると、確証は得て無い様やが、油断は出来んな。後つけられたりせぇへんかったか?」

「少なくとも目の届く範囲には居なかったよ」

 それぐらいの注意はしていた様だ。

「と言っても相手は有菜の家を知っているんだ。むしろあたし達が出入りする時に気を付けないとな」

「そうだな」

「それにしても、誰か約束守ってくれなかったんだね・・・・・・」

「まぁ当然の結果だろうな。人の口に戸は立てられないって言うし」

「口封じに殺ってまう訳にもいかん人数やしな」

「数が少なければ殺るのかよ」

 御影が突っ込む。

「状況によっては・・・・・・って、ウチそういうのから足洗ったんやな・・・・・・」

 頭を抱える飛鳥。

「まぁ今更嘆いたってしょうがない。それよりも今後どうするかだ」

「いきなり目立った行動をしなくなるってのも返って怪しまれそうだし、気を付けて行動するしか無いだろ」

「例の〇×ビルも極力戦闘を避けて潜入調査に専念しよう」


 その時有菜が背もたれに体を預けた。

「イタッ!」

「どうした?」

「背中に何かが当たって・・・・・・」

 その瞬間飛鳥が何かを感じとり、口に指を立てて無言でみんなを黙らせる。

 飛鳥が有菜の背中を注意深く調べる。

 ふと、襟の裏に手をやると小さな機械を外した。

 少しの間それに目線を送ると、床に置きいきなり踏み潰した。

「隠しマイクか」

「ああ」

 御影の問いに答える。

 慌てて飛び出そうとする御影を飛鳥が押さえる。

「待ちや。飛び出しても遅いわ。業務用の小型高性能タイプや、目の届く範囲や無いやろ。それに、『どの勢い』で飛び出すつもりや?あんたの人間離れした動き見せたら証拠を突き出す様なモンや」

 飛鳥の冷静な判断に歯噛みする。

「有菜が帰って来てからの会話なら決定的な事は言ってない筈だ。何か聞かれても噂に過ぎない、怖くて言えないで通るだろう」

 夏姫がそう言うと裕美が口を開く。

「いえ、最後に〇×ビルを調査すると聞かれています」

 まったくもって面倒な事になった

 学校での事は止むを得ずとしても、テレビで全国放送などされるのは流石にマズイ。

 如何した物かと一同頭を抱える。

「実際に事件に巻き込まれた学校の生徒・先生は仕方ないにしても、神界や魔族の話をテレビで放送なんかされたら単なる噂話と誤魔化せるレベルじゃなくなるな。それは私達が間抜け面を晒すだけじゃなく、世界の法則を覆す証人になってしまうって事だ。

もちろん人間界だけでなく、神界や魔界にとっても軽視出来ない問題になる。そこまで行けば神界からも何らかの処分を受けるだろう。戦士を辞めさせられるぐらいで済めば良いが・・・・・・」

 そこで言いよどんだ夏姫の言葉を飛鳥が付け足す。

「ウチら自身が処分されたりしてな」

「まさか! いくらなんでもそこまでは・・・・・・」

 だが、信じられないという表情をしたのは有菜だけだった。

「神界と言えど、それは巨大な組織だ。組織という物は大きければ大きい程簡単に、そして確実に害する物を排除する。あたしらだって戦士として戦っているからこそこうして居られるが、

もし戦士にならなかったとしたら、神界としても魔界としても放っておける存在じゃない筈だ。飛鳥も組織に生存がバレたらすぐに追っ手が来るだろうな」

「当然や。どんな些細な事でも組織の秘密が漏れる可能性は排除するのが鉄則や。それは神界という組織でも同じやろう。実際どういう行動に出るかは分からんけど、殺されへんまでも神界に軟禁、この世界でのウチらの痕跡を徹底排除ぐらいの可能性は十分あるやろな」

 そこまで説明されて、ようやく有菜も事の重大さに気付く。

「マスコミにだけはバレない様にしないと・・・・・・」


 夏姫は例の〇×ビルの前まで来てもまだ迷っていた。

「・・・・・・本当にコレを着けるのか・・・・・・?」

 手には仮面舞踏会で付ける様なマスクが有る。

「他のにする?」

 そう言って差し出されたのは、有菜がテレビ局の小道具置場から拝借してきた目出し帽とパーティ用の鼻眼鏡だった。

 生憎とフルフェイスのヘルメットやサングラスの類は置いて無かったのだ。

 被り物系は視界が悪いし無駄に大きくて動き難い。

 パンストをかぶるなんてのは即行で却下された。

 鼻眼鏡も手軽さ以外のメリットは無い。

 しかし目出し帽でも悪役臭さが爆発している。

 そういった取捨選択の中から残るのはマスカレイドぐらいしかないのだが、これはこれで恥ずかしい格好な気がする。

『今度眼鏡屋に行ってサングラスを買おう』

 そう決意した夏姫だった。


 一応マスカレイドを手にした夏姫は、件のビル近辺を見渡す。

(必要に迫られるまでは着けない様だ)

 しかし、誰もその場から動こうとしない。

 こちらからは動かない事を悟ってか、人通りも無くなったこの時間、ようやく『彼等』は動き出した。

 昼間のテレビ局スタッフだ。テレビ用と写真用のカメラを両方用意している。

 通りの裏に車を止めると、素早くビルの裏口に廻る。

 そして、どうやってか鍵を開け中に入って行く。

 彼等は何故こんな危険を冒すのか?

