第65話 『呪い』の正体

「日本で『メメント・システム』を完成させたわたしは、のちに『黙示録』を自称し始める坊や達に、『呪い』の真相とメモリーチップの製造法を教えた。わたしは彼らに対し『報復』しないことを条件に、システムの普及を託した。その見返りとして彼らが求めたものが――」

「永遠の命……」

「そう。図々しいにも程があるってヤツね」

 サクラは困ったように笑い、さらに言葉を続けた。

「まあその時は適当にあしらってやったけど、わたしが行方不明になったあたりで彼ら焦りだしたのね。延命の効果が薄れて、どんどん自分達が老化していくことに」

「だから世界を裏から操り、血眼になって君を求めた?」

 サクラは小さく首肯すると、帽子のつばを人差し指で持ち上げた。

「でもロバート坊やがわたしを見つけた時、随分がっかりしたことでしょうね。記憶を失い、廃人となった魔女の姿を目の当たりにして」

「しかしロブがお前さんの復活を目論んでいることを知って、あえて泳がせた。というより怖くて手が出せなかったのか」

「そ。だからわたしは今度こそ、お望み通りに永遠の命をあげようと思ってね」

 くくく……と。

 その笑顔は、ひとが悪いことを企んでいる時のそれだった。

「その本の中には、コードのみで組み立てた擬似的な世界が構築してあるの。そこに『黙示録』のメンバーを封印し、全宇宙、全次元、全空間、すべてのことわりから切り離してやった。もう彼らがこの世界に干渉してくることはないわ」

「せ、世界を作ったぁ?」

「さすがに疲れたわぁ。細部に拘ってたら結局六日も掛かっちゃった。でも最後の一日は休んでカフェでお茶してたから、これで神様とタイ記録ね」

 サクラはペロっと舌を出した。

 唖然として話を聞いてハザマだったが、その顔を見るや吹き出してしまった。

「ハッハッハ。コイツはいい。まさに神の箱庭ってわけだ」

「それに一度検証してみたいこともあったしね」

「検証?」

「世間さまがアトランティスと呼ぶわたし達の人工島は、不可視の障壁に守られていた。それは見た者の短期記憶に干渉して『忘却』させる仕組みだったの」

「まさか……」

「そう。あの時の核攻撃以来、この世界からは短期記憶に関するコードが消失してしまっているのよ」

「それが『呪い』の正体か……」

「だから世界を一から作ることで、何か分かると思ったんだけど……結局、解決しなかったわ」

 悔しそうにサクラは言った。

「しかしまあ発想が壮大というか、何というか」

「オリジナルからのコピペが多いから、あんまり偉そうなこと言えないけどね」

「宇宙開闢の大事業を、大学のレポート扱いかよ」

「上手いこと言うわね」

 ふたりは遺体安置室という場所もわきまえずに笑いあった。

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