第3話 会社
「とりあえず場所を移した方が良さそうだ」
夏姫がそう言うと、あたりに他の生徒が近づいて来たのに気づいた。
「仲谷さん、歩ける?」
「うん、なんとか大丈夫だよ」
優舞が有菜に肩を貸し、愛恵が千切れた裕美の腕を体育のジャージで隠し、夏姫が散らばったパーツをかき集め鞄に詰めると足早に学校を出て行く。
「ちょっと、そんなに速く歩いて何処へ行くつもりなの?」
有菜が先頭を歩く夏姫にたずねると、
「あなたのお父さんの会社よ」
と答える。
「え?!」
困惑する有菜と愛恵。
当然だが優舞には全く訳が分からない様だ。
「会社なんかに行ってどうするの?」
有菜が聞くと
「こんな所でする話じゃ無いと思うから、とりあえず黙ってついて来て欲しいわ」
それだけ言うとさっさと歩いて行ってしまう。
よく分からないが悪い事をしようという訳では無さそうなので、言われた通り黙ってついて行く。
みんな押し黙ったまま会社の前までやってきたが、当然のように門が閉められている。
辺りは中に入らない様にロープが張られただけで誰も居ない様だ。
此処へ来てどうするのか聞こうと思った時には、夏姫はさも当然の様に脇にあった
通用口の前へと進み、鞄から取り出したカードを扉の横の機械に通す。
ピッと短い音が鳴ると鍵が開いた様だ。
「さぁ、行くよ」
と言うと、先に一人で中へ入って行ってしまう。
「こんな所入っちゃっても良いの?」
優舞が一人で困惑している。
夏姫はここでも当然のように建物の正面玄関を通り過ぎ裏口の方へ回ると、同じくカードキーを通していた。
「ちょっと待ってよ、ここでいったい何をする気なの?」
もう一度有菜が問う。
「あなた達じゃその子の腕を直せそうに無いから、私が直してあげようと思って、ね」
「!? ・・・・・・どうして・・・・・・あなたが・・・・・・?」
「私・・・・・・此処で働いていたの」
「!?」
それだけ言うと建物の中へ入って行った。
爆発炎上したと言っても建物自体がかなり大きいため完全に崩れ落ちた訳では無く、低い視点からの外観ではあまり分からないぐらいだった。
しかし、建物の奥へ進むたびに事故の被害が酷くなっていた。
爆発の中心に近いと思われる辺りでは壁や天井が崩れ瓦礫の山となっている所も有った。
流石にそんな所は素通りして通路を進む。
本当はあちこちに血糊が付いていたのだが、火災の焼け焦げとまじっていて、気付いているのは二人だけで後は誰も気付かない。
カードキーを使って何度目かの部屋に入った所で足を止め夏姫が語り出す。
「私の両親はここで研究開発主任をしていてね、自分で言うのもなんだけど、親に私の才能を買われてここでアルバイトをして両親の手伝いをしていたの。あの事故が起こったのは学校帰りにここに向かっている途中だったから私は事故から免れたのよ。
この会社では薬品や医療機器の研究・開発と共に義手や義足・人口内臓といった物も実験的に作っていたの。見た所その子の腕はここで作った物の様だから、直すならここの機材が必要だと思ってね。さ、こっちへ来て」
裕美を呼ぶと壊れた腕を見る。
『裕美がここで作られた!?』
有菜と愛恵は父の会社の新事実に思いをめぐらせる。
「でも、ほとんど焼け焦げちゃって少しの資材と機械しか残ってないよ?」
辺りを見回しながら気付いた事を愛恵が言う。
「大丈夫。機械さえ使えれば図面なら全部ここにあるから」
そう言って自分の頭を指差す。
「問題は機械が動くかどうかね・・・・・・」
そう言っていろいろ機械をいじりだす。
途中で見かけた酷い部屋は手の付け様が無いぐらいだったが、この部屋は大分マシな様だ。
煙で真っ黒にはなっていたが火の手は回っていなかった様で電源などは生きていた。
「良し、なんとかなりそうよ」
それからしばらくの間みんな押し黙ったまま修理が続いたが、夏姫が突然思いがけない事を言う。