 それは、核心に近づく何かが此処に有ると確信していた。

 あやふやな情報はいくらでも有ったが『〇×ビルを調査』などという具体的な情報は初めてだった。

 直後にマイクに気付かれ、それ以上の情報は無いが、それは此処を調査すれば分かる事だろう。

 彼女達はこちらを警戒してか今夜は動かない様だが、それはそれでチャンスだった。

 影を追うばかりでなく、『何をやっているのか』が分かるかもしれない。

 そんな思いが彼等を突き動かしていた。


 車に一人待機しているのを見て反対側から見つからない様に後をつける。

 敵は過去の例からいって、見張りに最低2・3人残しているのが常だ。

 見つかれば有無を言わさず殺されるかもしれない。

 しかし、わざわざ止めに出て行く訳にもいかない。

 ならばもしもの時は一瞬で相手を倒し立ち去るしかない。

 その一瞬を逃さない様に緊張が続く。

 だが、素人にしては上手くやっている様だ。

 今までにもこういう危ない橋を渡って来たのだろう。

 暗視カメラを回しながらゆっくりと進んで行く。

 しかし、そんな侵入も長くは続かなかった。

 敵がスタッフに気付き動き出した。

 侵入者のらしからぬ素人臭さに返って警戒しているのか、相手がスタッフ達に気を取られているその隙に御影や飛鳥達が近づき飛び出し、剣を一閃。

 相手の銃を叩き落とす。

 パンッ!

 その反動で一発発射されるが、弾丸は見当違いの方向に飛ぶ。

「うわ!? なんだ?!」

 背後からそんな情けない声が上がるが気にしない。

 直ぐに後ろでパシャパシャとフラッシュが焚かれだす。

 今度はナイフが襲い掛かる。

 狭い室内では長剣よりもナイフの方が小回りが効く。

 だが、相手は二人。時間も掛けられない。

 いつも以上に手早く相手を打ち倒す。

 そして、撤収の前にスタッフに駆け寄りカメラを1台残らず奪い叩き壊す。

 それぐらいはさせてもらう。


「あぁ~メンドクセェ割に実りもねぇ・・・・・・」

 飛鳥がぼやく。

「まぁまぁ、怖い思いをして懲りてくれれば良いんだけどね・・・・・・」

 有菜がフォローを入れる。

「・・・・・・業務用のカメラって高いんだよな・・・・・・?」

 夏姫が一人ずれた事を考えていた。


 だが、翌朝のニュースで期待を裏切る結果が有った。

 一応チェックの為にビデオまで用意してあのテレビ局のニュースを朝からチェックしていると、『ついに謎の戦闘集団の姿を撮影!』とかいう見出しでニュースが流れた。

 暗闇の中慌てた所為か、ピントもぼやけたブレた写真だが、丁度剣でナイフを叩き落す瞬間が見て取れる。

「コレ夏姫じゃね?」

「夏姫だね」

「夏姫だ」

「夏姫」

 ニュース内容よりも写真のインパクトに思わずみんなで口を揃える。

 それを見た夏姫は耳まで赤くなっている。

『よりにもよってこんな写真を・・・・・・』

 そう、例のマスカレイドを着けた横顔が写っていたのだ。

 飛鳥達は即答したが写真のボケ具合からしてクラスメイトでも気付くかどうかという程度。

 確かにマスクのお陰で個人の判別は難しい。

 しかし、何はどうあれこんな写真を晒された事が恥ずかしい。

 もちろん、そんな事を気にしていたのは夏姫一人だけだが。

「カッ! カメラは全部壊したんじゃなかったのか?!」

 夏姫の声が少し高い。

「間違いなく壊したでぇ。その証拠に写真はコレ一枚きりっきゃ出ぇへん。多分奇跡的に無事なんが有ってんやろ」

 飛鳥が落ち着いた口調で答える。

「っく!」

 夏姫の悔しそうな表情を見て、

「燃しときゃよかったな」

 と言うと、

「何で燃やさなかったんだよ。あんたプロだろ」

 と、少し声のトーンを抑えてて言う。

「急いでたんやし、ウチかて失敗はするて。残ってまったモンはしゃあないやん」

 そのやり取をみて、御影が割って入る。

「まぁまぁ。そんな事よりも、確かにこうなっては仕方が無い。この記事であいつ等が調子に乗らなければ良いが・・・・・・」

 だが、読み上げられる記事の方は今まで同様憶測ばかりで、結局なぜこんな戦いをしているのか? という疑問を叩き付けているだけだった。

「あれ? ボク達の事は・・・・・・?」

「何も言って無いな。確証が無いからか?」

 ピンポーン!

