第4話 接触

「大分時間も経ってしまったし、これ以上の捜索は無意味かもな・・・・・・」

 再びみんなが集まった所で夏姫がそう言い、今日の所は諦める事にした。

「ちくしょう!」

 御影が一人悔しがる。

「いっぱい走り回ったから、ボク疲れちゃったよ・・・・・・」

 有菜が愚痴る。

「そうだな、そこの茶店で休んで行くか」

 夏姫が近くにあった喫茶店を視線で指す。

 大勢でぞろぞろと喫茶店に入ると、御影が入り口で急に立ち止まった。

「どうしたの?」

 有菜が聞くと、

「この中に居る!」

 と言って店内を見渡す。

「え?!」

 一瞬何の事か分からず聞き返すが、すぐにその意味を理解する。散々探していた相手が此処にいるのだ。

 一般人の居る前で、何よりこんな狭い場所で戦闘など考えたくも無い。

 メンバー全員に緊張が走る。

 だが、見渡してもそれらしい人物は居ない。

 新聞を読んでいるサラリーマン、世間話に花を咲かせる主婦達、本を読みながらコーヒーを啜る女子高生、そんなごく普通に見える人達しか居ない。

 この中に居たとしても、自分達が入って来ても慌てる素振りすら見られない。

「ほんとにこの中に居るの?」

 有菜が聞くと、

「確かに居る。こんな所で硝煙の匂いをさせている奴なんて他には考えられない。常人にはコーヒーの匂いに紛れて分からないレベルだがな」

 と答えた。

「お客様・・・・・・? あの?」

 席に着こうとしない客を不審に思い声を掛けられる。

「すみません。私達人を探しているだけなんで」

 と夏姫がフォローを入れる。

「行こうか。みんな、気を付けろよ」

 御影が先頭をきって行く。

 そして、本を読んでいた女子高生の前で止まった。

 まさか街中でライフルやロケットランチャー等を扱うような相手が、同世代の女の子だったとは誰も思って無かった。

「ちょっと付き合ってもらおうか」

 そう言った御影をきょとんとした表情で見上げる。

「なんやねんあんたら?」

 関西弁でそう言うと怪訝そうな目で見つめられる。

「おかしな事は考えるなよ、どう考えても多勢に無勢なんだからな」

 無視してそう続ける。

 確かに頭数だけなら6対1で有利なはずだがこちらは実質素人ばかり、御影は強気の態度だがこういう事に慣れていない者は不安を押し殺そうと頑張っていた。

 しかし、

「カツアゲか?金ならそんにもってへんで」

 とあくまで白を切る。

「白を切ってもこっちには分かってるんだよ。そんな火薬臭い一般人がそうそう居るものか」

 御影のその言葉に少々表情が変わる。

「分かった、とりあえず表出よか」

 そう言って外へ出ると近くの路地裏へ、辺りに人が居ないのを確認しながら入って行く。

 みんなでこの少女を取り囲む。

「先に言うとくけど、ウチは下っ端の使いっ走りや。大した事なんか知らへんで」

 先に向こうから口を開いてきた。

「知っている限りでいい。あんた達の事を話してもらおうか」

 御影がそういうと、

「ウチはただの殺し屋や。ウチが言われたんは神崎御影と高田裕美の二人を消せっていうだけや。ウチらの組織が何を目的としとって、なんでその二人が邪魔なんかすら知らん。大体あんたらの仲間がこないにぎょうさんおる事自体情報に無かったわ」