「仲谷さん。・・・・・・ここで起こった事故は人為的に仕組まれた破壊工作だったんでしょう?」
「え?!」
「事故の後とはいえ、資料やパーツの類が全然残って無いのは不自然だわ。警察や消防がそこまで全部持っていったとは考えられないし、誰かが処分したか持ち去ったのかは分からないけど、計画的な物を感じるわ。職員も事故以前に殺されていたっていう噂もあるし・・・・・・」
「良く分かるわね・・・・・・、その通りよ。確証は無いけど、ここに破壊活動を行われる様な何かがあった事は確かだと思う」
天才少女の洞察力に感心するが、それだけでは無かった。
「それに、この子も事件に関係あるんじゃない?」
「え?! どうして?」
「この子、腕だけじゃなく全身機械で出来ているとか・・・・・・?」
「!」
流石にこの言葉には声が出ないが、有菜の反応を見て夏姫も少し驚いた様だ。
「え? なに? どういう事?」
優舞一人が蚊帳の外だが構わず話を続ける。
「驚いたな、その様子だと図星の様ね。かまかけだったんだけど、まさか本当とは・・・・・・。しかもどうやら仲谷さんだけじゃ無く、そっちの子も知っていたみたいね。」
「! ・・・・・・ええ、私も知っていました・・・・・・。でも、どうしてその事が・・・・・・?」
驚きながらも聞き返す愛恵。
「簡単な推理よ。ここの資材が無くなった事と、この子が襲われた理由とは何かを考えれば。その二つを結ぶこの機械が、腕だけじゃなくこの子の全身に、この会社の技術の全てが使われているとしたら、この子自身も消してしまいたい存在なんじゃないかってね。
流石にその前提条件が事実とは思わなかったけど。会社が襲われた理由って、この子の事なんじゃない?」
「確かにそれで全て辻褄が合うね。今までの謎が全部解けた気がするよ」
有菜が感心しながら言う。
「全部じゃ無いわ。何故秘密裏にこの子で全身機械の実験をしていたのかは分からないし、なにより誰がどうして破壊しようとしてるのかは分からない。医療目的なら邪魔される理由も無いし・・・・・・」
裕美達には軍事目的で作られたと分かってはいるが、そこまで話すべきか迷っていた。
そんな話をしながらも修理は進む。
「これで終わりね。どう?動かしてみて」
そう言われて腕をいろいろ動かす裕美。
「問題ありません。出力も元通り有ります」
「そう、良かった。でも、外皮だけは私も専門外だからこれ以上の修理は無理ね」
「そうですか、生態部品を使っているので多少の傷なら自然治癒するのですが、流石にここまで来るとそれも出来ません。困りましたね」
「生態部品!」
夏姫が驚いて声を上げる。
「そんな物が実用レベルに達していたなんて・・・・・・。ここではそんな物まで作っていたのね。全身機械というだけでも信じられないくらいなのに」
夏姫が一人で興奮している。違う部署の事までは知らなかった様だ。
「生態部品って・・・・・・それじゃあ人間の皮膚と同じって事?」
愛恵がそう聞くと
「そうね、同じと思って良いと思うわ」
と夏姫が答える。
「だったら私、治せるかも!」
そう言って裕美の傍へ行くとポケットから大き目のハンカチを取り出した。
「直すって・・・・・・どうやって?」
「実は私、マジシャンなんです。こうやって傷口を隠して・・・・・・」
裕美の傷口をハンカチで隠すとその裏でこっそり治療呪文を掛ける。
上手く行くか自信は無かったが、どうやら治ってくれる様だ。
しばらくゴソゴソして見せた後、
「ワン・ツー・スリー! ほら、これで元通り!」
と言いながらパッとハンカチを取る。
そこには元通りに治った裕美の腕があった。
優舞が感嘆の声を上げながらパチパチと手を叩く。
「ほらって・・・・・・なんでそんな簡単に?!」
当然だが困惑する夏姫。
「だからマジックなんですってば・・・・・・」