 そう言った矢先にチャイムの音がした。

 こんな朝早くから誰だろう?

 そう思いながら有菜が玄関を開けると昨日の撮影スタッフ達が居た。

「うげ!」

 らしくない奇声を上げ慌ててドアを閉めようとするが、空かさず止めに手が入る。

「あー! ゆうなちゃん待って! 大丈夫カメラは回ってないから!」

 その声に気が緩んだ瞬間ドアが全開に開かれる。

「・・・・・・なんですか?」

 半ば諦めた気持ちで聞いてみた。

「昨日の事なんだけど、マイクには気付いたんでしょう」

「・・・・・・」

 有菜は答えない。

「ずばり聞くわ、ゆうなちゃん、噂の事、謎の戦士の正体を知ってるんじゃない?」

「・・・・・・」

 これは遠回しにそうだと言われているのか、本当にまだ分かっていないのか判断しかねて沈黙した。

「答えてくれないなら昨日のお友達の事も、勝手に調べさせてもらうから。憶測の、誤ったニュースが流れてしまうかもね」

 そういうと、スタッフの後ろから声が聞こえた。

「脅しのつもりか?」

 驚いて視線を移すと、何時の間に移動したのか御影と裕美が立っていた。

「脅しだなんて・・・・・・、私達はただ真実が知りたいだけなの」

「自己満足の為? それとも職業病とでも言うの? あんた達はそうやって人の秘密を嗅ぎ回ってネタにしているだけだろ。あんた達はその秘密の重みを背負って生きて行けるの? 何故秘密にしているか考えた事有るの?」

 御影が容赦無く糾弾する。

「あなた達が何をしてるって言うの? 街を破壊しているだけじゃない!」

「戦いの意味も理解して無いくせに」

「だからそれを教えて欲しいと言ってるのよ!」

「あんた達は秘密を守れない。テレビなんかで流されて良い話じゃ無いんだ!」

「本当に知られちゃいけない事は報道しないわ。朝のニュースは見た? 何処で起こった事とか、あなた達個人の事は何も言っていない。本当は写真だってあの一枚キリじゃ無いわ」

「・・・・・・なるほど、ここまで教えられないと言っている事なんだから、死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね?」