 多勢に無勢で流石に不利と思ったか、意外と素直に説明する。

「ならあんたの上役の所へでも案内してもらおうか」

 そう御影が続ける。

「場所教えてもエエが、今行くとようけ人おるで。表向きは普通の会社やからな。今の時間は止めといた方がええ」

「何時なら良いんだ」

 御影が苛立たしげに言う。

「そないに慌てんなや、今夜報告に行く事になっとる。その頃なら人も少なくなっとるで、そん時連れてったろに」

 しばらく考え込む御影。

「・・・・・・分かった。それで良いだろう。それまで身柄は拘束させてもらう。とりあえず今持っている武器を預からせてもらおう」

 そう言うと手荷物を受け取り、御影が映画の様に体を触って武器の所持を確認する。

 脇の下と内腿から小型拳銃二丁を押収する。

「とりあえず付いて来てもらうか」

 そういって有菜の家へと連れて行くと、空き部屋を片付け交代で見張りを立てて監禁した。


 夜になりそろそろ出かける時間となって少女を部屋から出す。

「そういえばあなた名前は?」

 夏姫が声を掛ける。

「麻宮飛鳥」

 打切棒だが素直に答える。

「案外大人しく言う事聞くんだな」

 御影がそう言うと、

「あんたみたいなバケモン相手に正面からやりあったって勝ち目無いしな。それとも暴れたら逃がしてくれるんか?これでも一応いろいろ考えてんねやで」

 などと言い出す。

 その時飛鳥が隣に居た有菜の手を取り後ろ手に捻り上げる。

「え?! 痛い! イタイ! なにすんの! やめてよ!」

 有菜が悲鳴に近い声を上げる。

 全員に緊張が走る。

「なにす・・・・・る?」

 御影がそう言い掛けたが、すぐに飛鳥が手を放す。

「あ・・・・・・いや・・・・・・つい・・・・・・。さっきから思っててんけど、やっぱあんたらほとんど素人か?どうも身のこなしがなってないっちゅうか・・・・・・」

「だとしたらどうだと言うんだ?」

 御影が答える。

「いやぁ、頭撃ち抜いても死なへん様な奴の仲間やさかいどないな奴らや思ててんけど、びびって損したわ。ようそんなんで組織とやり合おうなんて思てるなぁて感心してんねん」

 飛鳥は本当に感心している様だ。

「確かに素人ばかりの集まりだが一般人でも無いんでね・・・・・・」

 御影が含みを持たせて言う。

「ん?なんや?みんな撃たれても死なへん様な奴らばっかなんか?」

 飛鳥が驚きとも恐怖とも言えない表情をする。

「そこまでは言わないが、みんなあんた達の組織に対抗しうる力を持っているのさ」

 はぁ・・・・・・と溜息をついて黙り込んでしまう飛鳥。

 しばらくの沈黙の後、

「なぁ、ウチらのアジトに乗り込んだ後は、ウチの事どうするつもりなんや?」

 と聞く。

 そう言われて考えて無かった事に気付く。

 殺したりしてしまう訳にもいかないが、かといって自由にさせてしまうのも問題がありそうだ。

 一同考え込んでしまう。

 すると、

「こないな事いきなり言うても信じてくれへんかもしれんが、ウチの事あんたらの仲間にしてくれへんか?」

 などと言い出した。

 思い掛けない台詞に全員言葉が出ない。

「ウチ、別に好き好んで今の組織におるんや無いねん。ウチ孤児やって物心付いた頃には組織に引き取られて、戦う為に生かされて来たんや。育てて貰った恩義はあっても、やってる事に対する忠義は無いねん。

