第2話 襲撃
突然の出来事にパニックになり惨状を見つめる事しか出来ない有菜。
裕美はしばらくの間何かが飛んできた方を見据えていたあと、ぽつりと
「弾道予測終了」
と呟いた。
しばらくして御影の痙攣がおさまり血が止まって来たかと思ったその時、御影が口を開いた。
「裕美、あたしの事はいいから、相手を追って!」
裕美はチラリと御影の様子を窺ったあと、
「わかった。仲谷さん、御影を頼みます」
とだけ告げると、次の瞬間何かが飛んで来た方向の家の屋根に飛び上がり瞬く間に見えなくなった。
「え?!」
呆気に取られる有菜。
御影の方はというと、ゆっくりと体を起こしたところだ。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの?!」
有菜が驚いて問いかけると、
「弾は抜けているから大丈夫だ、じきに治る」
と言う。
見ると頭の両側から出血しており頭部を何かが貫通した様だが、そんな状態で大丈夫な人間はいない。
「じきに治るって・・・・・・そんな状態ですぐに治る訳ないじゃない!」
騒ぎ出す有菜をどうしようかと思った瞬間、
「動かないで!」
と言われると有菜が御影の傷口に手をかざしてなにか小さく呟きだす。
手がポゥっと光りだすと瞬く間に痛みが和らぎ傷口が塞がっていく。
ようやくその存在を思い出し治療の呪文を使ったのだ。
この状態でも死なない御影本来が持つ超治癒再生能力と相まってあっという間に治ってしまった。
「?!・・・・・・」
有菜がやった事に対して一瞬何か言いかけた御影だが、血だらけの自分の姿を思い出すと、
「あたしは部屋に戻るから、道に付いた血を洗い流しておいてくれないか」
と頼んで戻っていく。
二人とも今日は学校に行けないなと思った。
有菜が二人の部屋に行ったのとほぼ同時に裕美も戻ってきた。
相手には逃げられたらしい。
御影はシャワーを浴び着替えていた。
そして説明が始まる。二人が何者なのかを。
「あんな所を見られてしまっては話さざるをえないだろうな。あたしはある組織に人工的に作られた人造人間で普通の人間の何倍もの能力を持つ。治癒再生能力も特別で脳細胞さえすぐに再生してしまうんだ。さすがに脳をやられると多少記憶がとんだりするがな」
いきなり突拍子も無い話が始まる。
「裕美は同じ組織で造られたアンドロイドだ。あたしの研究技術が普通の人間への応用が効かないのと、生命体故の不安定さから量産も出来無い為研究が凍結され、その代わりに
同じコンセプトで機械化されて造られたのが裕美だ。能力もあたしに近い物があり自己修復能力も持つ」
呆気に取られて聞いている有菜。
「そんな人がなぜ普通の学校に?」
ようやくそれだけ聞く。
「あたし達はその施設に閉じ込められて戦闘訓練などをさせられていたんだが、最近その施設から助け出されて自由になったんだ。それで普通の生活が送れるように学習して、社会勉強として学校に行くようになったんだ」
基本能力の高い二人はその社会勉強を短い期間で簡単に覚えたのだ。
その割には社交性に欠ける様だがそこはあえて突っ込まない。
「で、あんたの方は?」
「はい?」
突然話を振られたが意味が分からない。
「あたしの頭に手をかざして治癒を速めただろ。普通の人には、いや、あたし達にだって他人の治癒を早める事なんて出来ない。あんたの方こそ何者なんだ?」
「あー・・・・・・そうか、呆気に取られてたけど・・・・・・ボクの方が信じ難い話かも・・・・・・その・・・・・・」
と言い難そうにする。
「何だよ、はっきり言えよ。」
急かされるので
「・・・・・・あの・・・・・・魔法が使えるんだ・・・・・・」
と答える。
「魔法・・・・・・?」
当然のように訝しげな顔をする。
「実は、ボクのお父さんが会社の事故で死んじゃって、その事故の件でお父さんの仕事の内容が疑われているんだ。それでボクが自分で仕事の内容を調べていたんだけど、そうするうちに出会った人が居て、
その人に貰った道具によって魔法が使えるようになったんだ。その人は神の使いで悪魔達と戦っているって言ってた。ボクに声が掛けられたのは、会社の事故はその悪魔達の仕業らしくて、それで仲間にならないかって言われたんだ」
そこまで話、しばらくの沈黙の後
「なるほど、面白そうな話だな。もしかしたらさっき襲ってきた奴も、その神だか悪魔だかのどちらかかもしれないな」
と御影が言った。
「え?」
思わず有菜が聞き返す。
