第1話 たまには一緒に…

「おーい、おきろー。生きてるか〜?おーい!もう起きろよ!優」

またこいつの声か……。

「ん〜〜、もう少し寝かせてよ智也。まだ眠いよ」

「もうホームルーム終わったぞー。今日はすぐ帰るんじゃなかったのかよー」

そうだ。こんなところで油を売ってる場合ではない。

早く帰らないと。

教室の掛け時計を確認する。

少し急いだ方がよさそうだ。

机の中の教科書を少し雑に鞄に入れ、教室を出ようとした時……

「ちょっと待てよー。起こしてやったのに、それはないぜー」

面倒くさい。シカトして帰ろう。

どうせそのうち追いつくだろうし。

少し急ぎ足で階段を降り、自分の靴箱までたどり着くと、智也がヒイヒイ言いながら走って追いかけてきた。

今日は初めて姉さん達と帰る日だ。

待たせる訳にはいかない。

急いで靴を履いて、小走りで校門まで向かう。

するとそこには周囲とは違う制服を着た2人の姉妹が立っていた。

「おいおい、あれが噂の美人姉妹かー?」

「うるさい。お前にはやらないからな」

「はいはい、わかりましたよー」

「ていうか、なんでここまで来ちゃったんだよ……」

聖経学園。優の通う私立の中高一貫校。

そして、県内唯一の男子校だ。

ここに姉たちが来るのは非常にまずい。

なんせ、ここは男子校という名の野獣の檻なのだから。

これでは、待ち合わせ場所を指定した意味がない。

「目立つ前に帰らないと……」

幸い、部活動があるため、校門付近には生徒があまり居ない。

帰宅部エースの実力を見せつけるいい機会だ。

スクールバッグをリュックサックのように背中に背負い、走る準備をする。

すると、お揃いのセーラー服を着た姉妹がこちらに気着き、元気よく手を振って−−–

「優、早く〜!」

−––大声で呼んでくれた。うん。うれしいよ。でもさ……

「おい、みんな!女子がいるぞー!数少ない話せる機会だぞ!」

グランドの方から声が聞こえてきた。ついでに大勢の足音も。

「あーもう!美冬姉さん、なにやってんだよ…智也、急ぐぞ!」

「あいあいさー!」


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僕らの夏はまだ終わらない 夜咲 蓮 @yozaki_ren3500

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