今まで自分が生きる為にようけ人殺して来たけど、そんな生き方に疑問は持っててんや」

 少し熱く語り出す飛鳥。

「今までは組織を裏切る事が怖ぁてなんも出来へんかったけど、あんたらみたいなんでも組織と戦えるっちゅうんやったら、抜け出してみよかって気になってん」

 そう言って御影の目をまっすぐに見つめる。

「そう言われてもあたしはあんたに頭撃ち抜かれてるからな・・・・・・。それに、リーダーはあたしじゃ無いし」

 そう言うとみんなが有菜の方を見る。

 その視線に気付くと、

「え!? ボクなの?!」

 と一人驚く。

 一番早くから戦士として活動し、エスカルとの連絡も主に彼女がやっていたのだが、本人にその自覚は無かった様だ。

 飛鳥以外のみんながハァと深い溜息をつく。

 有菜はしばらく悩んだあと、

「と、とりあえずは当面の目的を果たしてからの話じゃないかな?」

 その場の誤魔化しの様にも聞こえるが確かにその通りだろう。

「そうだな、とりあえずはアジトに行ってからにしよう」

 夏姫がそう言い、アジトへ向かう事にした。


 指定の時間通りに到着し、隣のビルの屋上へ行くとそこで戦士姿に変身し、目的のビルへと飛び移ると屋上から侵入した。

 それを見て飛鳥が

「あんたら何モンなんや?」

 と聞くが、

「後でね」

 と有菜が答えるだけだった。

 見回りの時間は飛鳥が教えてくれた通りの様だ。

 部屋に誰も居ないのを確認するとまず辺りを物色しだす。

 今後の計画の文書や仲間達への連絡先、名簿などがないか調べる。

 そして、愛恵が隣の部屋へ行った所で男とバッタリ出会ってしまった。

「誰だ!」

「あ、あなたは・・・・・・」

 大きな声こそ出さないものの、そこには以前出合ったあの男が居たのだ。

「チッ、また神界の戦士か」

 そう言うと間合いを取って剣を構えて対峙する。

 すると奥から女の声が聞こえた。

「ザイラス様、どうかされましたか?」

 そこまで言って、奥に居た女の方も愛恵に気付いた様だ。

「ザイラス・・・・・・」

 それが男の名前の様だ。

「神界の戦士ですね」

 女がザイラスに確認を入れる。

「ああ」

 ザイラスがそう言うと愛恵に斬り掛かって来た。

 何度も斬り付けられるのを辛うじて受け流す。

 その剣がぶつかる音を聞きつけて有菜達がやって来る。

「あ! あなたは!」

 有菜が叫ぶ。

 それに気付いたザイラスは少し間合いを取って立ち止まる。

「この人数相手では不利か、引くぞ!ファミル!」

「はい!」

 ぞろぞろやって来た仲間の数を見るとすぐに階段の方へと逃げて行った。

「大丈夫だった?」

 有菜が愛恵の所へ駆けつける。

「うん、なんとか・・・・・・」

「今、敵と戦っていたのか?」

 御影がたずねる。

「うん、見つかちゃった、ごめん・・・・・・」

 その時、

「あぶない!」

 そう叫びながら飛鳥が有菜を突き飛ばす。

 次の瞬間バンバンと音がして、二発の銃弾が飛鳥を襲った。

 全員慌てて伏せる。

 騒ぎを聞き付けてやって来たのか、部屋の別の出入り口からこちらを狙っている様だ。

「飛鳥!」

 有菜が叫ぶ。

 弾は肩口と腕に当たったようだ。とりあえず致命傷では無いのでホッする。

「あんたは無事やったか?」

 飛鳥が聞くので

「うん、あなたのおかげよ」

 と涙ぐみながら言い、急いで治癒呪文を唱える。

 一方御影と裕美が身を低くして机の影から襲って来た奴らの方へと忍び寄る。

 そこに夏姫と愛恵も続く。

 こちらからの反撃が無い所為か、相手がゆっくりと部屋に入って来た。

 相手は丁度四人の様だ。

 まず御影と裕美が動き相手の銃を跳ね飛ばすと相手の喉下に剣を押し付ける。

 残りの二人がそっちに気を取られた瞬間を逃さず、夏姫と愛恵も同じように銃を叩き落とし剣を突きつける。


 相手の動きを封じると、縛り上げて話を聞く事にした。

「さぁ、あんた達の目的と今後の計画を教えてもらおうか」

「その前に教えてくれ、飛鳥がそっちに居るのか?」

 男がそう聞くので

「あすか? ああ、あの女ならここの事を吐かせてすぐに始末したよ」

 御影がそう答えながらみんなに目配せする。死んだ事にしておけば今後飛鳥に対して追っ手が掛からないだろうと踏んだのだ。

「そうか・・・・・・、目的は俺達も知らない。俺達はただ組織の邪魔になる奴らの行動を阻止するために集められただけだ」

 それしか聞かないうちに階段を上がってくる足音に気付いた。

 今度は数が多い様だ。

「チッ、またか、ぞろぞろやって来た様だな」

 御影がそう呟くと、男達を放って置いて広い場所を求めて全員屋上へと急いだ。

 そして屋上で戦闘になるものの、今度は相手の数の多さに苦戦する。

「今日はここまでの様だな。引き上げよう」

 御影のその言葉でみんな一斉に隣のビルへと飛び移る。

 予想外の人数と戦闘になってしまい、結局何も情報を得る事が出来なかった。


 有菜の家に戻り一息ついた所でみんなでお茶を啜っていた。

「そうか、ウチは死んだて言うてくれてたんか。追っ手が掛からんように気ぃ使うてもろたんやな。おおきにな。しっかし凄いなぁあんたら。さっき撃たれた時はマジでヤバイ思うたけど、あっちゅう間に治せるんやな」

 そう言いながら撃たれた方の腕を動かしてみる。

「あんたらにはごっつ世話んなった。そのお礼としてウチに何か出来る事あらへんやろか?せやけどウチは戦う事しか出来へん。さっきも言うてた事やが、あんたらと一緒に戦わせてもらえんやろか?」

 言葉をそのまま鵜呑みにすれば悪い話ではない。しかし、今日まで戦っていた相手だ。

「あたしは反対だな。あたしらはコイツに殺されそうになったんだぞ」

「私も反対です。今まで戦っていた相手を簡単には信じられません」

 御影と裕美は激しく反対する。

「でもあの時撃たれてまで仲谷さんを助けてくれたのは本当の事だと思うけど・・・・・・」

 愛恵がそう言うと、

「でもそれさえ計画的だったっていう事も考えられるんだよね?」

 と優舞が言う。

「あの暗がりの中、仲谷さんを助ける為に動いている所を急所を外して狙って撃つなんて事が簡単な事だとは思わないな。少なくともあの瞬間は私達の為に動いてくれたんだと思う」

 夏姫がフォローするが、

「まあ、だからと言って前面的に信頼するのもどうかと思うな。それよりも、私達が学校へ行っている間をどうするかだ。家に一人で居させるのは危険な気がする」

 と続けて言う。

 しばらくの沈黙のあと、

「なら麻宮さんも学校に行けば良いんじゃない?クラスが一緒にならなかったとしても、出席しているかは調べれば分かるんだし、とりあえず行動を把握出来る様にはなるんじゃない?」

 と有菜が言う。

「うぇ?! 学校!?」

 飛鳥が変な声を上げる。

「年は同じぐらいなんだし変な事じゃ無いよね?」

 こうして飛鳥も有菜達の学校へ通う事になった。


 それからしばらくして何も問題が無いだろうとの事で、はれて飛鳥も戦士の一員となった。

 御影と裕美とは少し仲が悪いが・・・・・・。

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