第95話 四章 エマ=アリス
「そんなこと」
アリスは故郷で隣に住んでいた幼なじみだった。
「だってラフィは迎えに来てはくれなかった!
私のこと、忘れちゃったんだってっ」
アリスの父は元炭鉱夫だったが、事故で足を悪くしてからは年金で酒浸りの日々を送っていた。
暴力に耐えかえて母親は家を出て行き、アリスだけが残された。
よく体に痣を作っていたアリスをラファエルの母は不憫に思い、ラファエルと同じように優しく接した。
ラファエルとアリスは兄弟のように過ごし、小さな村でどこへ遊びに行くにも一緒だった。
だが母の病気が状況を悪化させた。
療養のために引っ越しをすることになり、幼なじみと母とも呼べる存在を同時に失うアリスのショックは大きかった。
アリスはふさぎ込み、ラファエルは落ちついたら必ず迎えに行くからと約束した。
「あれから私はお父さんと二人で……辛い毎日だった。
ラフィが迎えに来てくれるのを信じて……ずっと耐えてきた。
でもやがて半獣人(デパエワール)の兆候が現れた。
どんなに辛く当たられても、親だと思っていたのに。
愛しているからこそ、こんな仕打ちをするのだと思っていたのに。
お父さんはたった酒瓶二本で私を売った。
でもほっとしたんだ。
やっと父の呪縛から解き放たれるんだと。
こうしていまの私がいるの」
「アリス……」
「だからもう誰も信用しないし誰も頼らない。
私は私の生き方を貫くだけなの。
さあ、手を離して」
「そんなっ。
忘れていたわけでも、約束を破ったわけでもないんだ。
ただ、まだ時間が……」
「言い訳は聞きたくない。
そのあいだ私は父親に辱められ、見世物小屋ではもっとひどい仕打ちも受けた。
私が生きていることに意味を見いだすとするならば、いまこの瞬間に悪党を撃ち殺す以外にないわ」
「そんな……」
一部始終を聞き遂げたクララが、ハンターの襟首を掴んでエマの前に突きだした。
「エマがそれだけの覚悟で言ってるんだ。
ラファエル、お前は偽善だ。
さっき死体を見ただろ。
可哀相以外に理由がないのなら身を引いた方がいい」
「だめだっ!」
クララが吠えた。
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