「あなた達に助けられなかったら、昨日死んでたわ」

 自嘲気味な笑みを洩らす。


 他のスタッフは駄目だと、リポーターが一人だけ部屋に通される。

 そこに夏姫と飛鳥も居た事である考えが過ぎる。

「まさかと思ったけど、全員そうなの?」

「そうだよ」

 有菜が答える。

「あなた達は何故戦っているの?」

「事件解決の為、それは平和の為」

「その事件って貴女のお父さんの会社の事故の事?」

「そう、あの事件も含まれます」

「戦っている相手というのは?」

「悪魔・・・・・・と言って信じて貰えるかしら」

 少し芝居がかった口調で語り出す。

「あくま・・・・・・神様とか悪魔とかの?」

「ええ、そうよ」

「まっさか・・・・・・」

「信じてもらえなくてもいい、でもそれが真実。ボク達は神界から力を借りて戦っているの」

「しんかい・・・・・・神様の世界?」

「そう、それは此処とは違う時空に存在する未知の世界」

「それが存在しない事を今の科学が証明しているわ」

「だから簡単には教えられない裏の世界の秘密なの」

「その悪魔がこの世に現れて人でも食らうって言うの?」

「そんな単純な事じゃ無い。政治や宗教、又は影響力の大きい企業等を裏から操り世界を動かしている。世の中の争い事の大半は奴等が関わっていると思っていいぐらい」

「そんな事って・・・・・・」

「もちろん簡単には分からない様にしている。それはボク達も同じ」

「それが本当だとすると、一般に公開したら大変な事になる。何処に悪魔が居るかも分からない不気味な世界。誰もが疑心暗鬼になる」

「それだけじゃない。なんでも悪魔の所為にして悪事を働く者達も現れる」

「そうね、人間の闇の部分を引き出す、まさに悪魔の存在」

「それがボク達の敵」

「その突拍子も無い話を信じさせてくれる証拠は?」

「・・・・・・」

 しばらくの沈黙の後、有菜が人差し指を立てて見せると、その指先からポゥっと炎が上がる。

「魔法って信じる?」

「・・・・・・それくらい手品で出来るわ。タネは分からないけど・・・・・・」

 一瞬驚いた様だが冷静に分析する。

「・・・・・・見て信じないとなると・・・・・・」

 そこまで言いかけた所で御影が割って入る。

「炎を出すとか宙に浮くとか、そんなよく分からない事より、もっと単純に『体感』出来る事の方が良いんじゃないか?」

 そう言いながら何処から出したのか、何時の間にか持っていた剣を突き出す。

 その剣を見て思う。

「それって・・・・・・痛い事?」

「なに、ほんのちょっと傷を付けるだけさ」

「なるべく痛く無い方が・・・・・・」

 そう言うや否や相手の手首を取り、腕を引き寄せ剣を当てる。

「ちょ、待って!」

「死ぬ覚悟は出来てるんだろ」

 反論も聞かずにそっと剣を引く。

「痛っ!」

 小さな傷だが鋭い痛みと共に血が滴る。

 痛む腕にもう片方の手を添える。

 我慢出来ない程大きな傷では無かった。

「自分の体に傷が出来た事をよく感じておけ」

 言われなくても意識が腕に向く。

 押さえる手に力を入れると少し多く血が出る。

 脈打つ度に傷が痛む。

 感じる、そこには確かに傷が有る。

 そう思っていると、有菜が何か呟きながらそっと手を添える。

 その手がポゥっと光ると痛みが和らぐの感じた。

 渡されたハンカチで血を拭うと傷が見当らない。

 痛みも感じない。

 それが不思議で何度も何度も強く押したりしてみる。

 しかし痛みは無い。傷は完全に無くなっていた。

「不思議な力の存在は感じて貰えたかな?」

 有菜が問いかける。

「・・・・・・これが、魔法・・・・・・?」

「そう、魔法」

 そこからの理解は早かった。

 悪魔が人間界に介入する事、魔法を人間界に広める事、それは地球の環境破壊に等しい、人間界には有り得ない力が加わるという事。

 地球を、人間界を守る為には、それらの介入を排除するのが望ましい。

 また、神や悪魔の存在を認めるという事は、世界中の歴史・宗教・学問など、様々な物に波紋を投げかける事になる。

 放っておけば、誰かが手を下さなくても争いの種となるだろう。

「もちろん魔族もそれと分からない様に行動している。その名前も分からない。どんな事でも非合法に処理をするそれを、ボク達は闇の組織と呼んでいる」

「確かにこれは簡単に公開して良い話じゃ無いわね。私達が殺される程度じゃ済まない。世界中が大パニックになる・・・・・・」

「分かってもらえた?」

 そう問うと、一瞬の沈黙の後、

「ええ、そうね。・・・・・・ちょっと待ってて」

 そう言うと外へ出た。

 すぐに戻って来ると、大きな封筒を渡す。

 中身を出して確かめる。

 そこには不鮮明ながら五人の戦士姿が映った写真と、コマ切れのフィルムが有った。

「写真はこれで全部。残りはビデオも写真も音声も機材一式全部粉々よ・・・・・・」

「これを渡して貰えると言う事は・・・・・・」

「ええ、他言無用。もちろん外のスタッフにさえ言わないわ。適当に誤魔化しとく。その代わりと言っちゃなんだけど、どの事件が危ないのか、分からない時は聞いてもいい? 私達だって無駄死にはしたく無いから」

「そうだね、それくらいなら」

 それで話は上手く纏まった様だ。

 さて、帰ろうかと思った時に有菜が神妙な表情で呼び止める。

「最後にもうひとつだけ確認しておきたいんだけど」

「・・・・・・なにかしら?」

「もしかして、学校での撮影って・・・・・・?」

「・・・・・・ゴメン、アレ、ウソ・・・・・・」


 それ以降、少しずつでも計画は阻止出来ている。それに戦闘に関しても少しずつ慣れて来ただろうか。以前程怪我は負わなくなって来た。

 そんな中、エスカルと相談して、慎重に二人の救出作戦を練っていた。

 だがエスカルの顔色は渋い。

 すでに何度か二人の救出計画を上層部に相談に行ったのだが、ヘタをすれば前面戦争にも成りかねないと却下され続けていたのだ。

 なんにしても最悪の事態を想定した準備を整えてからで、今は我慢しろとの事だった。

 流石に今回ばかりは神族の手を借りないと、たった数人で乗り込んだって多勢に無勢なのは分かりきっている。


 所が有る日、駄目元で持っていった計画がすんなり通った。それも神族の前面バックアップ付きで。

 時間は掛かったが、ようやく二人を助け出せる。

 その思いに逸る気持ちを抑えつつ作戦の日を迎えた。

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