「あの施設がどちら側だったのかは分からないが、何故あたし達が作られたのかを考えれば、あたし達みたいな特別な力を必要とする奴らが居るって事だろ。常識的な範囲で考えればあたし達のような特殊な能力は必要無いが、相手が神とか悪魔っていうなら話は別だ」
「あー、そういう可能性もあるのか・・・・・・。流石頭良いんだね」
と関心する有菜。
「あたし達には地獄の様な施設だったが、それが正義の為だったとぐらいは思いたい所だな」
と付け加える御影。
しばらくの沈黙のあと御影がさらに口を開く。
「なぁ、あたしらもあんた達の仲間に入れてくれないか?」
「え・・・・・・? でも、せっかく自由に暮らせるようになったばかりなんじゃ・・・・・・?」
思いがけない提案に戸惑う有菜。
「最初のうちは自由を嬉しく思っていたんだが、正直学校での毎日は授業も面白くないし楽しいとは思って無かった。他の生徒達と只平凡な日々を送っているよりは面白そうだ。
それにさっきあたし達を狙った奴の事も気になる。何よりあいつに仕返ししないと気が済まない。その為にはあんた達と一緒の方がやりやすそうかと思ってな」
悪い話では無いが、一つ疑問に思い
「高田さんもそれで良いの?」
そう聞くと、当然の様に
「私も御影と同じ事を考えていました」
と素っ気無く答えた。
「あなた達みたいな凄い人が仲間になってくれるのは心強いわ。ボクにはこんな事を決める権限が無いけど、神界の人に頼んでみる」
情報収集のためにも身の安全のためにも仲間は多い方が良い。
もっとも、頭を撃ち抜かれて死なない者に身を守るも何もなんて事は言わないが。
「決まりだな。これからもよろしく頼む。」
「まだ早いよ、神界の人に話してみないと・・・・・・」
返事は後日という事で、今日の所は帰る事にした。
神の使いエスカルに連絡をとると最初は訝しげな顔を見せるが、まあ良いでしょうと言うと二人にもアイテムを渡す。
そして愛恵も二人の部屋に呼び紹介する。
「へぇ・・・・・・凄い人達も居たもんですねぇ・・・・・・」
と物目ずらしそうに御影と裕美をじろじろ見回す愛恵。
御影は少々鬱陶しそうな表情をしている。
まぁ、そういう目で見られる事には慣れていたので大して気にはしていなかったのだが。
それからしばらくの間、今後の事や世間話などに興じる。
しかし、前回来た時はそんな事を気にする余裕は無かったが、二人の部屋に家具が少なくあまりにも生活感が無い為有菜が呟く。
「しっかし何にも無い部屋だね」
「帰って飯食って寝るだけだからな」
御影に即答される。
かろうじてテレビだけある所を見ると、二人で黙々と眺めている姿が目に浮かぶ。
「趣味とかは・・・・・・無さそうだね・・・・・・」
「裏に狭いけど庭が在るから、そこで格闘訓練とかかな・・・・・・ん?!」
言いかけた御影の肩を皆まで言うなと有菜がポムッと叩く。
「もし二人が良ければの話だけどさ、ボクの家で一緒に住まない?」
「え?」
突然の申し出に戸惑う御影。
「ボク、アイドルの仕事もしてるじゃない。どうせ二人が帰ってから暇を持て余しているのなら、家事の手伝いとかして貰えるとありがたいかなぁ・・・・・・とか思って。
それにボクの家なら庭も広いし、その格闘訓練とかだって十分に出来ると思うんだ。自慢じゃ無いけど、あの広い家で一人暮らしって寂しいし結構大変なんだ。部屋も空いてるし、どう?」
「なるほど。良い提案だと思うが、あたしら家事ってあんまり出来ないぞ。知識ばかりで経験が無いからな」
そう言われると
「それなら椎名さんも一緒にどう?」
と来た。
「え?! 私も!?」
突然話を振られてびっくりする。
「椎名さんは家事得意って言ってたじゃない。それにあなただって家で一人っきりで居るよりはみんなと居る方が楽しいんじゃない?話し合いの度に集まらなくても良くなるし、良い事尽くめじゃない!」
確かにその通りではある。最近家に一人で居ると気が滅入る事も多い。
有り難い話ではあったが一つ問題が有った。
「でも・・・・・・、私の場合学校が凄く遠くなっちゃうな・・・・・・」
「あー・・・・・・そうか・・・・・・、ならウチの学校に転校しちゃえば? たしか専門科でも無かったよね?」
「うん、まぁ・・・・・・、でも・・・・・・えー・・・・・・」
しばし思い悩む愛恵。
確かに今通っている学校は特別な所では無いので拘る必要は無い。
転校する為には面倒な手続きなどがあるが、それ以上に父が亡くなって以来家に一人で居る時の憂鬱な気持ちを考えると、その方が良いと思えた。
父の事を思い出してしまう家から離れた方が、一人にならない方が悲しくならなくて良いかもしれないと思った。
しばらくの沈黙の後、転居・転校する決意をすると、
