第51話 遺体

「お若いの。お主の上司は相当な切れ者だ。あの部屋を捉えるには、この場所以外の撮影ポイントはなく、しかも部屋中の照明を常に消し、防犯カメラも切り、意図的に生み出した死角の範囲のみで生活をしておった」

「だからこの映像が撮れたのは奇跡と言っていいだろう。もしくはそれすらも……」

 暗視と望遠にかすむ摩天楼。

 誰もが羨むロイヤルスイートの一室。その窓辺にひとりの少女の姿があった。

「な……」

「『サクラ』……さん?」

 ピートとフリッカが交互に呻くと、双子は同時に呟いた「魔女は復活した」と。

「『サクラ』はハザマと共に、完全にワシの追跡から姿を消した。ヤツは才能あるものに固執するようじゃから、ハザマに何かを見出したのかもしれんな」

「いずれにせよ、もはやお主らの出る幕ではない」

 しかし、そう断じられて黙っていられるほどピートは大人ではなかった。

 双子を押し退け、ベッドの端に手を掛けると老人を睨みつける。

「ガキの使いじゃねえんだぜ? こっちは被害者だって出してるんだ。ハイそーですかと引っ込んでいられるか!」

「ぴ、ピートさんっ」

 フリッカが彼の袖を引きつつ、哀願にも似た声を上げた。

 すると双子はピートの鼻先に一枚のホログラムディスプレイを出現させた。そこにはベッドに横たわる銀髪の男性が映っている。

「ロブ!」

 それはアメリカ本国のとある病院へと移されたロバート・ハルフォードの現在の姿である。薬を使い眠っているようだが、今の彼には自我が無い。

「この男についてはワシが何とかしよう。これでも『メメント・システム』に関してはエキスパートのつもりだ。『サクラ』を追い詰める有力な手段となろう」

「その見返りといっては何だが、ちとお主に頼みたいことがある――」

 ピートは視線を老人から、双子へと移した。

 まるでガラス玉のような無機質な四つの瞳が彼を見返している。気がつけば隣にいたオジーが告げた。

 友人の遺体を取り戻したいと――。

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