それぞれの思い(3)

 エレノアは後から追い掛けてくるJ・Cを振り払うかの様にして次々に屋敷内の角を曲がり、ついには屋敷本宅から出てメイド達が住まう別宅へと向かうかと思われた。が……その途中の庭園内にある噴水を見つめ……そこへと足を向けて元気なく歩き、静かに腰をかけ座る。


 J・Cはその時のどこか寂しげな様子のエレノアを遠目に改めて見つめ直し、そしてゆっくりと近づき、同じ様に静かにその隣へ確認するようにして座った。

 見上げる空はもう暗く、星空が夜空一杯に広がっている。


 J・Cはその星空を見上げながら、出来るだけ優しい口調で問いかけた。


「エレノア……」

「お願いよ、J・C。今は、何も聞かないで欲しいの。ただ静かに……このまま私が立ち去るのを、最後まで見送って頂戴。ね?」


「……」

 エレノアはそう優しげに言いながらも、やはりどこか寂しげである様にJ・Cには感じられてならなかった。


「……どうして? 『何も聞かないで欲しい』って言う理由は……なに?」

 そう問いかけるJ・Cを、エレノアは残念そうに見つめ、それから返した。


「どうしても聞きたい? それはね、自分が……みじめになるからよ」

 エレノアは今にも泣きそうなほど、震える声でそう言い、それでも無理に笑って見せていた。

 J・Cには、その理由がやはりまるで分からなかった。

 ベッティー達の話を聞く限り、エレノアにそれ程の非があるとは思えない。エレノアが言う、惨めになる、に繋がる理由なんて思い当たる節がないのだ。メルとエレノアを天秤にかければ、メルの方にどちらかと言えば問題があるとさえに思えるくらいだ。それなのに……なぜ?


 J・Cはエレノアの横顔を見つめ、そのことをエレノアの表情から読み取ろうとした。が、やはり分からなかった。思わずため息が出てしまう……。と、その時だった。


「メル-!」

 屋敷本宅から一人の女の子がその名を口にしながら手を振り走ってこちらへと向かって来ていた。どうやら……ケイリング・メルキメデス様の従者ヴァレットシャリルみたいだ。

 従者といっても、本来は自分たちと立ち位置はさほど変わりない。屋敷管理人や執事・管理長など礼を尽くさなければならない地位の人は多いが、従者であるシャリルは自分達と地位の面では同じだった。だけどそうはいっても、自分達の主人であるケイリング・メルキメデス様直属の従者ともなると……流石のJ・Cも自然と頭が下がってしまう。


「J・C、ごめんなさい……」

「あ! こら、エレノア!!」

 エレノアはシャリルを確認した途端、急に立ち上がり、走り去っていったのだ。


 まったく……コレは一体、どうなっているんだよ?


 J・Cは困り顔に頭を掻いて、そんなエレノアを見送るしかなかった。

「あ……ごめんなさい。わたし、てっきりメルかと思って……つい」

「え? ……あ、いやいや!」

 いつの間にかJ・Cの背後に辿り着いていたシャリルが、申し訳ない表情をしてそう言い謝ってきたのだ。

 それにしても……。


「あの……もしかしてメルが、今どういう状況に置かれているのか、御存知ないのですか?」

「え? というと??」

 どうやら何も知らされていないらしい……。


 J・Cは仕方なく、これまでの事情をシャリルに説明した。



「え? それではメルはそれからずっと部屋の中で独り、こもり切りだったのですか?」

「ええ……そうです。正直、とても困ってるんですよ」


「そう…なんだ……」

 シャリルはそこで思案顔を見せた。

 それから別宅の方を遠目に伺い見つめ、メルが居ると思われる部屋の明かりが仄かについているのを確かめたかと思うと、グッと口をかみ締め。決意に満ちた表情をJ・Cに向け、言った。


「分かりました! この件はわたしがなんとかします!!」

「え?」

 そう言い切ると直ぐにスクッと立ち上がり、別宅へと向かい走っていった。

 そんなシャリルを、半ば呆然とJ・Cは見送っていたのである。



 ◇ ◇ ◇


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