第103話 四章 ラファエルの決断

「……私なんか助けずに、そのお金でお母さんに会いに行くこともできたのにお前は本当にお人好しだな……」


エマがいつもの無表情で言った。


「心配はいらないわ。

 さっきは言いそびれちゃったけど、事務所の天井裏にハンターが金を隠し持ってるの。

 それがあれば十分に足りるわ」


クララが呆れたように笑った。


「……ほんと抜け目ねえな」


「私じゃないわ。ヴィジョンが完璧なのよ。

 だからラフィ、安心してお母さんのいる場所に向かうといいわ」


「何をそんな急に」


ラファエルは戸惑った。


「ずっと考えてたのよ。

 ハンターの死はまだ誰も知らない。

 いますぐ事務所に行って身分証を手に入れてくれば、きっと行けないことはないはずよ。

 お母さんが例え亡くなっていたとしても、お墓だけでも行きたいでしょう?」


「そうだけど……けど、そうしたら二人はどうするのさ?」


「……適当に、なんとかなる。

 いままでもどうにかやってこれたんだ。

 これからだって……」


「嫌だよ。

 二人を置いていきたくなんかない」


ラファエルにとって自分で決めた道を進むということは冒険だった。


ずっと他人によって定められたレールを歩んできたように思う。


これからの人生は自分で決めるべきだった。


自分のしたいように、正しいと思える道を進みたかった。


「でも……」


「私たちといるのは危険よ。

 世間から隠れ続けるのは簡単じゃない。

 またいつハンターみたいなのに命を狙われるか分からないし……」


ラファエルはハンターの事務所にあった目撃情報の数々を思いだした。


あれだけの情報網が彼らにはあるのだ。


「お母さんにはみんなで会いに行くと約束したんだよ。

 だから一人では絶対に行かない」


「本気なの?」


「もちろん」


「……この状況でマノンやエレーナ、マリアンヌをどうやって探し出すつもりだ?」


 ラファエルはきっぱりと言い放った。


「半獣人ハンターになる」


「え?」


「……はぁ?」


 ラファエルの突然の宣言に二人がぽかんと口を開けた。

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