そんな説明で夏姫が納得する訳が無かった。
「だったらこの子の修理も出来たとか?!」
「そこはマジックだから出来る事と出来ない事が有るんですよ・・・・・・」
「そんな説明で納得出来る訳無いでしょう!」
なんだか良く分からない話になって来た。
「私さっきからずぅっと蚊帳の外なんだけど・・・・・・」
優舞が有菜に愚痴る。
「やれやれ、人前で魔法を使って見せてしまうとは、困りましたね」
その時、突然部屋の入り口で男の声がした。
驚いて振り向くと、入って来たのはエスカルだった。
「魔法?」
夏姫と優舞が呟く。
「エスカルさん! どうしてここへ?」
有菜がエスカルの傍へ行く。
「貴方は・・・・・・いったい・・・・・・?」
夏姫が尋ねると、
「それはこちらの台詞ですよ。私は立ち入り禁止になっているこの場所に入った者が居た様なので調べに来たのですよ。私は最近この施設の監視していたエスカルと言う者です」
と言う。
「うっ・・・・・・」
一瞬言葉に詰まる夏姫。
「私はここで働いていた者だ。立ち入り禁止になっていたとは気が付かなかったんだ」
と言い返す。
確かに夏姫がどんどん先に進むので立ち入り禁止などと書かれていたかは気付かなかった。
それでも常識的に考えれば事故現場なんて安全の為に立ち入り禁止になるのが普通だとは思えた。
「まぁ、その事ならもう私の知る所になりましたからとりあえずは良いでしょう。それに、失礼ながら大体の話は聞かせて頂きました。裕美さんの修理の為とはいえ、こんな所へやって来るとは・・・・・・」
「エスカルさんがここの監視?」
有菜が聞くと
「はい、私もつい先日からこの任務に就いたばかりなので、あなた方にも話せていませんでした。私は今まで違う部署に居たので知らなかったのですが、それでようやく私もこの施設の事を詳しく調べる事が出来ました。
あなた方が話していた通り裕美さんはここで造られました。そして襲われた理由は、裕美さんが魔族の侵攻を防ぐ戦闘の為に造られ、量産される予定だったからです。」
「まぞく・・・・・・?」
夏姫が呟く。
「有体に言えば悪魔達です。私達は神界の者で、魔族と戦う力を得る為に裕美さんを作り出し量産しようとしていた様です。しかし量産前に魔族に先手を打たれここを襲撃されてしまいました。まぁ前任者もあの時死んでしまった為、
詳しい事は分からないままですが・・・・・・。それで急遽、潰された計画の代わりの戦力として人間界から協力者を探し、有菜さん達に手伝ってもらう様になった訳です。有菜さん達はわたしが授けたアイテムによって魔法が使える様になったのですよ」
悪魔だの魔法だの突拍子も無い話に唖然とする夏姫と優舞。
「そういえばまだお名前を聞いていませんでしたね」
そう言うと
「私は広川夏姫、両親がここの研究開発主任だったから此処に出入りしていたんだ」
と答えた。
「そちらのお嬢さんは?」
「私は微香優舞って言います。私はただ椎名さんのクラスメイトってだけで偶然ここまで来ただけです」
「そういえば私達も名乗って無かったね。私椎名愛恵って言います。この会社の事故の件で仲谷さんと知り合って仲間になり転校して来たの」
夏姫に向かって話し出す。
「他校の生徒と思っていたが、転校生だったのか」
夏姫が呟く。
「私は高田裕美。ここから助け出されたあと、普通の暮らしが出来るように学習して、世間勉強の為に学校に通うようにしました」
「さて、一通り紹介が終わった所で本題ですが、夏姫さんと優舞さんも私達と一緒に戦って頂けませんか?」
「え?!」
唐突な展開に戸惑う二人。
「夏姫さんのご両親がここの職員なら、事故の時亡くなられてしまったはずです。それならご両親の無念を晴らす為にも悪い話では無いでしょう。優舞さんは・・・・・・特別な事は無い様ですが、ご友人方が困っている所ですし、乗りかかった船という事でいかがでしょうか?」
