使徒.02
極光を残して別次元の座標へと消えるメダリオン。その力を目の当たりにしたブリッジクルー達から、感嘆の声が次々に上がる。
「あの力……味方ながら、いつ見ても驚かされます」
「そうだな――」
隣でそう話す副官に、キアランは浮かぬ顔で答える。盟父と呼ばれる存在を頂点として、七人の使徒を側近として置くユニオンの支配体制。それは絶対であり、現在まで一切揺らぐことは無かった。
だが彼はいま、ユニオンによる支配の根幹――盟父と使徒という支配の中枢に、言い知れぬ不和の疑念を抱いていた。
ユニオンが台頭する二十年前まで、地上はそれぞれ異なる言語、道徳、価値観が入り乱れる戦乱によって、それこそ地獄絵図の様相を呈していた。彼らが盟父を頂点とした宗教国家の体を成したのも、五百年で大きく乖離した価値観や道徳を統一するためだ。
盟父という、超越者の中でもさらに圧倒的な力を持つ、絶対の存在――その支配は、間違いなく大きな秩序と安寧を多くの人々にもたらしていた。
(例え、その支配に負の側面が生まれていようとも、盟父によって管理された秩序は、いまの世界にとって絶対に必要だ……)
メダリオンの消えた空間を見つめ続けるキアラン。
『――極東の地。第93番コロニーにおいて、目覚めの時が近づく我が神子を保護し、連れ帰ること――』
脳裏に、改めて確認した盟父からの勅命が蘇る。
(盟父が自らの言葉を偽り、部下を欺くことは絶対に無い。ならば、俺の感じるこの疑念は、あくまで猊下の意思ということになる……)
盟父の言う神子とは、必ずしも血縁とは限らない。この世界に拡散する無数の多次元技術。それら全ての技術の庇護者を標榜し、その全ての技術を把握すると話す盟父。彼にとって、多次元技術によって犠牲になった子供達や、逆にその恩恵を一身に受けて誕生した生命は、全てが守るべき存在であり自らの子供達という認識だ。
(恐らく、この93番コロニーに居るという神子も、多次元技術の犠牲者か、もしくは逆に、技術の粋を集めた最高傑作か……その何れかだろう)
キアランは思考する。
(……なぜだ?)
キアランはすでに、自らのその疑問の答えに辿り着きつつあった。だが、その答えが何を引き起こすのか、なぜその答えが導き出されるのかに。キアランは戸惑っていた。
(七人の使徒の中で唯一、盟父の実子である猊下が……なぜそのような感情を持つ必要がある?)
あの時、眼前に立つメダリオンから感じたあの感情の正体――。
あれは焦りでも、執着でもない。
――嫉妬だ。
(――危険だ)
「提督?」
一人、厳しい表情を浮かべ続けるキアランに、副官が訝しげに声をかける。
「うむ……ドローンの次元封鎖、開始しろ」
手元のモニターで僅かに作戦開始が遅れていたことに気付くと、キアランは手短に作戦の実行を宣言する。
「いかが致しました? お顔が、優れないようですが――」
いつも冷静な態度を崩さぬ副官が、僅かに顔色を変えてキアランを見る。
「いや――問題ない。作戦を急がせろ。ドローンの消滅を確認後、可能な限り速やかに上陸。コロニーに施された障壁の解除にかかれ」
(――真正面から止めようとして、止められる相手ではない。可能性があるとすれば、猊下よりも早く、俺達が神子を保護すること――)
キアランは一度目を閉じ、呼吸を深くする。成すべきことを捉え、出来ることを行う。それが、彼が幾度と無く繰り返してきた思考回路だ。
「あの三人にも伝えろ。今度こそ、貴様らの出番だとな」
再びブリッジ前面のモニターを見据えるキアラン。そこには、艦隊を苦しめたドローンの群れが、次々と別次元へと送り込まれていく様子が確認できた。
(決して、早まった真似はしてくれるなよ。お前にだって、家族がいるんだぞ)
キアランは一人。すでに内部へと向かったであろうメダリオンに祈った――。
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