「そうね・・・・・・私も仲谷さんちに行こうかな。」
と答えた。
それからしばらく慌ただしい日々が続いた。
有菜の家の部屋の片付けや三人の引越しの準備、愛恵は転校の手続きなどに追われた。
引越しといっても御影と裕美の荷物は少ないし、愛恵も必要最低限の荷物しか持ち込んでないが、それでもそれなりの労力を使う。
有菜の家は流石大きな会社の社長邸宅というだけあって、一人一部屋でも余る程だったが、御影と裕美は同じ部屋で良いとの事だった。
有菜達の通う学校は芸能人やスポーツの特待生などの多い、いわゆる勉強はそれほどでもない普通科と、有名大学への合格者も多い進学科とに二極化した私立校だ。
愛恵は有菜達の通う普通科の隣のクラスになった。
それからしばらく経ったある日、休み時間が終わり愛恵が有菜達の教室から帰って来た時、隣の席の微香優舞(かすかゆうま)から声を掛けられる。
「椎名さんって時々業間に居なくなるけど、どこに行ってるの?」
少しウェーブの掛かった髪を指でクルリと巻きながらたずねて来た。
転校してきたばかりの愛恵に気を使っている様だ。
実は愛恵の制服はまだ届いて居らず、女子はセーラー服のこの学校で一人ブレザーを着ているので随分と目立っていた。愛恵が動くとすぐ分かる様だ。
「あー・・・・・・実は隣のクラスに知り合いが居てその子の所にね」
「知り合い? 転校したばかりで?」
もっともな質問だ。
「少し前に会社の連続爆破事故が有ったじゃない。その時に知り合った子なんだけど・・・・・・」
そこまで言うと、
「それってもしかして仲谷さんの事?」
と、すぐに分かった様だ。
「そっか、彼女有名人だもんね」
「知り合いって訳じゃ無いけどね。話した事も無いし」
と付け足す優舞。
「実は私のお父さんもあの時の事故で死んじゃって・・・・・・。それで偶然出会った仲谷さんと話すうちに二人とも似た境遇だったんで共感しあって、お互いお母さんも居なくて一人きりになっちゃったから、
それだと大変だからって仲谷さんの家で一緒に暮らすようになったの。それで転校して来たんだ」
「共同生活してるんだ。」
「一人で居ると、どうしても悲しくなっちゃうから・・・・・・。一緒に居れば気も紛れると思ってね」
「そっか、只一人暮らしを始めた訳じゃ無いもんね・・・・・・」
「うん・・・・・・」
頷いたあと俯いてしまう愛恵。
その姿を見て続けて優舞が話題を振る。
「そう言えば、もう一人似た境遇の人がこの学校に居るよ」
「え?」
「あなたは転校して来たばかりだから知らないと思うけど、進学科の方で入試以来トップの成績を取り続けている広川夏姫っていう天才の子。彼女はご両親共に事故で亡くなったって聞いたわ」
「そう・・・・・・」
自分達以外にもこんな悲しい思いをしている人が居る。分かってはいた事だが、それが身近な人物となると余計に重苦しく思えた。
その人の為にも早く事件を解決しなくちゃと決意を新たにする。
そんな話しをした日の放課後、優舞と一緒にお喋りをしながら教室を出た愛恵は、靴を履き替え外に出た所で一人の少女に出会う。
「あ、あの子がさっき言ってた広川さんだよ」
そう教えてもらった。
「へぇ・・・・・・」
といった所で別に何が出来る訳でも無くしばらく眺めるだけだった。
背は裕美程ではないが高い様でスタイルも良く、長い髪をなびかせながら歩く姿はまるでモデルの様だった。
その時、シュッと風を切る様な音が聞こえたかと思った次の瞬間、ドカーンと耳を劈く様な爆発音が響き渡る。
音は校舎裏からした様だ。
校舎裏は玄関口からすぐに行ける事もあり、何事かと思い様子を見に行った。
すると、丁度晴れてきた土煙の向こうに倒れている三人の人影が見えた。
「あれは・・・・・・!」
そこには有菜と御影と裕美の三人が倒れていた。
「仲谷さん! 神崎さん! 高田さん!」
愛恵が叫ぶと丁度その時御影が起き上がり、少しの間有菜と裕美の様子を窺ったあと、塀の上に飛び上がり瞬く間に外に飛び出して行ってしまった。
「あ・・・・・・」
声を掛ける間も無かった。
行ってしまったものはどうしようも無い。
気を取り直し残った二人の様子を見るためもう少し近づいた所で異変に気付いた。
裕美の左腕が肘の上辺りで千切れて中の機械が見えてしまっている。
さすがにここまでくると自己修復機能も追い付かないようだ。
「これは・・・・・・」
そう呟いたのは後からやってきた夏姫であった。
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