「・・・・・・」
考え込む夏姫。
『友人って言う程親しい訳じゃないんだけどな・・・・・・』
などと考えていた優舞。
「なんだか拒否権が無いような気もするが・・・・・・」
夏姫がそう言うと、
「流石お気付きですか。私達とてここまでいろいろ知った人物を黙って放って置く様な真似は出来ませんね。ただ、私達も手荒な真似はしたくありませんので、口止めするよりも抱え込んでしまった方が楽ではあります」
などと言い出す。
「分かった、仲間になろう。自分自身で魔法とはどんな物か確かめてみようじゃないか」
「決まりですね。それではあなた方にもこれを渡しておきます。使い方は有菜さん達に教わって下さい」
例のペンダントを夏姫と優舞にも渡す。
「わっ・・・・・・私の意思は・・・・・・?!」
優舞が呟くが誰も聞いていない。
その後有菜の家に移動した一行は御影と合流し、夏姫と優舞を紹介した。
「そうか、あんた達も仲間になったのか。あたしは神崎御影だ」
「それで、そっちはどうだったの?あの時は凄い勢いですっ飛んで行ったけど」
「ああ、火薬の匂いを追っていったんだが相手には逃げられた。」
「匂い?」
と夏姫が眉を寄せる。
「あぁ、この子も普通の子じゃ無いんだ。ロボットって訳じゃないけど」
有菜が説明する。
「ふぅん、それで、今後どうするつもりなの?」
「そうだな、人数も増えた事だし、あたし達が囮になるからみんなが四方で待機して相手を誘き出すっていうのはどうだ?」
「危険過ぎない?」
有菜が心配して言う。
「あたし達だけならどうという事は無い。前回にしろ今回にしろ有菜を守ろうとしたからやられただけだ」
「そっか・・・・・・痛い思いさせちゃって・・・・・・ゴメン・・・・・・」
有菜が俯いてしまう。
「あー別にヘコまなくていい。普通の人には避けられないし、当たったら死んじゃうからな」
「うん、ありがとう。」
気を使ってもらい有菜が礼を言う。
「あなただと当たっても死なない様な言い方ね」
夏姫が突っ込む。
「頭直撃したけど死ななかったよね・・・・・・」
「は・・・・・・?」
有菜のフォローも虚しく現場を見ていない者は誰も理解出来ない。
それから一晩かけてみんなで作戦を練るのだった。
数日後、先日話あった作戦を実行する。
御影と裕美が人通りが少なく見通しの良い場所をうろつき、その四方で残りの四人が待機している。
今までの襲撃から相手の狙撃範囲を予測し、それを包囲する様な配置で監視を続ける。
だが中々相手が現れず、辺りが薄暗くなり始め今日はもう無理かと思ったその時、ようやく相手が動いた。
前二回の遠距離からの狙撃で仕留められなかったので威力が足りないと思ったのか、今回はもう少し近い距離からもっと強力な武器で数発連射して来た。
庇う相手もいないので余裕でかわす御影と裕美だが、流石に今回は街に被害が出る。
だが、それにかまっている暇は無い。全員一斉に動き出す。
真っ先に射撃ポイントに辿り着く御影。だが其処にはランチャーが捨ててあるだけで相手は居ない。
今回は距離が近い所為もあって武器を捨てて慌てて逃げ出したのだろう。おそらくは指紋等も残っていないと思われる。
御影が辺りの匂いを嗅ぎ出す。
「こっちだ!」
御影が走り出す。まだ近くに居る筈だ。手分けをして探し出す。
だが、町中まで行くと人通りも増え、匂いも掻き消されてゆく。
そのうちに周りを包囲していたはずのみんなが御影達の所へ集まってくる。
「誰も怪しい奴を見ていないのか?」
御影が苛立たしげに言う。
慌ててもう一度みんなで辺りに散らばり探すが結局それらしい人物は見つけられなかった。
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